第173話 学園の妖怪
二年生になって二ヶ月が過ぎた
マオが魔王の森へと帰ってから心が落ち着かない
寝る時に隣にいつもいてくれたのに
誰もいないベッドで過ごす夜はとても寂しくて
未だに慣れない
マオと過ごした時間はたったの一年間なのに
どこか魂の片割れのような
そんな存在のように感じていた
エラート・マナが存在しているのは
マオのおかげだから
私の魂の入れ替わりがあった日に
私を救ってくれた恩人であり
エラート・マナのアイデンティティそのものだったから
マオの存在が
私を生かしてくれていた
そして私の存在が
マオを生かしていると思っていたのに
自惚れだったな
マオは私がいなくても立派に生きていけるんだもん
マオは寂しくて夜泣いたりしないのだろうか
私なんてしょっちゅう泣いてるよ
寂しいよ
こんなに会いたいと思っているけれど
マオ以外の人に恋してしまった
マオが一番大事なのに
マオを傷つけてしまう
一年後、マオに会うことがとてもこわい
私のことを嫌いになるだろうか
殺そうとするだろうか
私は…その時どうすればいいのだろうか
わからない
早朝、イシュタル先生と会った後に教室移動をしていると
「おはようございます。マナ様。ご機嫌はいかがですか?」
中庭で声を掛けられたので振り向くと
「ひゃあ!!なんでエド様がここに!?」
カーコック・エド
前年度の新聞部の部長であり、スリー様と同じ三年生で、卒業したはずなのに
今も制服を着て学園にいた
「私はここが仕事場なんだ。」
「教員にでもなったのですか?」
「やだなぁ!!私のような人間が人に教えを説くことなんてするわけないじゃないか!!」
「まぁ…人間性は破綻してそうですが、学力は優秀らしいじゃないですか。なろうと思えばなれますよ。」
「学力的には問題ないよ。でも人間性が破綻している人間が教師になんてなるものじゃないからね。」
「その言葉イシュタル先生に言ってくださいよ。」
「フフフッ。ちょうど今はイシュタル先生との密会後だったよね。今日はどんな衣装を着たんだい?」
「この学園のことならなんでも知っているのでしょう?そんなことを教えなくても知ってるくせに。」
「ハハハッ!!あの隠し部屋は本当に閉鎖された空間だからね。私の力でも何が行われているかはわからないね。是非教えて欲しいものだ。」
「そう?じゃあ今日の衣装を当てることが出来たら教えてあげるよ。」
「いいね。とてもいい駆け引きだ。マナ様は新聞部の部員の才能があるよ。」
「嬉しくない褒め言葉どうもありがとう。」
「うーん…今日は猫の衣装だね?」
「…知ってるじゃん。嘘つき。」
「たまたま当たっただけだよ。」
「嘘つき。」
「マナ様だって嘘つきじゃないですか。…ね?」
「どういうことですか?私がいつ嘘をついたと?」
「だってマオ君は全然安全な存在じゃなかったし。マナ様が守ると言っていたのに今は家出をして不良になってしまったじゃないですか。」
「やだなぁ。反抗期なんて成長するのに必要なことですよ?寧ろ健全に育っていると思いますが?」
「健全に育てて魔王復活ですか。笑えないですよ。」
「人殺しする魔王じゃないですから。安全な可愛いドラゴンですよ?」
「今だけでしょ。」
「マオが人間に戻ったら私と恋人になってハッピーエンド。何か不満でも?」
「ありまくりですよ。マナ様はマオ君のことを全く男と見ていない。恋に堕ちるとは思えない。」
「わからないですよ?成長したマオはきっと前とは別人のようにかっこよくなっていますから。一目惚れしちゃうかもしれませんよ?」
「そうなれば私だって万々歳ですけどね。この一年間でマナ様の恋が実ってしまって崩壊する可能性もありますからね。」
「私が?恋を?そんなこと出来ませんよ。この一年間、恋する必要がなくなったのは肩の荷が降りて嬉しい誤算ですね。」
「恋は堕ちるものですから。何が起こるかわからないのが恋ですから。」
「フフッ。そうだね。」
「笑い事じゃないけど。世界崩壊しそうなんだけど。」
「生と死は隣り合わせですから。」
「いい風に言って誤魔化すな。」
「ピンチはチャンスっていいますし。」
「現実逃避してるだけじゃないか。」
「うるさいなぁ。何?エド様は私に文句言う仕事なの?」
「そうだよ。」
「…え?本当に?」
「私は聖女の研究を任されているんだ。」
「…なるほど。」
「やっていることは新聞部の活動の延長だけどね。今はお金を頂いて働けているから得した気分だよ。」
「どうして制服を着ているんですか?」
「この格好が一番浮かないからね。この学園で。潜入しやすいんだよ。」
「卒業してもずっと制服で学園をうろうろしているなんて都市伝説の妖怪になったみたいですね。」
「妖精にしてくれる?」
「フフフッ。そんなファンシーな存在似合わないですよ。」
「マナ様と違って可愛くないからね。それで?今日は隠し部屋で何をしたんだい?」
「忘れてると思ってたのに。」
「私が取引の情報を聞き逃すわけがないだろう?」
「今日は猫衣装を着せられて、水皿の水を舐めさせられました。」
「…結構マニアックなことをさせられているんだね。」
「何が興奮要素になるのか意味がわからないですね。」
「無知ゆえに変なこと覚えさせられてそれが常識になっていきそうだね。」
「え?今日のことってやばいんですか?特に変な
ことされなかったから言ってもいいかなって思ったんですけど。」
「変なことじゃないけれど、変態なことはさせられているよ。君が育てた変態だからしょうがないね。嫌ならすぐに王様に引き渡せばいいだけだ。」
「一生無知なので私が立派な変態に育ててあげますよ。」
「無知は罪ですよ。マナ様。情報こそこの世で一番大事なものですから。」
「いいえ。この世で一番大事なものは情報ではないですよ。」
「なんですか?愛ですか?」
「命ですよ。」