第28話 入学式
スカーレット学園の入学式。
お父様とお母様、使用人のみんなに見送りをして貰った。
「くれぐれも他の方々の迷惑になる行動はしないこと。脱走なんてもってのほかです。わかりましたか?」
お母様が忠告する。
「私が何歳だと思っているのですか。お母様。もうマリアは大人なんです。問題行動なんてしませんよ。」
「先月も黙って屋敷から脱走している人間だから言っているのよ。」
「これから不自由になるので気分転換をしたかっただけで…。」
「許可を得て行動しなさい。」
「…ごめんなさい。」
「学園でも勝手な行動をしないこと。わかったわね?」
「はい。お母様。アーネルド家の娘として恥のない行動を心掛けますわ。」
「不安だわ…。」
お母様は最後まで不安そうに私を送り出していた。
「次に会えるのは夏休みだな。マリオも帰ってくるから久しぶりに四人で旅行にでも行こう。初めての学園生活は慣れないことも多いだろうけど、マリアの持ち前の明るさがあればきっと大丈夫だよ。頑張りなさい。」
お父様はいつも優しい。
「ありがとうございます。お父様。旅行楽しみにしていますね!」
「……ぁあァ…ひぐっ…お…っ…ズっズッ」
「…やっ…ズビ…イッ…エッ…」
レイとアリサは号泣しすぎて何を言ってるかわからなかった。
「そんなに泣かないでよ。夏休みなんてすぐなんだから。心配しないで。絶対帰ってくるからね。」
みんなにお別れの言葉をかけて私はスカーレット学園へと旅立った。
入学式。
見覚えしかないその姿を見て確信する。
このゲームのヒロイン。エナート・マナ。佐野葉月ちゃんだ。
「前世の私そのままじゃん…。」
黒髪ロングのその姿は前世の佐々木華そのものだった。
アルテミスの願望をそのまま再現しているようだ。
本来のゲームのヒロインの姿は知らないが確実に改変されている。ヒロインのビジュアルを変えるなんて原作ファンを敵にしているだろ。恋愛ゲーム脳のくせして設定をぐちゃぐちゃに変えている。
…まぁ魂の入れ替えをしている時点でもうぐちゃぐちゃにしているのだろうけど。
すぐに声を掛けて話したい気持ちをグッと堪えて入学式を行う。
入学式の挨拶は攻略対象である生徒会長のガーネット・スリーが行う。
一応目を合わせないように俯きながら入学式に参列する。
攻略対象、ヒロイン、悪役令嬢は特進クラスに入っている。
私は平々凡々なBクラスだ。Bクラスに入り、当たり障りのない普通の自己紹介を終える。
今日は自己紹介だけで寮に戻ることになった。
寮は全員一人部屋だ。しかも結構広い。貴族のお嬢様達の部屋なら当然なのかも知らないが、まだまだ前世の庶民の感覚が抜けきっていないので、とても贅沢に感じてしまう。
「一人部屋だし、誰にも見られないよね…。」
寮に着いて真っ先にやりたかったことは葉月ちゃんに会いに行くことだ。こっそりと部屋に入れば誰にも見られることなく、怪しまれることもなく話をすることが出来るだろう。部屋割りの紙が大々的に掲示板に張り出されていたので葉月ちゃんの部屋の場所もバッチリわかる。
部屋にダンボールがたくさん並んでおり、荷解きはまだ全然やっていないのだが、早く会いたいので葉月ちゃんの部屋に行くことにした。それに今はみんなが荷解きで忙しいはずだから人目にもつかないだろう。
意を決して葉月ちゃんの部屋へ向かおうとすると
「おい。」
部屋のベランダから声がした。振り向くと
「え!?お兄様!?」
部屋のベランダにマリオお兄様がいた。