第200話 自分らしさ
ルークは監視されながらルークの自室へと騎士団員が送っていった
そして入れ替わるようにニックが私の部屋に入室してきた
「マナ。ディナーショーに来てくれてたね。ありがとう。」
「変装してたのによくわかったね。」
「オーラでわかるよ。」
「いよいよ占い師みたいなこと言い出したね。」
「人の纏う雰囲気で見分けることができるんだよ。」
「そんなこと出来るのニックだけだよ。」
「どうだった?俺の演奏。」
「正直に言っていいの?」
「もちろん。」
「すっごいブレブレだったね。ニックらしくない。」
「やっぱり?今日のようなショーなら少し崩して個性を出して演奏しようとしたんだけど…上手くいかないね。」
「ニックの演奏は原作に忠実だから心地よくて素晴らしいんだから今までの演奏でいいじゃない。」
「俺の演奏は誰でも出来る。楽譜をなぞっただけの演奏。俺は俺にしか出来ない演奏をしてみたかったんだ。」
「ニックの演奏はニックにしか出来ないよ。原作に忠実なんて素晴らしいじゃない。作曲者の意図を汲み取って故人の曲を現代で完璧に復元される。作曲家が選ぶ演奏して欲しいランキング堂々の1位を取れるわよ。そんな凄いことができるのはニックしかいないんだからいいじゃない。」
「でも…個性を出して見たかったんだ。」
「ふーん…でもさ。今日のニックの演奏自分でどうだった?気持ちよく演奏出来た?」
「いや…上手くいかなかったよ。少し大袈裟に演奏しただけで…個性を出すのは難しいね。」
「決定的にダメなところはニックが自分の音を愛せてないところ。」
「なるほど…」
「今日の演奏自分でも満足できなかったんでしょう?ニックは楽譜通りに丁寧に演奏することが1番心地よくて気持ちいい演奏が出来るんでしょう?」
「そうだな…楽譜通りに弾くことが1番心地よくて弾ける。」
「じゃあそれでいいじゃない。それこそニックの個性だわ。自分の音を愛せない演奏なんてやるものじゃないわ。」
「それは…そうだけど。」
「どうしてそんなに個性にこだわるの?」
「これから先、プロとして演奏を続けていくときに表現力の幅を広げたかったんだ。」
「なるほど。挑戦し続けるのはニックのいいところだよね。」
「失敗したけどね。」
「成功しかない人生なんてない。失敗を繰り返して生きていくんだからいいのよ。」
「聖女様からのお言葉は身に沁みるね。」
「揶揄わないでくれる?」
「本当なのに。」
「個性を出すのは悪いことじゃないけれど、自分でいいと思う演奏じゃなければ人前で演奏はまだしない方がいいかもね。ニックの人生に大きな変化があれば音も変わっていくんじゃない?個性を出したいなら人生経験を積む方がいいんじゃないかな。」
「そうだね。俺がマナに恋をした時はとてもいい音色が出せたし。」
「それは…うん…まぁ…よかったんじゃないかな?」
「大きな人生経験ね。今ここで失恋でもしてみる?」
「…バカなこと言わないで。コンクール本番前にそんなことするわけない。」
「そう。じゃあ今はまだ。夢をみさせてくれるんだね。」
「私が恋を知るのはまだ早いわよ。」
「どうだろうか。俺はオーラでわかるんだよ。恋をしている人間がね。」
「ニックは占い師に転職したら?」
「誰に恋をしているかはわからないけれどね。」
「ニック先生。私の恋は叶いますか?」
「もちろん。マナの告白を断る男なんてこの世に存在しない。」
「そんなことないと思うけど。ニック先生見通しが甘いんじゃないですか?」
「絶対大丈夫だよ。」
私の不安を見透かしたようにニックは答える
本当に敵う気がしない
人間が出来ているってこういう人なんだろうな
「じゃあそろそろ俺は自室に戻るね。」
「うん。気をつけて。私と仲良くすると誘拐されるらしいから。」
「は?何それ?」
「聖女マナと親しい人間が狙われているんだって。」
「何故?」
「マナを捕まえる為の囮として。」
「そんな情報どこで聞いたの?」
「聖女誘拐の実行犯から。」
「は?」
「さっきまで取り調べしてて。」
「えっ。」
「自白してたよ。私をラージ国に連れて帰る計画をね。」
「…そいつは捕まったのか?」
「騎士団が監視してる。今捕まえても牢屋なんてないし。」
「マナは大丈夫だったのか?怪我してないか?」
「白魔法使いに怪我なんてあるわけないじゃない。」
「それでも…血は出るんだから。」
「私は全然平気だけどニックに迷惑かけちゃうかもしれないから。ごめんね。」
「こうみえて俺は強いから大丈夫だよ。心配しないで。」
「うん。じゃあ気をつけて。おやすみ。ニック。」
「おやすみ。マナ。」