第260話 独立
3年生になり、1週間経過した
マオが入学して新たな日常を過ごすことになる
「マナ。僕ね、マナと一緒に料理をしていたからね。僕も寮の厨房を借りて毎日お弁当を作っているんだ。自分で好きなものを作れるのは楽しいね。マナのおかげだよ。ありがとう。」
マオが私に話かける
マオは魔塔ではなく、学園の男性寮に住んでいる
「そっか。寮生活も慣れてきたのかな。」
「うーん…マナに会えない時間は寂しいけどね。また魔塔で一緒に暮らすことはスリー様から咎められちゃったから仕方ない。我慢するよ。」
スリー様は入学前にマオを説得して寮生活にさせたようだ
魔塔までマオと一緒に四六時中いるのは精神的に辛くなってくるので、スリー様には感謝しかない
「マナ。今日も可愛いね。あれ?今日はリップクリームをつけてるんだね。マナが自分の顔面に気を遣うなんて珍しいね。」
とクリスが話しかけてきた
「あぁ…唇が荒れていたから一応つけてみたんだ。」
「好きな人がいるから気遣うようになったのかな?」
「いや…関係ないけど…」
実はこのリップクリームはイシュタル先生が私の唇が荒れているからとプレゼントしてくれたものだ
私は自分の容姿に気遣うことなんてしないので、リップクリームを購入しに街へ買い物なんてしたことがない
貰ったからなんとなくつけてみただけなんだけどな
変態教師からのプレゼントをつけているよなんて言ったら発狂しそうだ
「マナ。」
「マナ。」
「マナ。」
「マナ。」
この1週間ずっとマオとクリスが話しかけてくる
昼休みの生徒会の仕事も
生徒会室までクリスとマオがついてくるので
私は2人とずっと一緒にいる
部活動の時だけは2人から解放されて
私はピアノの音色に入り浸っている
マオはオーケストラ部に入部希望をしていたけれど
私目当ての入部は全て断っているようで
私はピアノの時間を平和に過ごせている
2人とはたわいもない会話しかしていないけれど
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日
2人でまとわりついてずっと話しかけられることに
苦痛を感じていた
3人で仲良く過ごせていたら苦痛には感じないと思うけれど
私達は友人同士ではない
マオとクリスは恋敵だから
2人のビリビリしてギスギスした空気を
私はどうしたらいいのかわからずに
疲労していた
3人で仲良くしよ♡なんてさすがに言えないし…
私ははっきりとマオを振っているのに
健気に私のことを思って好かれようと努力している姿に
非情になりきれない気持ちもあった
クリスのことが好きだけれど
クリスだけ優遇してマオを拒絶することはできなかった
クリスを選ぶと決めたのに結局私は中途半端だ
私の煮えきれない態度が
2人の行動を加速させた
私が全ての魔法を使えると露呈したことにより
一般生徒は私を避けるようになった
私を支持する熱狂的なファンクラブもあれば
私を嫌悪する派閥も当然出来ていて
どんどん孤立していった
まるで…前世の佐々木華のように
「マナ。クリスなんて顔がいいだけの男だよ。マナは優しくて流されてしまうからね。その気持ちを恋だと勘違いしているだけさ。」
「マオは精神的に幼稚だからマナは優しくしているだけだよ。マオは振られて俺が選ばれたんだ。いい加減諦めて魔王の森にでも帰ったらどうだい?ドラゴンの嫁でも探しなよ。」
「ねえ?マナ。」
「そうだよね。マナ。」
「マナ。」
「マナ。」
「うるさいなぁ。」
「え?」
「マ…マナ?」
恋愛初心者の私が
上手に振ることも
好きな人を大事にすることも
何もかも上手く出来るわけもなく
自分で蒔いた種のせいで苦しむことになっただけのくせに
この2人を気遣う優しさをもう持てなかった
私はそのまま2人に当たり散らかす
「ねぇ。本当に2人は私のことが好きなの?毎日毎日マナマナマナマナうるさいんだよ。突進することしか脳がないの?私は元々1人の時間が好きなタイプなの。静かに過ごしたいの。本とか読んだりしてね。それなのに…毎日毎日ずっとまとわりついてきて鬱陶しいの。やめてくれない?そんなんで好きにならないから。むしろ嫌悪感しかないから。限度ってものがあるでしょう?今日は2人とは話したくない。1人にさせて。どっかいって。」
私はしっかりとした口調で2人に言い放つ
クラスメイトのみんなも聞いていたようで
クラス中の空気が冷たくなる
「マ…マナ…ごめんね。僕…怒らせるつもりなんてなかったんだ…」
「怒った姿は久しぶりに見たな。怒ったマナも可愛いね。」
「うん。わかったから。もう話しかけないでよね。」
私は2人を睨みつけて言う
2人とも何も言わずに自分の席へと戻った
最悪の空気がクラス中を支配する
何もかもめんどくさくなってきちゃった
やっぱり権力や力を持つとダメだな
気が大きくなってしまう
私は聖人君子とは程遠い
欲にまみれた人間ってことか
フフッ…それでも今の自分が1番気に入っている
敵にも味方にも怯えて過ごした佐々木華でもなく
純粋無垢に平和に過ごしたアーネルド・マリアでもなく
権力や力を手にして欲望のまま生きるエラート・マナを
私は気に入っている
自分の幸せも
自分の不幸も
全て自分の責任だ
誰にも頼らずに
私は自分力で生きてみせる
この世界だって
私1人で救ってみせるよ