第273話 代償
「いやぁ。流石に私も今日は肝が冷えたよ。まさかマオ君とチーノの待ち合わせ場所を魔塔にしているなんてね。デートを楽しんでいるマナとクリスと鉢合わせすることになって世界崩壊の危機にさせるなんて…私の配慮不足だったよ。」
「チーノがブラックアンドホワイトのチケットのお礼にスリー様に直接菓子折りを渡してお礼がしたいって言うから…」
「あぁ…なるほどね。確かに今日のチケットは手に入れるのにとても苦労したよ。それでもそれだけの価値があるチケットだと思ってね。マオ君がマナ以外のことに興味を持てるようになれるチャンスだったからね。マオ君が外の世界のことを知る機会はあまりない。チーノと共に喜劇を見に行くことは絶好のチャンスな訳だ。マナのいない世界で楽しく過ごせるようにすることが私の目的だからね。苦労して手に入れてよかったよ。喜劇はとても楽しめたようだからね。」
「僕はスリー様の掌の上で転がされているわけだ。貴方の思惑通りになったのだからね。グルーとリバーのもスリー様の工作員か?」
「まさか。彼らは本当に偶然だよ。チケット2枚取るのにも苦労したのに、4枚も取れるわけないだろう?」
「そうですか…」
「フフッ。クラスメイトのグルーとリバーとも仲良くなって…友達が出来てよかったね。」
「…そうですね。今日は本当に…とても楽しかったです。こんなに笑ったのは生まれてきて初めてでした。」
「私の思惑通りに外の世界を楽しんでくれるようになってよかったよ!今朝、マナを殺しかけて世界崩壊させようとしたなんて嘘みたいだね!」
「…本当に申し訳ございませんでした。」
「どうしてマナを殺そうとした?」
「マナが…オシャレをしていたんだ。クリスとのデートの為に。それが…どうしても許せなくて…」
「嫉妬に駆られて衝動的に殺そうとしたのか?」
「はい…」
「マナはクリスと恋人になったよ。」
「!?」
「マオ君は負けたんだ。どうする?この世界は失敗作かい?マナを殺してやり直すかい?」
「…いいえ。マナを殺して世界を崩壊させることは2度としないと約束します。」
「どうして?マナが手に入らない世界はやり直した方がいいんじゃないのか?」
「マナが中心の世界は…正直苦しい気持ちが多かったです。マナが僕を魔王から人へと変えてくれたことは本当に感謝しています。でも…マナに恋をしてもマナは1度も僕を男として意識なんてしてくれなかった。苦しかった。僕はマナと恋人になりたかった。魔王に戻って大人の姿を手に入れてやっと…男として意識してくれて嬉しかったけど…それでもマナが恋する瞳で見つめる先はクリスだけだった。それでも諦めずにマナに愛されたくて頑張ったけど…心が折れてしまった。結局僕は最愛のマナを殺してしまう選択をしてしまった。この苦しみから逃れたくて…衝動的に行動した。」
「正気に戻ったからもう2度とやらないと?」
「はい。」
「そんな話ではいそうですかで許されると思う?これから先、クラスでもマナとクリスはバカップルのようにイチャイチャするかもしれないよ?それを見てマオ君は衝動的にマナを殺そうとしないと本当に言い切れる?」
「マナのいない世界でも僕は楽しく生きているいけると学びました。もうそんなことは2度としない。」
「マナを手に入れることにあんなに執着していたのにそんな話を信じろと?」
「マナのいない世界は心地良かったよ。マナに囚われて生きてきた自分がバカみたいだと思えるほどにね。100年の恋も冷めるって言うじゃないか。そんなに信用出来ないなら僕はもう2度とマナと話さないと約束してもいいよ。」
「マナが嫌いになったのか?」
「今でも大好きだよ。でも…僕は失恋したんだ。僕の存在はマナにとって恐怖になるだろうし、僕にとってもマナは毒のような存在だ。僕達はもう関わらない方がいい。そうだろう?」
「マナを諦めることが出来るのか?」
「今すぐには…無理だけど。チーノとグルーとリバーと過ごす時間を増やしていけば、いつかマナを諦めてマナのいない人生を楽しめるようになる。僕はそう確信しているよ。」
「そう…それならもう世界を崩壊させる魔王の力は一生必要ないよね。」
「必要ないよ。」
「そう…それならよかった。」
スリー様は魔法石を発動させて白魔法を使用した
スリー様の手には白魔法を纏い
その手で僕の体を貫く
「がはっ…」
スリー様は僕の心臓を引き摺り出した
「魔王だから心臓がなくなったぐらいでは死なないだろう?心臓は私が預かっておく。安心して、管理はミケ様にお願いするから。ミケ様はマオ君の最大の味方だ。この心臓は大切に保管してくれるよ。」
「僕を…殺すつもりか?」
「マナがマオ君を殺すことを望んでいない。だから殺さないよ。私の目的はあくまで弱体化だ。マオ君だって魔王の力なんて必要ないだろう?」
「フッ…心臓がなくなったことで、体の力が抜けて丁度いいよ。」
「それはよかった。さすがにマナを殺そうとしてお咎めなしなんて甘いことは許さないよ。王様にもマオ君の心臓を取り出して弱体化させたと伝えて、今回のことは許してくれるように説得してあげるよ。」
「スリー様はお優しいですね。」
「フフフッ。そうだろう?マオ君が弱体化したと知れば王様はマオ君暗殺を企てると思うけど、死なないように気をつけてね。マオ君が死んだらマナが哀しむからさ。」
「マナを哀しませることは僕もしたくないからね。適当にあしらって暗殺者には帰って頂けるように努力するよ。」
「じゃあ…お元気で。また様子を見に来るよ。」
「ねぇ。マナが中心の世界は楽しいかい?」
「しんどいよ。楽しいとは言えないな。それでも…マナが幸せになれるように側にいたいんだ。マナに振り回される人生が波瀾万丈で、マナのいない味気ない普通の日常に戻れる気がしないな。」
「フフッ…ブラックアンドホワイトのライブに行けばいいよ。人生観変わるよ。」
「変わりたくないからいいんだ。マナに振り回される人生を手放したくない。」
「そう…」
わかるよ
僕だって昨日まではそうだったから
マナのいる特別な日常は
他では絶対に味わえない貴重な時間で
マナ中心の世界しか過ごしたくないと思っていた
普通の日常は
友達と笑い合えるなんでもない日々は
とても楽しかった
僕がマナを離れる理由なんてそれだけで十分
早くマナを忘れたい
普通の友達と笑い合える日常を
僕は生きていきたい
夏休みはチーノとたくさん遊びに行こう
グルーとリバーも呼んで海に行こう
馬鹿みたいに騒いで
腹から声を出して笑おう
あぁ…やっぱり
この世界は美しい