第178話 昼食タイム
「じゃーーーーん!!昼食は私の手作り特製サンドイッチです!!」
イルカのふれあいパフォーマンスが終わり、俺達は昼食を食べることにした
レストランには入らず、マナ様が作ってきたサンドイッチを外のベンチで食べる
「毎日お弁当を作るなんて凄いなぁと思って毎日見てたんです。まさか食べれる日が来るとは思わなかったです。」
「そんなに嬉しいこと言ってくれるならもっと気合い入れてお弁当作ってこればよかったなぁ。すぐに食べられるようにサンドイッチにしちゃったよ。」
俺は一口食べる
「とても美味しいです。」
本当にめちゃくちゃ美味しかった
自家製の野菜を使っているのは知っていたが
実際に食べると本当に美味しい
「ねぇ。好きな食べ物何?」
「うーん。ハンバーグかな。」
「じゃあ今度ハンバーグ作ってあげるよ。」
「何故?」
「今日のお礼かな。」
「私はお礼をされる立場ではないですが。」
「だって私と2人きりで水族館なんて嫌だったでしょう?」
「いいえ。寧ろご褒美でしたが?」
「え?私のこと好きなの?」
「いいえ。好きでも嫌いでもありません。」
「…フッ。そうなんだ。私のこと好きでも嫌いでもないって言う人初めて会ったかも。エド様の手下だから私のこと嫌いなんだろうなぁって思ってたよ。」
「手下なんて人聞きが悪いですね。私はただの新聞部の部員です。」
「なんで新聞部に入ってるの?」
「特別な存在になりたかったからです。」
「フフッ。私は未だに普通の一般人になりたいと願っているのに。真逆だね。私達。」
「流石にマナ様のように世界を背負うことはしたくないですが。特別な歯車の1つになれたらなら俺は満足です。」
「私は普通に青春したかった。」
「そんなに気負うことなく世界背負って青春すればいいじゃないですか。」
「世界背負って気楽に青春できるわけないじゃん。」
「なるようになりますよ。マナ様の選択で世界が崩壊しようとも俺は別に構いません。俺はマナ様の作る新世界も興味がありますから。」
「あれ?世界崩壊阻止派閥じゃないんだね。」
「新聞部の掟。何事にも平等にですからね。」
「アハハ!!エド様は世界崩壊過激派アンチだし、私のこと嫌いで仕方ないって態度してるのにシガーレッド・アレクサンダーは違うんだね!!エド様のどこが平等主義なんだか。王様とズブズブの関係のくせに!!そう思わない?」
「世界崩壊は普通に阻止すべきですから仕方ないかとは思いますが…。」
「ぐうの音も出ないよ。そんなこと言われたら。シガーレッド・アレクサンダーは新聞部の鏡だね。何事も平等にするのはとても難しいから。私利私欲がどうしても入ってしまうものだからね。」
「マナ様は恋をして博愛主義が崩れたのですか?」
「恋なんてしてないわよ。」
「嘘ですね。マナ様は恋をしている。俺を口止めしたいから今回2人きりになって口止めしようと目論んだんじゃないですか?」
「そんなんじゃないわよ。今回シガーレッド・アレクサンダーと一緒になることを選んだのは息抜きがしたかっただけ。世界崩壊とか恋愛とかそういうのに疲れちゃったから。何も考えずにただ楽しみたかった。それだけ。攻略対象でもないし、私の頼みを断ることもないだろうと思ったから。適任がシガーレッド・アレクサンダーだっただけ。それにシガーレッド・アレクサンダーだって毎日毎日私のストーカーばかりしてつまらないでしょう?今日みたいに普通に友達と楽しくお話しするなんて久しぶりだったんじゃない?普通の日常が1番尊いものなんだから。私と違ってシガーレッド・アレクサンダーはいつだって普通の日常に戻れるんだから。普通に過ごすことほど幸せなことなんてない。そう思わない?」
「思わない。」
「フフッ。シガーレッド・アレクサンダーは普通の日常が嫌いなことはわかったわよ。」
「俺は今の状況がとても幸せだし、楽しいんだ。普通の日常に戻る気なんて全くないね。」
「普通に戻れば今日みたいに毎日楽しめるのに。」
「今日は“普通の日常”だと?」
「そう。とても楽しいでしょう?」
「…ハハッ。今日はとても楽しいです。」
「ほら。やめちゃえばいいのに。新聞部なんて!!」
「嫌です。俺は新聞部の活動を気に入ってますから。」
「私のストーカーしてるだけのくせに。」
「マナ様は毎日表情がコロコロ変わりますから。見ていて飽きなくていいですよ。」
「今日からポーカーフェイスになろうかな。」
「絶対無理ですよ。」
本当に何を言っているのだろうかこの人は
今日の出来事が普通の日常なんて
ありえないのに
世界最強の聖女
難攻不落のヒロイン
エラート・マナと2人きりで水族館デートだなんて
“特別な非日常”なのに
俺は今日の1日を
死ぬまで一生自慢出来るぐらい凄いことをしているのに
マナ様には全く自覚がないのだから
相変わらず自己評価が低い
マナ様の存在が普通の一般人と同じなわけがないのに
いつまでもマナ様は普通の一般人気分なんだから
笑っちゃうよ
確かに俺の日常なんてつまらないものだよ
マナ様を毎日ストーカーしては
報告するだけの日常
でもそれでもよかったんだ俺は
マナ様の瞳に映ることはなく
重要な役割を担ってるわけでもなく
ただの歯車の1つでしかないけれども
マナ様を眺めて3年間過ごすことは
案外悪くないものだから
それにストーカーを続けていたおかげで
この1日を過ごすことが出来たんだから
俺の高校生活おつりがくるほど
青春謳歌しているよ
「あーん。」
マナ様が手作りのサンドイッチを俺の口に運ぼうとしている
「…なんですか?自分で食べますけど。」
「こんな美少女に食べさせて貰う機会ないよ?」
「遠慮します。」
「ねぇ。こうやって女の子と仲良くする普通の日常が1番楽しいと思わない?」
「思わない。」
「なんでー?シガーレッド・アレクサンダーに普通の日常の素晴らしさを教えてあげたいのになぁ。」
「あーん。」
俺は逆にマナ様の口にサンドイッチを運ぼうとする
マナ様は戸惑いながら口を開けたので
俺はマナ様に食べさせてあげた
「口にマヨネーズついてる。」
俺はマナ様の口についたマヨネーズを指で取りぺろっと舐めた
マナ様の恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまっている
「いいですか?マナ様。“普通は”こんなこと友達にしません。“特別な”相手にするんです。マナ様は誰にでもやるから誰でも特別扱いされているかのように勘違いしますが。普通の日常を演出するなんてマナ様には無理ですから。諦めてください。」
「ひゃい…。すみませんでした…。」
情けない声を出してマナ様は言った