第21話 社交界デビュー
今日は社交界デビューの日。
私達の勝負の日だ。契約内容の【モブ令嬢は攻略対象に愛されないこと】
このルールか破られる恐れがあるからだ。社交界デビューは攻略対象が3人もいる。
その3人との接触を避けて絶対に関わらないようにしなければいけない。
1人目。マグタリア・レックス。公爵家マグタリア家の優秀な子息であり、水の精霊の使い手。金髪碧眼のイケメン。女子の理想そのもののような存在。
2人目。ポーランド・ニック。ポーランド家の異端児。伯爵家ポーランド家に住んでいるが、家を継ぐ気がなく、バイオリンに夢中であり、将来は世界中を旅して音楽を学ぶことが夢だと言う。茶髪の長髪。土の精霊がついている。
3人目。ハーバランド・クリス。この国ハーバランドの王子様。この国の為に全てを捧げて毎日勉強、修行をしている。火の精霊は護衛騎士を圧倒する強さらしい。黒髪短髪のイケメン。
攻略対象はアルテミスから聞き出し、情報はレイとアリサが調べてくれた。
今日の為にたくさん準備をした。大丈夫…。
攻略対象と関わらない為に婚約者を先に用意した方がいいのではないかという案を出したけど、却下されてしまった。レイとマリオお兄様に。
レイとマリオお兄様が守るから絶対に守るから大丈夫だと…。
マリオお兄様までそう言われてしまったら私も強くは言えなかった。それにやっぱり嬉しかった。
社交界デビューのパートナーはマリオお兄様が担当することになった。親族がなることはほとんどないことだけど、私が攻略対象と接触しないようにする為にマリオお兄様がついてくれることになった。
レイをパートナーにする予定だったけれど、レイでは攻略対象相手に強く拒絶することは身分的に難しいから外れて貰った。レイはパートナーではないけれど、護衛騎士として一緒に社交界デビューに参加することになった。
「いいですか!お嬢様!絶対に笑ってはいけませんよ!」
レイが社交界デビューのパーティへと向かう馬車の中で話をする。
「もう耳にタコが出来るぐらい聞いたって…。」
私がうんざりして答える。
「誰とも目を合わせるなよ。ずっと下を向いておけ。」
マリオお兄様が言う。
「いやいや。挨拶ちゃんとしないとアーネルド家の評判悪くなりますよ。」
「そんなことは後からどうとでも出来る。お前は黙ってずっと俯いていろ。」
「そうですよ!!目が合うだけで恋に落ちることだってありますから!!絶対誰も見ちゃダメです!!」
「そんなわけないじゃん…。」
「お前は危機感が無さすぎる!!」
「そうですよ!マリオ様の言う通り!!」
「あのねぇ。私はモブ令嬢なの。普通にしてるだけで空気のような存在なんだから。露骨に俯いてる方が怪しいと思うけど。」
「お前が空気のような存在なら俺は雷の覚醒なんてしなかったのにな。」
「そうですよ。魂はヒロインなんですから。マリアお嬢様はヒロインの自覚を持って行動してもらわないと。」
「分かってますよ。笑ってはいけない。目を合わせてはいけないでしょ?」
「前を向いてはいけない。」
「誰とも話してはいけない。」
「…。」
「なんだその反抗的な目は。お前が魂の入れ替えが本望なら好き勝手にすればいいだろうが。俺は知らん。」
「なに言ってるんですか!マリオ様!!そんなこと絶対阻止!!する為にパートナーをマリオ様に譲ったのに!!今からでも変わって貰いますよ!?」
「お前が王子様に盾つけるわけないだろうが。黙ってろ。」
「俺はマリアお嬢様の為なら誰にでも盾つきますよ!」
「首が飛ぶぞ。」
「マリアお嬢様を守れるならば本望です!」
「もういいから…。大人しくアーネルドらしく。目立たない。モブ令嬢らしく。」
「絶対に騒ぐなよ。」
「何かあっても絶対に俺がマリアお嬢様を守りますから!」
「うん。ありがとね。2人とも。」
馬車がパーティ会場へ到着する。お兄様にエスコートされて会場へ入る。
社交界デビューする十四歳の貴族達が参加していた。
主催の王家ハーバランドの王様が始まりの挨拶をする。
「社交界デビューおめでとう。今年は私の息子であるクリスもデビューする。ここにお集まりの皆さんと是非同世代で羽ばたける時代にして欲しい。」
短い挨拶が終わると、皆挨拶回りを始める。
「初めまして。」
声を掛けて来たのはマグタリア・レックス。攻略対象の金髪碧眼だ。
「初めまして。この子はアーネルド・マリア。マグタリア公爵家からご挨拶して頂けるなんてとても光栄に思います。」
マリオお兄様が答える後ろで隠れながら、挨拶のお辞儀をする。
レックスが私の手を掴もうと手を伸ばすと、マリオお兄様とレイが間に入って阻止をする。
「申し訳ございません。レックス様。妹は恥ずかしがり屋なので…。」
「初めての社交界ですからね。私も緊張しています。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。」
「ははは。レックス様は噂通りお優しいですね。」
「マリア様。照れ屋な所が愛らしいですね。」
「いやいやいや!ただの根暗で陰気なやつですよ!!レックス様!レックス様にはもっと相応しい令嬢がお似合いですよ!」
「パートナーになるぐらいだから大事にしている妹さんなのでしょう?そんな言い方したら可哀想ですよ…。」
「根暗で陰気なマリアは誰にも相手にされなかったので仕方なくですよ!」
「私はいつでもパートナーになりますよ。マリア様。」
「実は俺はマリアのことが大好きなんです。これ以上妹を口説くことは辞めてくれますか?」
「やはりそうでしたか。そろそろシスコンを辞めた方がいいのではないですか?マリオ様。」
「マリアは一生アーネルド家で暮らすので大丈夫です。」
「ハハッ。過保護なお兄様がいると大変ですね?マリア様。」
「レックス様は他にも沢山美人のご令嬢を選び放題じゃないですか。どうして私の妹なんかに…」
「ハハッ。そんな風にガッチリガードされてて過保護に守られてる子がどんな子か気になってね。
「…。」
「マリア様もスカーレット学園に入学されますよね?私もなんですよ。入学後は同じ学友として仲良くしてくださいね。」
「…はい。」
私は小声で返事をする。
「また会えるのを楽しみにしてますよ。マリア様。」
そう言ってレックスは去って行った。
「おい!!喋るなと言っただろう!!」
「だって…やっぱり過保護すぎて目立ってたじゃん…。普通にした方がいいと思って…。」
「だからって学友になる約束なんかして!!お前は自覚が無さすぎる!!」
「そうですよ!マリアお嬢様はずっと無視してください!!」
「やっぱり不自然だって。学友になろうなんて全員に言ってる社交辞令に決まってるじゃない。はい仲良くしましょうって言った方が当たり障りないよ。」
「下心があればお前はもう入れ替わってるんだぞ!」
「そうですよ!声出して声に惚れたりされたらどうするんですか!!」
「そんなわけないじゃん…。」
「危機感が無さすぎる!お前は絶対喋るな!!」
あの…挨拶いいですか?と他の貴族の人に話掛けられる。
その後はマリオお兄様の影に隠れて挨拶するのみ。発言することは許されなかった。
ポーランド・ニックとハーバランド・クリスも挨拶したが、この2人は私に興味を示すことなく終えることが出来た。
一通り挨拶を終えて
「帰るぞ!ここは危険すぎる!」
「待って!」
私がマリオお兄様を制止する。
「話したい人がいるの。」
「…例の女か?」
「うん。いた。」
「…少しだけだぞ。」
「ありがとう。お兄様。」
会いたかった。やっと会えた。気高く美しいその姿。見た目は変わってもすぐにわかった。
「こんばんは。」
私な声を掛ける。
「久しぶりだね。原田さん。」
この世に転生した悪役令嬢。私の前世のクラスメイト。