第170話 推しの幸せ
清掃時間
私はローズ様と二人で階段掃除の担当を任された
「ローズ様と一緒に出来るなんて幸せ♡」
「はいはい。」
「あれ?運動会の時はもっと親密だったじゃないですか。」
「マナが新しい男を誑かしてるのを見てるから呆れてるのよ。相変わらずね。」
「フェイのことですか?可愛い男の子は笑顔でいてほしいじゃないですか。ただそれだけですよ?」
「ただの尻軽じゃない。マナのそういう所嫌い。」
「そう見えます?困ってるみたいだったからちょっとだけ手助けをしたら懐かれただけですよ。」
「…マナのちょっとした気まぐれで恋の沼に堕とされて可哀想。マナの1番になんてなれやしないのに。」
「そんなことわからないですよ?人生何が起こるかわからないじゃないですか。」
「そうね。世界一かっこよくて可愛いのはローズ様だとか言ってたくせに、今はフェイ君にその座を取られてしまったようだし。人生何が起こるかわからないわよね。」
「や…やだなぁ!!ローズ様が世界一かっこよくて可愛いですよ!!」
「マナのそういう八方美人な所が大嫌い。」
「…申し訳ございません。」
「まぁ…今となってはマナの恋愛事情も攻略対象がマナに振り回されて酷い有様になっていようが、私には関係ないからね。勝手にすればいいわよ。」
「えぇ!?そんなこと言わずに!!私達友達でしょう!?恋バナとかして友情を育みましょうよ!!」
「…私の恋バナとかも聞いてくれるってこと?」
「もちろん!!………って………えぇ!?なっ何言って…!!まさか…す…好きな男が…出来た…とか?」
「好きっていうか…婚約者が出来たんだけど…」
頬を赤らめて恥じらうようにローズ様は答えた
「ええええええええええええええ!!!どこぞの!!不届き者が!!!!」
「アーネルド・マリオ様だけど…知らなかったの?」
「はあああああああああああああ!?」
なんだこの行き場のない感情は!!
私の大好きな人達が結ばれてハッピーエンドのはずなのに
喜んで祝福したいと思っているのに!!
大好きだからこそ
両者に裏切られたような
取られたような
そんな醜い感情が渦巻いてしまっている…!!
「ぐっ…推しの結婚を喜べない人種を何故なんだと思っていたが…いざ自分の身になるとこんなにも辛いなんて…」
「や…やだな…まだ結婚したわけじゃないよ…」
なんだこのくそ可愛い乙女モードのローズ様は
これをいつもマリオお兄様は堪能しているのか?
羨ましくてゲロ吐きそう
「婚約っていつから?」
「今年の4月から。マリオ様が卒業して私が2年生になった時に婚約の話を受けて顔合わせしてそのまま…」
「婚約の話を受けて!?マリオお兄様から婚約を申し込んだの!?」
「そうよ。」
「身分不相応の恥晒しめ!!宇宙一美しいローズ様を口説こうなんて100億光年早いわ!!!」
「身分は同じ貴族だし…親同士も応援してくれて円満だけど…」
「聞きたくない!!聞きたくない!!」
「フフッ。マナの苦痛に歪む顔が見れるだけでこの婚約は大成功だったのかもね。」
「お兄様はシスコンだよ?私のことが大好きな人間は嫌いって言ってたじゃない!!」
「別に恋愛感情じゃないからいいわよ。それに…ちゃんと大事にしてくれてるし。」
「ぐはっ!!!やめて!!これ以上惚気られてダメージを食らうと死んじゃうから!!!」
「恋バナして友情を育もうって言ったじゃない。」
「私が悪かった!!私がローズ様に抱いていたのは友情じゃなくて劣情だったんだ!!あわよくば押し倒したいと思っていたんだ!!」
「ものすごいかっこ悪いカミングアウトするわね…しかも愛情でも恋愛感情でもなく劣情なんだ…」
「私は醜い人間だ!!!」
「本当に最低。」
「うぐぐぐぐ…」
「でもまぁいいわよ。私はそんな最低なマナに押し倒されることもなく私のことをやっと大事にしてくれる素敵な人に出会えたのだから。」
「えぇ?騙されてません?マリオお兄様なんて恋愛経験値ゼロなんだから。本当の恋に目覚めたとか言って裏切る可能性もあるよ?」
「ちょっと!!人の傷口を抉るようなこと言わないでよ!!」
「世の中には横取りが好きな悪い女がたくさんいますからね。」
「マナみたいな?」
「私は自主的に横取りしたことは1度もありません!!結果的に横取りをしたことがたくさんあるだけです!!」
「フェイ君は?」
「クリスから横取りしたってことですか?まぁ…うん。ちょっとだけ意図的だったかもね。本当に!!ちょっとだけ!!」
「悪女裁判有罪!!」
「聖女なのに〜!!」
「男を誑かしてばっかでフラフラしてるからよ!!いい加減本命決めて一途に誠実に生きなさい!!」
「えぇ…?じゃあ悪女認定されちゃったし。ローズ様狙っちゃおうかなー?」
「…なに言ってんの?」
「私、マリオお兄様なんかよりたくさん愛してあげれますよ?私の愛は無限大ですから。寂しがり屋なローズ様をほったらかしにするような薄情者なんかより私はずっと側にいてあげるし、毎日愛を囁いてあげるよ?」
「会えない時間は多いけど…何回かデートにだって連れて行ってくれたし…」
「1番に優先してくれなくちゃ嫌ですよね?」
「そんな子供じみたこと言わないわよ…」
「いいじゃないですか。我儘なローズ様。私は好きですよ。いっぱい甘やかしてあげますよ?」
「…。」
「おいで?」
私がそう言うと上からマリオお兄様が降ってきた
「邪魔者は呼んでないけど?」
「俺が大事にするし甘やかすから。」
そう言ってマリオお兄様はローズ様の肩を寄せた
ラブラブな所を見せつけられて気分は最悪だ
「…なんで黙ってたんですか?」
「恥ずかしかったから。」
「ちぇすとととととととととおおおおおおおおお!!!」
私はマリオお兄様の頭にチョップを食らわす
「いってぇ…」
「マリオ様!!大丈夫ですか!?」
「はいはい!私はどうせ2人の邪魔者ですよ!!お邪魔虫ですよ!!幸せになってよかったですね!!」
「うん。幸せ。」
「ありがとう。マナ。」
「うぐぐぐぐぐ…お…おめでとう…」
血の涙を流しながら私は言った