第278話 懐かしいやりとり
豪華客船の旅を終えて、私達はキッカ国へと到着した
明後日はニックのヴァイオリンのコンクールだ
ニックは明後日に備えて体調管理や演奏の最終調整をするので
私は1日暇人だ
ぶらぶら歩こうにも私は有名人だから街中を出歩くだけで街中がパニックになってしまう
私は男装をして今日は出掛けることにした
どこからどう見ても街中にいる普通の少年に変装をする
サスペンダーの服を着て頭はベレー帽を被った
「ふふーん。どうですか?完璧な変装でしょう?変装も3年目になるとクオリティが上がっていると思いません?」
私は今日一緒に出掛ける護衛騎士のマリオお兄さんに話しかける
「顔が露出しすぎているのが気になるな。いくら男装でも顔の造形が美しいだけで目立つだろう?以前のように顔を隠す変装の方が安全だと思うけど…」
「男なら誰も私だって思わないよ!瞳の色もカラーコンタクトで変えるし大丈夫!」
「不安だ…」
「てゆうかどうしてマリオお兄様が出掛ける相手なの?レイは?マリオお兄様と出掛けたなんてローズ様に知られたら私殺されそうで嫌なんだけど。」
「レイは護衛に集中したいから陰から護衛しているよ。」
「なんで?」
「そりゃあマナがマオ君に殺されかけて気が張っているのもあるし…キッカ国では昨年襲われただろう?今年もマナを狙う悪い奴らは隙を見て襲ってくるはずだよ。いつもより危険が付き纏うからね。」
「そんなに警戒しなくても襲われたって私1人でも対処出来そうだけどね。」
「確かにマナは強いけどさ。何が起こるかわからないだろう?誰かが人質に取られて大ピンチになるかもしれないし。」
「それなら私よりもニックの護衛をした方がいいんじゃないの?」
「ニックにももちろん優秀な護衛は付いているよ。俺達はマナの護衛騎士だからニックの護衛は付かないよ。」
「そっか…じゃあ私はマリオお兄様を今日独り占めに出来るってことだ。」
「普通に買い物するだけだ。」
「こうして2人で買い物に出掛けるのはアーネルド・マリアの時以来ですね。懐かしい。」
「そうだな。」
「童心に返って楽しみましょうね!」
「少しは大人になって貰わないと困る。」
私はマリオお兄様と街へ歩く
男の兄弟が街へ遊びに来たように
「わぁ!すっごく美味しそうなクレープ屋さんがあるよ!」
「甘すぎるんじゃないか?」
「クレープはおかず系の物もあるから!」
「へぇ。じゃあ俺はこのツナサラダのクレープにしようかな。」
「よし!決まりね!すみませーん!このツナサラダのクレープと、チョコバナナクレープのホイップ増し、バナナ増し、カスタードクリームトッピングでお願いします!」
「畏まりました〜。」
「何故クレープの注文に慣れているんだ?マリア。」
「マナですよ!マリオお兄様!」
「あ。すまない…つい昔と同じ感覚で…」
「えへへ。今の私は男の子なんですから〜。気をつけてくださいよね!」
「すまない…」
「でももう2度と呼ばれないと思っていた名前だから…嬉しかったです。」
「呼んで欲しいならいつでも呼ぶぞ。」
「いいえ。感傷に浸ってばかりでは前に進めませんから。」
「別に誰も気にしてないと思うけどな。お前がマナでもマリアでもどっちもお前だ。」
「アハハ!マリオお兄様!不用意にその名前を出すと危ないですよ?」
「あ…すまない…隠密行動は向いてないな…」
「マリオお兄様って冷静沈着のように振る舞っているけれど、実は激情型ですもんね。そのギャップでローズ様に迷惑かけてるんじゃないかと私は心配で心配で…」
「余計なお世話だ。」
「ちゃんと大切にしていますか?困らせてないでしょうね?」
「それは…その…」
「あぁ…可哀想なローズ様…」
「おい!まだ何も言ってない!!」
「恋愛初心者のマリオお兄様がスマートにローズ様をリード出来るわけないですよね…」
「失礼な!!俺は教育通りにデートに誘って仲を深めている!」
「へぇ。どこにデートしたんですか?」
「演劇に…」
「いいじゃないですか。楽しめましたか?」
「いや…恋愛物の演劇だと聞いて行ったんだが…悲恋の話で…泣かせてしまって…」
「なにやってんですか…」
「昔のトラウマが蘇ったとかで…」
「最悪の地雷踏んでるじゃないですか…」
「それで過去の男の話とかされて…その…嫉妬をしてしまい…」
「え…まさか…?その先は聞きたくない!怖すぎる!」
「ちょっと怒鳴ってしまい…」
「今ここでマリオお兄様処刑しようかな。ローズ様を傷つけた罪で。」
「いや…本当に最低なことをした…次の日に冷静になって謝ったけれど…」
「許して貰えたのですか?」
「うん。」
「女神の優しさのローズ様に感謝しろよ。いつ婚約破棄されても文句言えないからね。」
「別れたくない…嫌われたくない…」
「フフッ。まぁ愛があれば何とかなりますよ!頑張ってください!」
「お前は?どうなんだ?」
「お前とかやめてもらえますか?名前で呼んでくださいよ。」
「今のお前の名前なんだよ。」
「あ。そっか。うーん…ジェパードで。」
「ジェパード君の恋愛は順調なのか?」
「順調といえば順調ですし、順調じゃないといえば順調じゃないですね。」
「意味がわからん。」
「ずっと護衛してるんですから状況はわかっているじゃないですか。意味わかるでしょう?」
「今は幸せだけど、将来はどうなるかわからないからだろう?」
「そう。」
「でもジェパードはキッカ国へと来年留学することは決めているんだろう?」
「うーん…ほぼね。8割ぐらいは。」
「あとの2割はハーバランド国に残って王妃になる花嫁修行でもするつもりか?」
「わからないけれど…そういうことになるかな。」
「クリスもキッカ国に連れて来ることが1番いいんだろう?クリスなら喜んでついてきてくれそうじゃないか。」
「そうかな。クリスだって私と出会う前は国王になる為に人生を捧げていたんでしょう?そんな大事なことを…捨てるなんてやっぱりやりたくないんじゃないかな。私が望めばキッカ国に来てくれるだろうけど…本音は私に王妃になって欲しいんだと思う。」
「それは…そうかもしれないけれど…」
「クリスはキッカ国に来て幸せに暮らせるのかな。」
「ジェパードと一緒なら幸せだろう?」
「そうかな。私はそう思わない。私がピアニストになる夢があるように、クリスには国王になる夢がある。夢を捨てて私に付いてきて後悔させない自信がない。キッカ国でクリスと仲良く暮らす生活が想像できない。」
「どこかで妥協しないとダメなんじゃないか?ハーバランド国でピアニストとして生きていけばクリスと離れることもないだろう?」
「嫌よ。こんなに努力してせっかくキッカ国の巨匠のカイザー様直々に声を掛けて貰えたんだから。こんなチャンス絶対にない。」
「じゃあどうするんだよ。」
「わからない。きっと私はどちらを選んでも苦しむことになる。」
「それでも愛さえあればなんとかなるさ。」
「適当なこと言って…」
「お前がさっき俺に言ったんだろうが。」
「プッ。そうだっけ?」
「そうだよ。ジェパードがどの道を選んでも愛さえあればなんとかなるさ。」
「そんな気がしてきた。」
「そうだそうだ。案外上手くいく。」
「私達、恋愛下手くそだよね。」
「そうだな。」
「アーネルド家のお父様とお母様も恋愛下手そうだったし、仕方ないね。」
「不器用だからね。それでも愛があるから何とかなってる。」
「愛ってすごい。」
「ジェパードの得意分野だろう?」
「苦手分野だよ。」
「ヒロインのくせにな。」
「お兄様に育てられたせいだ!」
「お前俺の言うことなんて何も聞かなかったくせに。濡れ衣をするな。」
「じゃあ今から言うこと聞くからアドバイスくださいよ。」
「え…?そうだな…すぐに電撃を喰らわせて気絶させるのやめろよ。可哀想だぞ。」
「お兄様だってやってるくせに。」
「何故知っている!?」
「カマかけただけですよ…照れ隠しで電撃で気絶させるなんてひどい…」
「お前もだろうが!反省しろ!」
「本当に私達恋愛ポンコツすぎるね。」
「下手くそすぎる。もっと余裕のある大人の男になりたかった。」
「アハハ!心は幼稚園児ですからね!!」
「うるせぇ!!お前もだろうが!!」
マリオお兄様から電撃が流れる
「あ!ほら!また衝動的に電撃攻撃してる!」
「人を怒らせる方が悪い!」
「それマリオお兄様いっつも言うよね!沸点低すぎだから!大人の男の余裕なんて夢のまた夢だよ!バーーーーカ!!」
「俺はお前にしか怒ったことはない!!人を馬鹿にする方が悪い!!!」
電撃で攻撃してくるので私も同じ電撃で攻撃を相殺する
バチバチの兄妹喧嘩をしていると
「何やってるんですか…しょうもない喧嘩して揉め事起こさないでくださいよ…。」
とレイが止めに入ってきた
「黙れ!レイ!こいつは一回痛い目に遭わないと学習しない!!」
「暴力反対!!力で解決しようとするバカ!!バカバカバカ!!!」
「いい加減にして下さい。仲直りしてください。今すぐに。」
低音の怒りに満ちた声でレイは私達に言った
あまりの剣幕に私達は萎縮して我にかえる
「すまなかった…」
「ごめんなさい…マリオお兄様…」
レイが仲裁に入り私達の久しぶりの兄妹喧嘩は収束した
本当に昔に戻ったようで懐かしい気持ちになった