第213話 2学期スタート
2年生の夏休みも終わり、2学期が始まった
「マイスイートエンジェルマナ!!会いたかったよ!!この日をどれだけ待ち侘びたか…!!夏休みなんて制度なくなればいいのに!!」
「おはようございます。イシュタル先生。私はバックれたい気持ちを抑えて健気に会いに来ましたよ。」
「さすがエンジェルマナ!!その健気さと真面目さのおかげで私の毎日は充実します!ありがとうございます!!」
「もう健気なのも真面目なのもやめよっかな…」
「絶対無理ですよ!来世になってもマナさんは健気で真面目な人ですよ!!諦めて私の性癖に付き合ってくださいね。夏休みは楽しかったですか?」
「ええ。イシュタル先生のような性癖が歪んだ人を牢屋にぶち込むとても有意義な夏休みでしたよ。」
「何と!そいつは牢屋行きで私は秘密の密会行きということはつまり!!私はマナさんに選ばれし変態だと言うことだ!!」
「今すぐイシュタル先生も牢屋にぶち込んでやろうかな。」
「えぇ!?そんなぁ!?マナさんが私のことを告発したら私は死刑ですよ!死んじゃいますよ!!」
「私が殺さないでって頼んだら聞いてくれそうだし…」
「絶対聞いてくれないですよ!嫌です!嫌です!!そうだ!私はその変質者とは違ってマナさんに尽くす良い変態です!見てくださいこの最高傑作の新作の衣装を!!」
そうしてイシュタル先生は鞄から自作の私に着せる服を取り出した
「凄い…。」
イシュタル先生が作った衣装は私が昨年、文化祭で着たアイドル衣装にとても似ていた
スカートなら丈はかなり短くなっているものの
ふんだんにレースが使われてふわふわとした水色のドレスはまさに大作の衣装だった
「死ぬ気で魂込めて作りました!今年の文化祭のアイドルステージは是非この衣装で歌って欲しいです!」
「え?私もうアイドルなんてやらないけど。」
「え…えええええええええええ!?そんなあああああああああああああああああ!!嘘だと言ってくれええええええええええ!!!」
「いや…ちゃんと言ったじゃん。私がアイドルやるのは1日だけだって。」
「信じたくない!!信じられない!!何故!?どうして!!嘘だと言って!!」
「嘘じゃない。2度とアイドルはやらない。」
「いやだああああああああああああ!!!この世の終わりだああああああああああ!!」
イシュタル先生は大泣きしてみっともなく私に縋りつきながら懇願している
…私のダメな癖は押されると弱いところだ
こんなにも泣いて悲しんでいるなら
私のプライドなんか捨ててもう1度アイドルになった方がいいんじゃないかと
心が揺らいでしまう
自分の意思の弱さが嫌になる
この人を悲しませたくないという気持ちだけで
簡単にも意思が崩れそうだ
「あ…あの…せっかく凄く可愛く作ってくれたから…ここで今着るから…ね?それでいいでしょ?」
「嫌だ!ステージで輝くマナをイメージして私は作ったんだ!!アイドルとして着てくれないと死に物狂いで作った私の魂が浄化されない!生霊としてマナさんに取り憑くから!!」
「こわいこと言わないでよ…私オカルト関係は信じるタイプなんだから…。」
「取り憑いてやる!取り憑いてやる!取り憑いてやる!!」
「やめて!!!わかった!!ここでイシュタル先生の為だけに歌うから!!それでどう?」
「え…そんな…う…………」
イシュタル先生は暫く黙り込んで考える
頭を抱えて呻きながら
よっぽど葛藤しているらしい
「全校生徒に私が作りたげた最高傑作のマナ様を見せつけたい……でも私だけのマナ様…私だけが知っているマナ様のアイドル姿…他の人類は誰も知らない特別なマナ様…」
ぶつぶつと独り言を言いながらイシュタル先生は考え込みようやく答えが出たようだ
「いいでしょう!!私だけのアイドルマナ様を堪能できるなら!!世界で私しか知らないマナ様!!興奮します!!」
「そう…よかったね…」
私の為に何十時間もかけて作ったであろう衣装だから
まぁイシュタル先生だけの為に着るならいいかな
「新曲を!!新曲で歌ってくださいね!!」
「わかってるよ。この衣装に合いそうな選曲でやるから。」
「うおおおおおおおおおおお!!!マナ様最高おおおおおおおおおお!!!」
「じゃあ私はもう教室戻るから。」
「はい!また教室で会いましょう!!」
「というか文化祭より先に体育祭があるじゃない。イシュタル先生が私の体操服を盗んだあの体育祭が。」
「あれからもう1年になるんですね…。感慨深いなぁ。」
「いい加減私の体操服返して欲しいんだけど。」
「新品は渡したじゃないですか。」
「私の体操服を返して欲しいの。」
「マナ様が着た物は全て私の私物にしていい契約ですよ?」
「体操服は契約前の服でしょう?返してよ。」
「何故そんなにこだわるんですか?前の体操服に。」
「嫌な思い出だから。回収した方が事件が解決した気がして気分が晴れるかもしれないでしょう?」
「うーん…困りましたね。あの体操服はたくさん使用したので返すのはちょっと…」
「使用した?あの体操服着れるの?」
「…着て使用したわけじゃないです。」
「は?じゃあ何に使用するのよ。」
「知らない方がいいですよ。とにかく返せる状態ではありませんから。」
「何よ。教えてくれたっていいじゃない。今更引いたりしないわよ。」
「絶対?」
「うん。」
「自慰行為の時に…」
「わかった。私が悪かった。もう2度と体操服の話はしない。」
「絶対引かないって言ったくせに。」
「だから私が悪かったってば!!気持ち悪い!!ドン引きなんだけど!!」
「体操服盗むなんてやることはそれしかないじゃないですか。」
「そんな変態常識知らないから!!」
「無知で可愛いですね。マナさん。」
「うるさい。黙れ。」
「次の体育祭の体操服もくださいね。」
「…。」
「契約。」
「わかってるわよ。」
「ああー!!楽しみだなぁ!!チア衣装もくださいね!!学園生活万歳!!」
「やっぱり牢屋行きにしようかな…。」
私の服が最悪の使い道にされていることを知り
気持ち悪すぎて気分が悪くなった
無知のままでいたかった
何で聞いてしまったのだろう…
後悔しながら私はクラスへ入る
「久しぶり。マナ。会いたかったよ。」
私の想い人
クリスに話しかけられる
恋って凄いな
会えただけなのに
こんなにも嬉しくなるものなんだ
久しぶりに会う
私を愛おしく見る目線に
優しく微笑む笑顔に
誰よりも輝いて見えるかっこいい姿に
心が満たされる
「久しぶり。クリス。」
私も会いたかった
本当は今すぐ抱きついて
クリスの腕に抱かれたい
私も愛してるって
伝えたい
でも…まだダメ
私の大事な弟が
世界で1番強い魔王様が
マオが
私の元に帰ってくるまでは
この恋を叶えてはいけない