第227話 最強のアイドル
私とフェイ君は6時半にグランドに集合する
「じゃあ早速走りますか。」
「あの…マナ先輩も走るんですか?ジャージ着てますけど。」
「うん。訳あって私も体力つけないといけないからね。」
「僕に合わせて走ると遅くなりますが…」
「そんなこと気にして走らなくていいよ。1人で走るよりも2人で走った方が孤独感なくていいかなって思っただけだし。」
「本当にお人好しですね。マナ先輩。」
「お人好しは早朝ランニングなんて人に強制しないとと思うけど。」
「フフッ。まぁそれもそうですね。」
「じゃあ走りますか〜。」
私達はグランドを走り出す
とてもゆっくりのスペースだが真面目にフェイ君は走っていた
「…運動することが楽しいと思えたのは初めてです。」
「楽しいの?」
「はい。こんなに走って辛くならないことは初めてです。マナ先輩の白魔法のおかげですね。」
「フェイ君に入れ替わった時びっくりしたよ。体育の授業で反復横跳びしてさ。本当に死にかけたの!」
「入院生活が長くて体力がなくてさ。運動なんて全然出来なかったから…。こんなに連続して走ることが出来るなんて初めて。」
「私の力でフェイ君が元気になれるならこの力を持っててよかった。」
「僕は普通にみんなが出来ることが中々出来なかったからさ。人より劣ってる劣等種のように感じていて…自慢出来るのはこの容姿ぐらいでさ。自分の外見ばかりに固執するしかなかったんです。」
「わかるよ。私もずっと自分に自信が持てなくて人よりも不出来な自分が大嫌いだったから。」
「マナ先輩が?何もかも手に出来るのに?才能の塊じゃないですか。劣等種どころか有能種じゃないですか。」
「才能しかないからね。私自身の中身は意外と空っぽでさ。私の才能だけ世間から独り歩きして持ち上げられてさ。本当の自分はちっぽけな存在なのになって。」
「そんなことないですよ!マナ先輩は憧れの先輩ですから!」
「ありがとう。フェイ君。」
「僕、絶対に世界で1番可愛いアイドルになってみせますから!」
「うん。とっても楽しみ!!」
「何も出来ない僕だけど。人を惹きつけることだけは得意だからね!!」
昼休みになり今度はレックスの歌とダンスを指導する「この曲の歌詞の意味本当にわかってる?ただ歌うだけじゃダメだから。声に表情をつけないと。」
「後ろ姿が休憩タイムだと思ってる?ステージの上にいる間に休憩時間なんてないからね。背中で語れないと。」
「もっと指の先まで意識集中してダンスして。大きく動くことは大事だよ。後ろ観客までよくわかるからね。」
「もっと視線残して!!ふわふわしてる!!目が合った人間全員虜にしろって言ってるじゃん!!そんなんじゃ他の人に目移りするよ!!」
私は鬼スパルタでレックスを追い込む
この人ポテンシャルはいいのにイマイチパッとしない
顔はイケメンだし
体も細マッチョでいい体してるし
性格もエゴイストだから
絶対アイドル向きだと思うのに
何がダメなんだろう
何が足りないんだろう
何もかもが要領よく出来てしまうが故に
そこそこ合格点を出す癖がついている気がする…
「うーん…ちょっと私が手本見せるから見てて?」
「え?この曲を?かっこいい系だからマナはあわないんじゃ…」
「バカね。そんな考えしてるからまだまだなのよ。伝説のアイドル舐めんなよ。」
私は2人がやる楽曲をて手本として目の前で歌って踊る
ここにいる全ての人間を魅了する
1度目があえば逸らすことは出来ない
そのまま虜にさせる
私は人を魅了する天才だから
私のパフォーマンスが終わり
「凄い…」
とフェイ君が呟く
「どう?私の方が最強にかっこよくて輝いてるアイドルだったでしょう?」
「…。」
レックスは黙って私を見つめる
「私の容姿は可愛さ全振りしているのに…レックスよりもかっこよかったでしょう?」
「好きな女にかっこよさで負けてたまるか。」
「お。じゃあ見せてよ。私よりもかっこいいレックスをさ。」
レックスは歌って踊る
…凄い
さっきと全然違う
レックスのプライドや負けず嫌いに火が付いたようだ
目に闘志が宿り
覚醒している
さっきよりずっと荒々しいが
魂のこもったいいパフォーマンスだった
終わった後にハァハァと息切れをして
「どうだ?俺が世界で1番かっこいいだろう?」
とレックスが言う
「…上出来。ちょっとドキドキしたよ。」
と私は最大級の褒め言葉をおくる
最強のアイドルを育ててしまったかもしれない