第189話 入れ替わり-フェイside2ー
僕は2年生の特進クラスの下駄箱へと向かう
「わっ…」
マナ先輩の靴箱には3枚手紙が入っていた
さすが学園のヒロインだ
中身を僕が見るのは忍びないが、今日、告白の呼び出し予定などがあるかもしれないので僕は中身を確認することにした
「な…なにこれ…」
3枚とも愛を綴った手紙だったが
告白とかではなく…
ファンレターのような…
ストーカーのような…
そんな内容だった
“いつも見てます”
“昨日は3年生の女生徒を助けていましたね”
“マナ様はいつまでもみんなの聖女様でいてください”
“マナ様に助けて貰えた恩義があります”
“僕はマナ様の為に命を賭けれます”
“何かあればいつでも頼ってください”
そんな内容の手紙が3通
マナ様の白魔法で救われた生徒達だろうか
信者のようだった
“愛されて困ればいい”とマナ先輩は言っていたけど
なるほど少し理解出来た
それでも僕みたいに嫌われるような存在よりは
マナ先輩の方が絶対いいと思う
僕はマナ先輩のクラスはと向かう
ガラッと扉を開けると
クラスのみんなが僕に注目した
いつもと違い編み込みをしたマナ先輩の姿にみんな驚いていたが声はかけてこなかった
マナ先輩は人気者でみんなが寄ってくると思っていたのに
意外とマナ先輩人望ないんだな
僕はマナ先輩から教えて貰った席につく
「おい。」
クリス様が声をかけてきた
「おはようございます。クリス様。」
僕は満面の笑みで言う
クリス様は着飾ったマナ先輩を見てなんていうのだろう
期待に胸を膨らませる
「マナはどこだ?」
「…え?」
「マナはどこにいった?」
「私がマナよ?」
僕は震える声で答える
どうして?
一言も話していないのに
何故バレた?
思わず俯くとクリス様は僕の手を掴み別の場所へと引っ張って連れていかれた
視聴覚室の鍵をクリス様が締めて僕に問い詰める
「お前が誰かはどうでもいい。誰と入れ替わった?マナはどこにいった?それだけ答えろ。さあ!!早く!!!」
「…フェイです。」
僕はか細い声で答えた
「…フェイ?何故入れ替わりなんて…」
「僕がマナ先輩みたいに美人で可愛くなりたいって言ったから…」
「そうか…マナは聖女もヒロイン役も辞めたがっていたしな。俺はお前と恋愛できないけれどまぁ頑張れよ。」
「いえ…入れ替わるのは今日だけです。」
「は?じゃあお前の願いを叶える為にマナは1日だけ入れ替わったのか?」
「そうです…。」
「マナは相変わらず大胆なことが好きだな。」
クリス様は慈愛に満ちた顔で微笑む
「あの…どうして僕がマナ先輩じゃないってわかったんですか?一言も話してなんかいないのに。」
「マナが自分を可愛くする努力なんてするわけない。」
「え?」
「可愛いと言われることを嫌っているのにそんなことするわけない。」
「可愛いと言われることが嫌いな人なんているんですか?」
「マナにとっては呪いのような言葉だよ。」
「…?」
呪い?可愛いと言われることが?
ますます意味がわからない
可愛いと言われることこそ
僕にとっては救いの魔法の言葉なのに
「それに…立ち方が違う。歩き方が違う。瞬きの回数が違う。いつものマナと全然別人だったよ。確信があった。マナじゃないってね。」
「…。」
マナ様宛に手紙を書いた3人を信者だと例えたが
クリス様は狂信者だよ
瞬きの回数ってなんだ?
そんなことまで見ているのか?
クリス様がこんなに入れ込んでマナ様のことを好きになっているなんて…
前のクリス様からは想像も出来ない
完全無敵の完璧主義なクリス様が
こんなにも恋に溺れるなんて誰が想像しただろうか
もはや別人だ
「フェイ…。まさかとは思うけどマナに如何わしいことなんてしてないだろうな?」
「え。」
僕はドキリとする
朝、全身鏡で下着姿を確認してしまった
「…おい。心当たりがあるのか?」
「まさか!!そんなこと僕がするわけないじゃないですか!!」
「お前は嘘がつくのが下手だ。マナの姿でもすぐにわかる。目が泳いでいるからな。」
「ひぇ…」
「何をした!!吐け!!!」
「ひいぃぃぃぃ!!ぼ…僕!!パジャマから制服に着替えるときに下着を見てしまっただけで…!!不可抗力です!!仕方がなかったんです!!ごめんなさいいいいいいいいい!!」
僕はクリス様から初めて攻められて怯える
僕にはずっと優しい紳士的なクリス様だったのに
マナ先輩のことになると豹変している
「…ふん。まぁ仕方ないか。」
「は…はい。」
助かった…すぐに着替えてよかった
下着を脱いだりしていたらここで命を落としていたかもしれない
「何色だった?」
「…え?」
「下着の色は何色だった?」
「そんなこと…答える必要がありますか?」
「あるだろ!!フェイが知っているのに何故俺はダメなんだ!!」
「僕は不可抗力ですから…」
「じゃあ見せろ!!」
クリス様は僕の服を脱がせようとしてきた
「ちょ…ちょっと!!やめてください!!紳士なクリス様はどこにいってしまわれたのですか!?女性の服を脱がせようとするなんて最低ですよ!!」
「フェイは見たのに俺は見ていないのは不公平だと思わないか!?」
「全然意味がわかりません!!やめてください!!だ…誰か!!助けて!!」
僕は押し倒されて着ていたカーディガンをあっという間に脱がされてしまう
こわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!
涙目になりながら僕は抵抗するが力では全く敵わない
バキッ
鈍い音が響く
ドサっと目の前にクリス様が倒れ込んだ
「大丈夫?」
男の人が僕を助けてくれた
「こ…こわかった…」
僕は震えて答える
「クリスの首を落として気絶させたからもう大丈夫だよ。」
「あの…ありがとうございました。お名前は?」
「俺はアーネルド・マリオ。マナの護衛騎士を担当している。」
「マリオ様。本当にありがとうございました。」
「教室に戻れるか?」
「はい。」
「クリスには俺から説教しておくから先に教室に戻るといいよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します。」
僕は視聴覚室を出て2年の特進クラスへと戻る
怖かった…
可愛いと性被害にも遭うんだな…
「可愛くてもいいことないか…」
マナ様の口癖を僕は思い出す
たしかに今のところいいことはなかったな
悪いことばっかりだ
大好きなクリス様が僕を触ってくれていたのに
恐怖しかなかったな
マナ先輩になればみんなに愛されて
ちやほやされて
クリス様からも愛されて最高だと思っていたのに
人を惹きつける魔性は
人を狂わせる魔性なのだと実感した