第180話 恋する乙女
イルカショーが終わり、イルカのTシャツはすぐに脱いだ
会場から出るとクリス様だけではなく、レックス様、ローズ様、ミメット様も待機していた
「マナ。一緒に回ろう。」
クリス様が言う
「え?嫌だけど。」
「そいつがそんなに気に入ったのか。」
「まぁね。」
クリス様が俺を睨む
「あの…俺は別に一緒に回ってもいいですが…」
「ダメだよ!次のペンギンの餌やりだって2人分しか整理券取ってないし!」
「じゃあそのペンギンの餌やり終わるまで待っててやるから。」
「待たなくていい。私は!シガーレッド・アレクサンダーと2人でいたいの!!」
マナ様は俺の腕をぐいっと引きながら言う
なんてことを言ってくれるんだ!!
恋の泥沼戦争に俺を巻き込むのはやめてくれ!!
クリス様の目が座って殺意むき出しになっている
「お…俺はマナ様と回りたくないです!!どうぞどうぞ!!他の方がペンギンの餌やりをして頂ければ!!」
「やだやだやだやだ!!絶対シガーレッド・アレクサンダーじゃないとやだあああああ!!!」
マナ様は俺にしがみついて離れない
「ちょっと!!やめてくださいよ!!」
「絶対やだ!!」
「…いいよ。ペンギンの餌やりぐらい待ってやるから。その後は…何も予定がないだろう?」
クリス様は穏やかに話しているが目が座っている
めちゃくちゃこわい
レックス様、ローズ様、ミメット様も俺達のペンギンの餌やりを待つ羽目になり、俺とマナ様がペンギンに餌やりをする様子を全員で見守ることになってしまった
俺とマナ様は飼育員の方に魚が入ったバケツを渡されて餌やりをする
「うっ…うっ…うっ…」
マナ様は何故が鼻水を垂らして号泣している
「…なんで泣いてるんですか。」
クリス様にこっちは殺されそうになっているのに
泣きたいのはこっちだよ
「もうやだあああああああ!!!何で私がこんな目に遭わないといけないの!?なんで私が世界の命運を背負わないといけないの!?アルテミスのバカああああああああ!!」
何故かこのタイミングで感情が爆発して情緒がおかしくなっていた
「ひっく…ひっく…私は世界を背負うような器の人間じゃないのに!!ただのインキャで根暗の女なのに!!!ニートになりたい!!ネットサーフィンしてゴロゴロしたい!!引き篭もりたい!!もう何もしたくないいいいいいいいいい!!!」
「そんなことないですよ…マナ様は毎日努力して頑張ってるじゃないですか…毎日見て来ましたから俺はわかってますよ…世界を背負う器のある人ですよ。マナ様は。」
「私は…いつも自分勝手で…マオを傷つけて…自分の欲望を満たすことしか出来なくて…!!そんなことしたくないのに!!マオが1番大事なのに!!」
それは…恋をしていると自白しているのでは?
「恋なんて誰かが傷つくものです。誰も悪くないんです。だからそんなに自分を責めないでください。」
「ううぅ…みんなハッピーエンドにしたかった。平等でありたかった!!!」
「マナ様恋してるんですか?」
「してない!!してないから!!」
今更その主張は無理があるんだが
俺たちの会話はクリス様達からは離れているので聞こえてはいなさそうだ
向こうからは何故かマナ様が泣きながらペンギンに餌をあげているようにしか見えてないだろう
いよいよ俺の命は本当に危なくなってきている
俺が泣かせているわけではないのに
俺が泣かしているようにしか見えないだろう
マナ様は恋心がバレてはいけないというプレッシャーでどうやら涙が止まらなくなってしまったようだ
「マナ様が恋しても1年間はきっと世界崩壊しないです。」
「…え?」
「マナ様が誰かと恋人同士になったとしたらマオ君は1年後堂々と横恋慕しますよ。魔王として世界崩壊なんてしません。」
「…どうして?」
「だってマオ君はこの世界を美しいと思っているのですから。失恋したぐらいで崩壊しないです。マナ様と違っていい子ですから。マオ君は。」
「…。」
「ちゃんと人間の男としてマオ君は勝負しますよ。そのために魔王になったんですから。世界崩壊させる為に魔王になったんじゃない。マナ様に愛されたくて、恋人になりたくて魔王になったんだ。」
「暴走したりしないかな…?」
「きっと。大丈夫です。」
そう言うとマナ様は落ち着いてきた
ペンギンの餌やりが終わり、クリス様達と合流をする
「何で泣いていた?」
クリス様が言う
「クリス様達と水族館を回るのがこわくて。」
「何で?」
「だって怒ってるんだもん。」
「…怒ってない。」
「睨んでるもん。」
「睨んでない。」
「私のこと…嫌い?」
「マナの全部が好きだよ。」
「私はクリスの独占欲強い所好きじゃない。」
「…ごめん。俺以外と楽しそうにしていると嫉妬してしまった。」
「いいよ。私もクリスと一緒がやだって言ってごめんね。」
そう言ってクリス様とマナ様は仲直りをしていた
マナ様はクリス様に恋をしている
誰が見てもそう思うような
恋する乙女そのものだった