第23話 フォルト・ローズ
「私は二度と会いたくなかったわよ。佐々木華。」
「まぁまぁそう言わないでくださいよ。前世のよしみじゃないですか。」
「前世に私達が関わりのある話をするならそれこそお互い二度と会いたくなかったはずよ。」
「私は会いたかったですよ。」
にっこりと穏やかに微笑む。そして私の手を取り引っ張る。
「ちょっと!何すんのよ!」
「落ち着いた場所で話ましょうよ。」
「話すことなんて何もないわよ。」
「まぁまぁそういわずに〜。」
無理矢理引っ張っていかれ、私と佐々木華はバルコニーに2人きりになった。出入口には佐々木華のパートナーと護衛騎士が見張っている。
「そういえば今世の名前を名乗っていませんでしたね。私はアーネルド・マリア。よろしくお願い致します。」
貴族らしく、綺麗な振る舞いのお辞儀をされる。
「…フォルト・ローズ」
「ローズ様。素敵なお名前ですね。」
「悪役令嬢ぽいでしょう?」
「悪役なんてとんでもないです。原田さんにあった綺麗で素敵な名前でぴったりだなって」
「もういい?」
「せっかく十四年ぶりにお会いしたのにつれないですね。まだまだ話したいことはたくさんありますよー。」
「前世で貴方をいじめた相手によくそんなことが言えるわね。」
「いじめただなんて。そんな大袈裟ですよ。私は何も気にしていません。」
「何も気にしていないのも腹が立つ。それに私は貴方に恋人を取られたんだから。話をしたい相手な訳ないじゃない。」
「消しゴム拾っただけで他の女に惚れて、大事な恋人を捨てるような男なんて原田さんに釣り合わないですよ。あんな男は忘れましょう。」
私はきつく目の前の女を睨みつける。
「…山﨑先輩をクズ男呼びするのはやめてくれる?先輩は紳士的で優しい人だったわよ。あんたが誑かしたから悪いんだよ。」
「…ふふ。あの時もこんな風に喧嘩出来たらよかったのにね。」
「冗談やめてよ。私は前世でも今世でも二度と関わりたくないと思ってるわよ。」
「でも、今も一緒なんだから運命なんじゃないかな。」
「この世の神様が私のこと嫌いなだけだと思うけど。今世でも同じ時代を生かされるなんて嫌がらせとしか思えない。」
「私はこの世界好きだよ。ローズ様は?」
「まぁ…美貌にも恵まれたし、権力もあるし悪くはないわね。」
「楽しく暮らしてたんだね!このままお互い幸せに暮らせるといいね!」
「あんたは絶対無理でしょ。」
「酷い!」
「酷い?一番残酷で酷いことしてるのはあんたでしょう?佐野さんはあんたの我儘で魂入れ替えされて運命捻じ曲げられて本当にいい迷惑よね。」
「…。」
「ハハッ!図星突かれて黙ってんじゃないわよ。卑怯者。」
「佐野さんも幸せに暮らしてるならこの入れ替わりは成功だから…。」
「ハハハッ!!今幸せに暮らしてようが不幸せだろうが関係ないわよ。私が言ってるのはどうせ魂が入れ替わるのに巻き込まれて可哀想だってことよ!」
「大丈夫だもん!!気をつけてるし、魂はそんなに簡単に入れ替わらない!」
「消しゴム拾っただけで人の人生狂わせるようなやつのくせに。」
「佐々木華は可愛かったからそんなこともあったけれど、アーネルド・マリアなら平凡な顔立ちだしそんなことは起こらないよ。」
「馬鹿じゃないの?顔が可愛いだけで佐々木華が大勢の男を誑かしていたと思ってるの?顔がいい女なんて腐るほどいたわよ。メイクすれば女なんていくらでも顔は作れるんだから。今だってパートナーの男と護衛騎士誑かしてるのでしょう?」
「あれはただの身内贔屓だから…。」
「本当に?そう思ってる?佐野さんならあの2人はあんなに過保護にならなかったんじゃないの?」
「今日は魂の入れ替わりがある可能性があったから過剰になってるだけで普段はそうでもないから…。」
「嘘つき。あんたは男を誑かす天才なのよ。真性の魔性の女ね。」
「…やだなぁ。男だけじゃなくて、女もだよ。」
「ハハハッ!言うようになったわね。」
「お気に召してもらえた?」
「少しだけね。」
「じゃあお友達になってくれる?」
「絶対いや。」
「あはは。振られちゃった。」
「まぁ。私はあんたがどうなろうと佐野さんがどうなろうと全然関係ないからどうでもいいけど。うっかり消しゴムを拾ってまた私の男誑かすんじゃねーよと言っとく。」
「ねぇそれ私何も悪くないよね。」
「悪いよ。絶対あんたが悪い。世界中の誰もがあんたが悪くないって言っても私だけは絶対に言い続ける。あんたが一番悪い。あんたが男を誑かしたのが悪い。笑いかけるだけで男を沼に堕とすあんたが悪い。」
「目を合わせるな。笑うな。喋るなってこと?」
「そう。」
「学校生活三年も過ごすのに無理じゃんそんなの。」
「だから佐野さんが可哀想だっつってんだよ。この性悪女。絶対、あんたは男を狂わせる。魂の入れ替えがあった後、誰も幸せになんかなれやしない。」
「そんなことさせないよ。私はアーネルド・マリアのまま大往生で今世を終えるんだから。」
「ありえない。賭けてもいい。あんたは攻略対象に惚れられて関わった人間全員を地獄に堕とすことになる。」
マリアの目には涙が溢れてくる。
私はマリアの顎をグイッと寄せて口にキスをした。
「ざまあみろ。バーカ。」
マリアは少し微笑んだ後、今度はマリアから私にキスをしてきた。私は思わず突き飛ばした。
「美人なローズ様から誘ってきたのに酷いなぁ。」
この女が何を考えてるのか本当にわからない。
その後、突然大きな雷が外に落ちた。
「きゃーーーーー!!」
私は思わず蹲った。
「あ、ごめん。お兄様怒っちゃったみたい。お茶会お誘いするからまたお話しようね!」
「二度と目の前に現れるな!!」
バルコニーの扉からマリアの兄がこちらをみて睨んでいる。身体中に雷を纏いながら。
「お兄様!帰りましょう!」
そう言ってマリアが兄の手を繋ぎ急ぎ足でパーティ会場から出て行った。
私は何でキスなんかしたのだろう。ただなんとなく泣いてるあいつを見たらもっと困らせてみたくなっただけなのただけど。冷静に考えたらおかしいよね。ただ泣いてる姿をみたら衝動的に…
「私も誑かされたかぁ。」