第275話 最後の朝
朝が好きだ
朝早く起きてマナに会いに行く長閑な小道が好きだ
今日は何を話そうか
どんな顔をしてくれるだろうか
マナを考えながら歩き
恋に焦がれるこの時間が好きだ
魔塔の扉を開けると
「いらっしゃい。レックス。」
優しい笑顔で出迎えてくれるマナが大好きだ
「お邪魔します。マナ。」
いつも新婚みたいだななんて浮かれてしまう
「今日は重要なお知らせがあるんです。」
「何?」
「私、クリスと恋人同士になりました。」
「…。」
浮かれていた心が地に落とされてぐちゃぐちゃにされる
「だから…レックスの気持ちには応えられないです。ごめんなさい。」
「そっか…はは…思った以上にきついな。これ。」
「ごめんね。」
「謝らないで。マナは何も悪くないんだから。」
「私…毎朝レックスが魔塔に来てくれて一緒に朝ごはんを作るこの時間が大好きだった。マオが…魔王になった時、しんどくて苦しかった時、毎朝変わらないレックスの笑顔に救われてた。レックスのポジティブで太陽みたいな明るさに救われていたのは私の方だった。私は…たくさんたくさんレックスから元気を貰えたのに、私からは何も返せてない。それどころか傷つける結果になった。だから…ごめんなさい。」
「何言ってんだよ。毎朝俺だって楽しかった。魔塔に着くまで歩く時間もマナに会えるとわくわくして歩く時間が好きだった。マナに出迎えて貰えるのが新婚みたいで浮かれいた。一緒に雑談しながら朝食を作るのも恋人みたいで嬉しかった。だから…泣かないでマナ。俺は幸せだ。こんなにも素敵な恋を出来た。マナに恋をしてよかった。この世界が何度やり直しても俺はきっとマナに恋をする。敵わない恋だとしても俺は絶対にマナに会いに行く。選ばれなかった恋だけど、とても幸せな恋だった。泣かないで。謝らないで。俺は可哀想なんかじゃない。俺は誰よりも素敵な恋が出来た幸せ者だ。」
「うん…うん…ありがとう。レックス。レックスが恋することは素敵なんだって教えてくれた。本当にありがとう。」
「幸せになれよ。マナ。」
「うん。この恋を大事する。」
「俺はもう…朝食を作りに来ては行けない…よね。」
「うん。クリスが怒ると思うから。」
「大事にされてるクリスが羨ましいよ。」
「うわっ!!レックス何でいるんだよ!!」
階段からクリスが降りてきて言う
「クリス!?こっちのセリフだよ!何で魔塔にいるの?」
「俺は昨日魔塔に泊まったからだよ。」
「と…泊まったの!?マナ大丈夫だったの!?変なことされてない!?」
「大丈夫だよ。私の方が強いんだから。変なことしようとしたら電撃で気絶させたらいいし。」
「こ…恋人なのにそんなことされるの…?」
「そうだ!クリスの言う通りだ!恋人なんだから何をしてもいいだろうが!!」
「そうなの?」
「いや!マナが正しい!すぐに電撃で気絶させるべきだ!」
「照れ隠しで電撃をするのはやめろ!一生イチャイチャ出来ないぞ!!」
「10年後ぐらいにすれば慣れるよきっと。」
「遅すぎだ!!」
マナは10年間何もしないつもりなのか…?
生殺しすぎる
さすがにクリスに同情してしまう
「朝食が出来たからとりあえずみんなで食べようよ。」
「おい!クリスは何故当然のようにマナと一緒に朝食を作ってるんだ!」
「だって毎朝一緒に朝食作っていたし…」
「毎朝!?お前…!!そんな抜け駆けしてたのか!?」
「スカーレット学園ではクリスがマナを独り占めしていたじゃないか。朝の時間ぐらい、いいだろう?」
「ダメだ!もう2度と来るな!浮気だ!浮気!!」
「嫉妬深くて心狭い男はすぐに振られるぞ。」
「俺達は未来永劫別れることはない!フォーエバーラバーだ!!」
「マナ。嫌になったらいつでも別れるんだぞ。」
「フフッ。肝に銘じておくよ。」
「そんな日は一生来ないから大丈夫だ!」
「マナは…クリスのどこが好きなの?」
「え!?」
マナは戸惑い目を泳がせている
クリスは期待に満ちた眼差しでマナを見つめる
「…全部好き。」
マナがそう答えるとクリスが全力でマナを抱きしめる
「嬉しい…!!俺も全部好き!!!おい!見たか!俺達はラブラブなの!お前の付け入る隙なんてないんだよ!!」
「…俺さ。マナの全部好きだけど…マナの男の趣味だけは最悪だと思う。」
「私もそう思う。」
「負け惜しみするんじゃねぇ!もう帰れ!」
「朝食も食べ終わったし…帰るよ。じゃあお幸せに。」
「レックス…ありがとう。」
最後は謝罪の言葉ではなく感謝の言葉をくれた
俺は魔塔から出て行き男子寮へと帰る
「はぁ…辛い…」
これから毎朝どうやって過ごせばいいのだろうか
マナに会えない朝を
マナを忘れて生きていくのが幸せだというなら
俺は一生不幸で構わない
敵わない恋心を
辛いこの気持ちを
マナを思う最大限の恋心を捨てることなんて出来ない
マナと過ごした特別な朝の時間を
死ぬまで反芻して俺は生きていく
誰かが俺を不幸だと言っても
俺は胸を張って言う
俺は幸せだ