第208話 果報者
物凄い頭痛と吐き気がする状態で私は目覚めた
体中がしびれて身動きが取れない
目を開けると私の手を握ったまま泣いているレイがいた
「…おはよう。レイ。」
私はか細い声で言うとレイはハッとして私の顔を見た
「よかった!マナ様!!丸1日目を覚さなかったから…」
「そっか…前よりは回復が早くなってる気がするなぁ。」
「まだまだ苦しいですよね。食事をして薬を飲んだらもう1度寝ましょう。」
「吐き気がするから食べ物は口にしたくない。」
「ダメですよ。回復が遅れますから。スープぐらいは頑張って食べてみましょう。吐いてもこちらで処理しますから。」
「…わかった。」
スープが部屋に届き私はスプーンを持って食べようとしたけれど、体が痺れて持つことが出来なくて落としてしまった
落としたスプーンをレイが洗ってくれて
レイがスプーンを持ち私に食べさせてくれた
スープは半分ぐらい残したけれど何とか食べることが出来た
薬を飲もうとして薬を口に入れた後、水の入ったコップを持ったが力が入らずコップを落としてしまった
レイは私がコップを落とすことを予期していたのか
コップを上手くキャッチして溢れることはなかった
「ごめんね…レイ。」
私はコップを落としてしまったことに謝る
「…マナ様。緊急事態なので無礼をお許しください。」
そう言ってレイはコップを口に含み
口移しで私に薬を飲ませた
私の口に無理矢理水が流れ込み
ごくっと薬を飲むことが出来た
「…レイがコップを持ってくれたらスープの時と同じように飲ませられたんじゃないの?」
「…たしかに。医療行為としてスノー様に教わっていたので口移ししか頭になくて…も…申し訳ございません…」
「いや…別にいいんだけど。医療行為だし。初めてじゃないし。気にしてないから。寧ろ助けてくれてありがとうと言わないといけない。」
「お…俺は初めてのキスだったんですけどね。」
「え?マジ?なんかごめんね…」
「14歳からマナ様の護衛騎士として働いていてそういった経験は皆無でしたので…」
「だからお休みを取れとあれほど言ったのに…」
「マナ様と共に過ごす毎日より幸せな日々はありません。マナ様を一生護衛することが俺の幸せです。」
「視野が狭いなぁ。私より大事な人が見つかるかもしれないのに。」
「ありえません。もしも恋人が出来ても俺はマナ様を最優先にしてしまうから恋人にも失礼です。」
「私を最優先にしなくてもいいのに。」
「何言ってるんですか?世界最強の聖女様が死んだらこの世界ごと消えてなくなるんですよ。マナ様を最優先にして命懸けで守らないといけないんですよ。」
「レイにもプライベートを充実させてあげたいんだけどなぁ。」
「必要ありません。俺はマナ様を一生お守りすることが生き甲斐です。マナ様が卒業後にキッカ国でピアニストとして活動するなら俺もついていきます。世界が平和になっても関係ない。俺は一生マナ様の護衛騎士です。」
「世界が平和になったら私がレイに外の世界をみせてあげるよ。この世界は素晴らしくてたくさんの愛に溢れてるってことを。レイにも知ってほしいなぁ。」
「それは…楽しみですね。」
「恋をすると世界が違ってみえるようになるんだよ。」
「まさかマナ様に恋を説かれるようになるなんて。」
「アルテミスが私に恋を知ってほしいって言ってた意味がようやくわかってきたよ。そんなの必要ないって思ってたのにね。私もレイと一緒で。」
「恋をしてよかったですか?」
「うん。こんなにも嬉しくてこんなにも辛い。それでもこの恋がなかったことになるなんて嫌だな。大事にしたい初めてのこの恋を。」
「少し寂しく感じますね。小さな頃から護衛していた女の子が恋を知ってしまうなんて。まだまだ子供だと思っていたのに。いつのまにか先を越されてしまいました。」
「レイ。大好きだよ。」
レイは驚いた顔をする
「俺も大好きですよ。マナ様。私の主人がマナ様でよかった。俺は世界一幸せな護衛騎士です。」
「まだまだこれからよ。私がたくさんたくさんこの世界の素晴らしさをレイに教えてあげる。私の護衛騎士が世界一幸せになるように。」
「果報者ですね。俺は。」
私はレイに手を繋いでもらいながら眠りについた
こんなにつくしてくれる護衛騎士に出会えて
私の方が果報者だよ
貰いすぎた恩を
一生かけて返していくから
毎回倒れて無茶してごめんね
いつもありがとうレイ