第237話 聖なる夜
ハロウィンパーティが終わり
次はクリスマスパーティが始まる
このクリスマスパーティでは初めに踊る相手が好きな相手だとされている
恋人同士はクリスマスにファーストダンスを踊って聖なる夜を楽しむ
「マナ先輩は誰とファーストダンスを踊るのか決めているんですか?」
昼休みに生徒会室でフェイ君に聞かれる
私に恋愛関係の質問は何故か暗黙の了解で同じクラスの人達は誰も聞いてこないが
フェイ君は単純な興味として普通に話題に出してきた
特別扱いされることが嫌いだけど
今回ばかりは答え難い質問に歯切れの悪い解答をしてしまう
「うーん…どうだろうね…」
「去年は誰と踊ったんですか?」
「マリオお兄様だったと思う…。」
「フッ。卑怯な人選ですね。」
「1番大事な人なんだから間違ってないでしょう?」
「今年はローズ様と婚約しているからもうマリオ様とは踊れないですね。逃げ道塞がれて困ってるんですか。」
「そうだね…誰と踊るか決まっていないから困ってはいるかな。」
「誰と踊っても角が立ちそうですね。モテる女は大変ですねぇ。」
「恋人がいる人は余裕があっていいわね。」
「あ。わかりますか?えへへ…マナ先輩のお陰で世界一幸せです♡」
「上手くいってるようでよかった。」
「僕に人望があればマナ先輩のキューピット役をやりたかったんですけどね。」
「私のこと好きな人はたくさんいるから紹介とかはいらないわよ。」
「たくさんの人に愛されていても、たった1人の人と愛し合えないと意味ないですよ?」
本当に発言に余裕がある
ぐぅの音も出ない正論を飾される
むしろ煽られているまである
「1人の人を選べたらそうしてるわよ…」
本当はもう選んでいる
恋をしている
でも…まだ秘密にしたい
マオを待つと決めたから
月日は流れ、今日はクリスマスパーティの日だ
今日のクリスマスパーティをみんな楽しみにしていて
ダンスやクリスマスプレゼントも気合いを入れて準備してきていた
私は…みんなが幸せそうにしているクリスマスパーティに上手く馴染める気がしなかった
大好きなクリスとファーストダンスを踊っても上手く笑える気がしなかった
他の誰を選んでも騙しているような気がして自己嫌悪になりそうだった
イシュタル先生が用意してくれたドレスを着たけれど
なんとなくこわくなって
クリスマスパーティ会場に入る勇気が出なかった
私は風魔法で屋根の上まで移動して1人でクリスマスを過ごす
屋根の上からクリスマスパーティの様子が見える
ローズ様はマリオお兄様と過ごせてとても嬉しそうにしている
ミメットとカイも仲むずまじいカップルだ
フェイ君とルークも…世界一幸せそうに笑っている
「いいなぁ…」
思わず羨む言葉が溢れる
私の気持ちは未だに中途半端だ
決断の日が来ることに怯えている
つい目でクリスの姿を追ってしまう
クリスはパーティ会場で私を探しているようだ
適当に体調不良で参加しませんって伝えればよかったな
…聖女に体調不良なんてあるわけないか
サボることも上手くできないなぁ
急にクリスが上を向いた
一瞬目があったようにも感じてドキッとする
こんなに離れているから気づくわけない
そう思った瞬間、クリスはパーティ会場から出て行き
庭から明らかに私の方を見つめていた
そして猛ダッシュで私のいる校舎を登ってこようとしている
「う…嘘でしょう?」
こちらからパーティ会場を見るのはパーティ会場が明るくこちらが暗い為、簡単に眺めることが出来るが
反対は絶対に見えるわけないのに
こちらにクリスが向かってきている焦りと
見つけてくれたことの高揚感が入り混じって
感情がバグってしまっている
会いたい気持ちと会いたくない気持ちが交錯する
恋をして幸せになったっていいはずなのに
どうしても…マオの悲しそうな顔が脳裏をよぎって
上手く笑えなくなる
マオを傷つけることだけは
絶対にしたくない
「マナ!!!」
クリスが屋根の上までやってきた時には
私は風魔法で別の場所へと飛んで行った
「えへへ…来ちゃった。」
私が飛んで行った場所は魔王の森
目の前には大きなドラゴン、マオがいる
マオは顔を上げて私を見つめる
「ちゃんと待つって決めてたのに…会いたくて来ちゃった。意思が弱いね。ごめんね。」
マオは頬を擦り付けて慰めてくれている
「フフッ。スリー様から毎日報告は聞いていたけど…元気そうでよかった。」
ドラゴンの姿でも優しそうな瞳は変わらない
私の大好きなマオだ
「色々あって疲れちゃった。今日はここで寝てもいい?」
そう言うとマオは寝そべって私がマオの上で眠れるようや体制にしてくれた
「ありがとう。一緒に寝るの久しぶりだね。」
私はマオのお腹の上に乗り、眠りにつく
今宵は聖なる夜
今だけは何も考えずに
この暖かいぬくもりを感じて眠りについた