第210話 ナイトプール
せっかく水泳セットを持って来ていたので
一般客のみんなが利用しない夜に特別ナイトプールとして
貸切で利用させてもらった
「あああああああああああああああ!!!」
私の水着姿を見て大声でルークが発狂する
「うるさい!追い出すよ!!」
「すみませんでした!あまりにも刺激的な水着だったので!!感情を抑えきれず!!自我を出してしまい申し訳ございません!!私は壁になります!何も!何もしません!壁になって見つめるだけなので!どうか追い出すのだけはご勘弁を!!!」
「変なこと言わないで!普通の水着だから!」
「いやいやいや…全人類を惑わせる魅惑のボディを全面に魅せつけるピンクの紐ビキニを着てるのに普通の水着とは言えないですよ…アハハ!!」
めちゃくちゃ嘲笑うかのように言われた
むかつく
「16歳の女の子が着る水着なんてみんなこんなやつだよ!」
「マジレスするとそんなことないです。マナ様に露出癖があるのかと思うぐらい大胆です。」
「え…嘘でしょ?」
「一般の16歳はもっと恥じらいのある水着を着ますよ。そんなに大胆な水着を着るのは水商売している女性ぐらいですよ。」
「えぇ…そ…そうなんだ…」
なんてこった
前世では結構普通に着ていたようにも思うし
変態教師のイシュタル先生から毎日過激な衣装を着せられているせいで
私の感覚がおかしくなっているのかもしれない
露出も控えめな可愛い水着だと思って購入したのに
「でも!マナ様が露出癖であることに誰も損なんてしないです!寧ろ歓喜です!ありがたいです!えっちな女の子が嫌いな男はこの世に存在しませんから!」
「そうかな?男なんて清楚系で大人しい女が好きなんでしょう?」
「清楚系で大人しくてえっちな女の子が大好きなんですよ!!」
「欲張りセットすぎない?」
「もっと盛りたいですけど!!」
「もういいです。」
「じゃあ俺は壁になるので!マナ様は楽しんでくださいね!」
「一緒にプール入ろうよ。」
「ノー!ノーです!!俺はプールに興味がありません!マナ様をずっと見つめることに興味があるので!」
「あっそう…」
「壁になりたい!壁になりたいんです!!」
「じゃあ壁になってて…」
「ありがたき幸せ!ありがき幸せ!!!」
そう言ってルークは本当にプールサイドから私をずっと見つめていた
「あの変質者追い出した方がいいんじゃないのか?」
少し引いた様子でニックはルークのことを変質者呼ばわりする
「私が変装した時は普通の人なんだけど…」
「マナは悪人にも優しくするのやめた方がいいよ。」
「悪い人じゃないんだよ。」
「今もずっとあそこでハァハァ言いながらマナを見つめている人が善人だと?」
「ちょっと癖が歪んでるだけのいい人なんだよ…」
「いいところってどこなの?」
「えっ…えっと…いい本を知っているところかな。」
「それは本がいいだけでルークはいい人じゃないと思うけど。」
「あの本を素敵だと思える感性を持っているならいい人だよ。それに私は自分の人を見る目だけは自信があるの。」
「マナの善人と悪人の判断はどうなってるの?」
「私の独断と偏見よ。」
「そんな不明瞭なものを心底信じてるマナが信じられないよ…」
「理論派には考えられないかもね。この感覚派で生きている人間の気持ち。」
「恐ろしいよ。」
「周りの意見とか。情報とかよりも自分の感性を1番信じてるの。」
「そう…感性派で生きているからこそあの綺麗な音色が出せるのかな。ますます俺には真似できる気がしない。」
「私もニックの真似は出来ないし、十人十色でいいじゃない。音楽なんて誰も同じ音色は出せないから面白いんでしょう?」
「俺の音色は誰にでも真似できるよ。だって楽譜通りだからね。」
「出来ないよ。ニックの音はニックだけのものだよ。」
「ありがとう。マナ。」
「ねぇ。一緒にネッシーフロート乗ろうよ。」
「あのね…俺はマナに振られた男だからね?そんな下心丸出しの男に過激な格好で密着することを誘うなんて恋愛に無頓着というより大馬鹿だよ?襲われたって文句言えないよ?」
「そんなことニックはしないじゃない。」
「何を根拠に?」
「私の独断と偏見だけど。」
「…。」
「私、人を見る目は自信あるの。」
「もうその感性で生きるのは辞めた方がいいよ。いつか痛い目に遭うから。」
「だって本当にニックが襲ってきても私には護衛騎士がついてるし。」
「あのね…襲われる状況を作るのが良くないんだよ。」
「まぁ…たしかに。」
「自分の破壊的に人を魅了する力をもう少し自覚した方がいいよ。あそこにいるルークみたいに変な人を量産することになるよ。」
「ルークは元々変人だもん。私は関係ない。」
「変人度が上がってるんだよ。絶対。」
「私は関係ないもん!!」
「とにかく水着で人を誘惑することは今後恋人にしかしてはいけない。わかった?」
「わかった。」
私はネッシーフロートに乗りながら夜空の星を眺める
「夜のプールって私初めて。すっっっごく楽しいね。」
「プールの水が真っ暗で星空と繋がっているようだね。」
私達は暫く星空を一緒に眺めて過ごした
すると急にヴァイオリンの音色が聴こえてきた
とても心地よくそのまま寝てしまいそうだった
「カイザー師匠のヴァイオリン久しぶりに聴きました。まだまだ現役ですね。」
ニックが言う
プールサイドでカイザー師匠がヴァイオリンを演奏していた
「ナイトプールってこんな風にムーディな音楽を流して大人の雰囲気にするプールと聞いた。」
「結構ミーハーなんですね。カイザーさん。」
私がカイザー師匠に言う
カイザー師匠も夜のプールに誘ったのに来ないなぁと思っていたらまさかのヴァイオリンで登場なんて驚いた
「俺は流行りに敏感だよ。マナ。音楽で人を集めるには流行りを知ってないといけないからね。」
「結構意外ですね。カイザー師匠でもそんなことを考えるなんて。」
「意外か?」
「カイザー師匠は芸術家だから。質の高い芸術的な音楽をすれば人を集められると思っていそうなのに。」
「質の高い音楽をしても一般受けはしないものだよ。少し低俗でなければ人は集まらない。音楽の質の高さなんて求めてる人は少数派だからね。」
「キッカ国でもそうなんですか?」
「大勢の人を集めるのは大変なんだよ。」
「残念ですね。そんなの気にせず質の高い音楽を目指すべきだと思いますけど。」
「俺に残念なんて言うのはマナぐらいだよ。」
「フフフ。失礼すぎますよね。大変申し訳ございません。」
「いや。いいんだ。俺は芸術よりも承認欲求を取ってしまったからね。俺より人を集めるオーケストラがあることが我慢ならなかった。」
「難しい世界ですね。」
「マナはいいね。人は集まるから。音楽を低俗にしなくて済む。羨ましいよ。」
「舐めないでくれます?私はカイザー師匠の立場だって絶対に自分の音楽を譲りませんよ。観客が減ろうが自分音楽を貫きます。」
「痛いこと言うなよ。老先短いのにさぁ。」
「私のお陰で老先なんて短くなくなったじゃない。まだまだ元気なお爺ちゃんに愛の鞭ですよ。」
「手厳しいなぁ。」
「人のピアノを下手くそと言った人に言われたくないな。」
「だって下手くそだったじゃん。びっくりするほど下手だったよ。」
「まだまだこれからなの!」
ナイトプールを堪能して
私達は長旅の豪華客船を終えた
ルークはバーバランドのお城の牢屋に入れられて
ニックは学生寮に戻り
カイザー師匠は宿へと向かった
そして私は魔塔へと帰って
私達のキッカ国の旅は終わった