第228話 文化祭準備
「自分が世界で1番イケボだと自負しろ!歌声で全員昇天させろ!!」
「全力でファンサして!!かっこいい曲だけど時折笑顔を見せて!!悩殺して!!」
「私に惚れさせるんだろ!そんなんじゃまだまだだぞ!!」
「きゃーーーーー!!こっち見てーーー!!レックスーーーー!!世界で1番かっこいいーーー!!」
レックスは覚醒後、おそろしいほど伸び代を見せている
これは伝説になる
世界で1番かっこいいアイドルになる
歌のレベルも高くなったし
踊りもプロレベルだ
そして何より魅せ方が最高にアイドルしてる
私が作り上げた最高傑作のアイドルだ
朝の6時半、フェイ君と2人きりの時に私は言う
「このままじゃダメだ。」
「…。」
「レックスが予想以上に最高傑作に仕上がってしまった。このまま隣でフェイ君がパフォーマンスしたら浮いてしまう。プロと素人が同時にステージに立っているように見えてしまう。」
「僕は…どうすれば…」
「喰らいつくしかない。魅力はレックスと比べても劣らないけれど、歌とダンスはどうしても完成度が違ってしまう。」
「僕は上手くなれますか?」
「なるんだよ。今日からランニングじゃなくて歌とダンスを個別指導する。」
「わかりました。やります。よろしくお願いします。」
「自分でレックスと比べたらダメだよ。レックスにはレックスの魅力があって、フェイ君にはフェイ君の魅力がある。フェイ君の前向きな賢明さをきっと誰かが見てくれる。誰かが見つけてくれる。そう信じてステージでパフォーマンスしなさい。」
フェイ君は体が弱く歌と踊りをやり遂げるだけでも精一杯のはずだ
その上プロのような上手さを求めるのはかなり酷だ
それでも…諦めないでフェイ君は一生懸命練習してくれた
泣き言を言わずに
ただ私の言葉を信じて練習してくれた
その前向きさや懸命さに毎回私の方が涙を堪えて教えていた
劣等生なんかじゃない
フェイ君こそアイドルの優等生だ
文化祭の準備は2人をアイドルに育てることだけじゃない
クラスの出し物は白雪姫の演劇で私は白雪姫を演じることになったし
オーケストラ部は初めてのオーケストラとピアノを合わせて演奏する
そして…イシュタル先生の為に私はアイドルワンマンライブの練習もしなければいけない
怒涛の日々だ
放課後はオーケストラ部の練習をする
私はピアニストを目指すと決めたから
オーケストラと一緒に演奏することは
ただの演奏会ではなく
私にとっては今後もピアニストとしてやっていけるか腕試しになるのだ
オーケストラと一緒に演奏することは初めてなので
合わせて練習することに苦労していた
私は自己表現が強いタイプのピアニストだから
調和して音を作り上げることの難しさに激突していた
楽譜通りに合わせて弾いているはずなのに
音が合わない
上手く溶け込めない
まるで…私がこの世界で浮いている存在だと言わんばかりに
調和することが出来ない
楽譜通りに弾けているのに
何故?
レックスも私が弾けているのにオーケストラと音が噛み合わないことに疑問を持っていた
「うーん…どうしてあわないんだろうね…」
「周りの音をよく聞いて合わせようとしているんですけど…」
「うん。音を聴いていたからわかるよ。マナが合わせて弾こうとしていることはね。」
「どうして調和した音にならないんでしょうか…」
「うーん…もういっそのこと合わせようとしないでみたら?」
「えぇ…そんなことしたらごちゃごちゃになって大惨事になりませんか?」
「俺達が全力でルナに合わせる。だからルナは自由にこの曲を表現すればいい。」
「本当に大丈夫でしょうか…?」
「こちらの音は気にせず自由に弾いてみて。」
ニックがそう言うので私は気持ちを切り替えて独りの世界に入る
この曲を私のエゴで自由に弾く
私はオーケストラを置いていくかのように自分勝手に演奏をする
やっぱり全然合わないけれど
それでもいつもよりは気分はよかった
演奏が終わりニックが言う
「うん。こっちの方が良さそうだね。」
「えぇ?本当に…?全然あってなかったじゃん。1番酷かったと思うけど。」
「俺達が全力でマナに合わせるように練習をする。だからルナは…観客全員を虜にする演奏をすればいい。それならマナの十八番だろう?」
「初めてオーケストラと合わせるのにそれでいいのかなぁ…。」
「いいんだよ。マナの演奏を活かすならこの方法が1番いい。」
「みんな私の我儘な演奏についてきてくれるかな?」
と私が言うと
“勿論!”
“マナ先輩のピアノは最強だから!”
“マナ様の魅力を俺達みんなでサポートして伝えますよ!”
と部員達は優しく言ってくれた
彼等からすれば私のピアノなんて素人同然の赤子みたいなものなのに
全力で支えてくれるオーケストラ部のみんなの為にも
私は弾く
観客全員を虜にするピアノを
人の心を掌握する音色を
人を魅了することだけは
私は天才的に上手いのだから