第267話 元気の源
どうしよう
マオが魔物のモノマネをしてから全く話さなくなってしまった
どうして笑ってあげられなかったんだろう
唐突でびっくりしたのもあるし
本当に何かわからなくて戸惑ってしまった
何故私には機転というものがきかないんだろう
マオがあきらかに傷ついた顔をしている
私の為に頑張ってくれたのに…
気まずい
私がコミュニケーション能力が高ければ良かったのに
クラスで孤立するコミュ障がうまく会話を広げることなんて荷が重すぎる
「あ…あの…マオ。」
「何?マナ。」
「えっと…何かして欲しいことあるかな?私に。」
なんとか元気を出してもらおうと必死に話しかける
「僕はいつもマナに気を遣わせてばかりだね。」
「え!?そんなことないよ!!ただ元気ないから…」
「フフフ…どうせ僕なんて破壊することしか脳がないだ。人を幸せにさせるなんて夢のまた夢さ…」
「そんなことないよ!マオがいるだけで毎日がハッピーだよ!!ね!!」
「僕の存在が世界を破滅させる異分子なんだ。みんな僕なんていなくなればいいって思ってるんだ…」
「そんなこと言ったらミケお爺ちゃんに怒られるよ!ダメ!!マオと一緒に暮らすことを夢みて毎日頑張ってるんだからね!」
「冗談だよ。マナに心配されるなんて情け無いからさ。気にしないで。」
「でも…」
「僕は大丈夫だから。」
「でもさ。私が何かしたいって言ってるんだから、ラッキーみたいな感覚で何かして欲しいことない?」
「えぇ…」
「せっかくだから…ね?」
「じゃあキスして欲しい。」
マオがそう言うとすぐにクリスがマオのお腹を腹パンする
「ふざけるな。失敗したくせにご褒美貰おうとするなんて…」
「だってマナがご褒美あげるっていうから。」
マオは腹パンされても全く痛くなさそうだった
魔王だから当たり前か
「えっと…キスはダメかな…」
と私が言う
「えぇ…どうして?」
「どうしてじゃねえよ!当たり前だ!!」
「だってマナはスリー様とはキスしようとしてたし…」
「ハァ!?!?」
クリスが私を睨みつける
「どういうことだ?」
珍しく恐ろしい気迫で私に詰め寄ってクリスが言う
「えっと…振られちゃったから未遂だよ?」
「何故そんなことをした?」
「す…好きだったから…」
「俺より?」
「昔は…そうですね…今は違うから!はっきり振られちゃったし!!」
「振られていなかったらマナはスリーと恋人になっていたってこと?」
「たらればはやめよ?私がスリー様に好きになってもらえることなんてないんだからさ。」
「今スリーがマナのことを好きだと言ったら?」
「ありえないわよ。昔の振られた話を蒸し返さないでよ。スリー様は私なんか絶対好きにならないから。」
「じゃあキスして。」
「ハァ!?」
「今1番好きな男は俺だって証明しろ!!」
「するわけないじゃん…」
「なんでだよ!スリーには出来て俺には出来ないってことか!?」
「スリー様はこっちから攻めないと振り向いてくれないからなの。クリスなんて勝手にストーカーする問題児を甘やかさないよ。」
「甘やかしてよ!俺は愛に飢えてるよ!!」
「毎日一緒にいるくせに。贅沢言わないの。」
「もっと贅沢したいよ!ずっと思ってたけれどマナは俺にだけ塩対応すぎるよ!!」
「優しくしたら何をされるかわからないもん…」
「俺は紳士だから大丈夫だよ!」
「絶対嘘。」
「うぅ…傷ついた…癒してくれないと無理…」
「…何して欲しいの?」
「キス…」
「却下。」
「じゃあ…歌ってよ。」
「え?」
「マナが歌って踊るところがみたいな。」
「えぇ?」
「ほら。傷ついた俺達を癒してくれよ。マナ。」
「マナが歌ってくれたら元気になれそう。」
「マオまで…」
2人から期待の眼差しで見つめられる
「え?今?科学博物館はどうするの?」
「今見たい。」
「僕も。」
少し考えて私は答える
「…じゃあ人目のつかないところで。」
私達は風魔法で科学博物館の屋上へ移動する
ここなら誰も入ってこない
「うーん…伝説のライブの曲はやりたくないから…シャイニングツインスターズの曲でいい?」
「シャイニングツインスターズってなんだ?」
「レックスとフェイが結成したアイドルの名前だよ。」
「そうなのか。俺は歌ってくれるならなんでもいい。」
「僕も大丈夫です。」
私はカチッと意識を変えてアイドルモードで話す
「クリス!マオ!今日は私の為に会いに来てくれてありがとう!!久しぶりに歌って踊るからミスも多いかもしれないけれど…2人が元気になるパフォーマンスをするから!よーーーーく見ててね♡」
演奏なしのアカペラで歌って踊るのはかなりきつかったし、2人用の曲だから死ぬほど体力使ったけれど
この3分間だけ2人が私に夢中になるように全力でパフォーマンスをした
終わった後、血反吐を吐きそうになったけれど
白魔法をかけて全快する
こういうとき白魔法は便利だなぁ
「かっこいい…」
「凄い!凄い!!凄い!!!さすがマナだよ!!」
2人とも大満足してくれたようで興奮気味のまま大きな拍手をしてくれた
「ありがとう…」
「アンコール!」
「アンコール!」
「いや…無理…疲れた…」
「白魔法で回復したくせに!」
「最強のアイドルのくせに!」
「うるさい!元気になったならもういいでしょう!?」
「マナは歌って踊ることが得意なのになんでもうやらないの?」
「もったいない。」
「アイドルは恋愛禁止だから。」