第168話 マイノリティ
第四倉庫でイシュタル先生に会ってから教室に帰ろうとした時に
渡り廊下でたまたま目撃してしまった
「フェイがスカートで登校してるぜ〜。」
「気持ち悪い男だなぁ〜アハハ!!」
一年の男子生徒二人がフェイに聞こえるように言っていた
フェイはただ俯いて歩いていた
私は俯いているフェイの顔を覗き込んで顔を合わせた
「うわぁ!!!」
「おはよう。フェイ。」
男子生徒二人はまずいという顔をして去ってしまった
「人の顔を覗きこまないでください。」
「下向いてて可愛いお顔が見えなかったからさ。」
「用がないなら僕はもう行きます。」
「あるよー。」
「なんですか?」
「一緒に遊ぼ♡」
「さようなら。」
「待って待って!!えーーーっと…なんでもいうこと一つだけ聞いてあげるから!!ね!!」
「では今すぐ僕の前から去ってください。」
「あ!やっぱり今のなし!クリスに会いに行かない?ね?」
「今はいいです。そんなに気を遣わなくて大丈夫です。こんなこと毎日言われてるし。慣れてますから。」
「ぜーんぜん慣れた顔してないもん!慣れてなんかないよ!すっごく傷ついてる!!」
「いいんですよ。僕はマイノリティだし、大多数の人間に受け入れられる存在じゃない。気持ち悪いと思われることは普通なんです。」
「だからって黙って卑下にされているのは違うと思うよ。気持ち悪いと思うことはたしかに人それぞれだけれどそれを本人に悪意を持って言うことは明らかに酷いことだと思う。」
「言われる度に言い返せって言うの?めんどくさい。あんなやつらの相手なんてしたくない。」
「おいで!!」
私はフェイの手を繋いで強引に連れて行く
「ちょっと!!」
文句を言われながら私達は近くにあった生徒会室へと入った
「ここなら二人きりで話せるね。」
「そうやっていつも男を誑かしてるんですか?」
「やだなぁ。私はフェイにしかこんな大胆なアプローチしないよ?」
「胡散臭い…」
「私はフェイの気持ちわかるよ。私も前はめんどくさくて何もしなかったから。嫉妬と妬みで恨まれることが多かったけれど…特に何もしなかった。」
「何?僕のことを言ってるの?」
「違う!違う!そうじゃなくて…人から敵意を向けられてたら辛いから。そんなの…」
「可哀想?」
「いや…」
「憐れまないで。僕は好きでこの格好をやってるんだ。陰口言われて傷ついても僕は自分の姿を偽ることの方がしんどいからね。この姿でいることに誇りをもってやっているんだ。僕は世界一可愛い。そうでしょう?」
「フェイは世界一可愛いし、世界一かっこいいよ。」
「ふん。マナ先輩に言われてもね。マナ先輩はみんなに愛されてていいですよね。僕とは大違いだ。」
「フェイは大勢の人に好かれたいの?」
「まさか。僕の欲しいのはクリス様の愛情だけだよ。」
「フフフッ。だよね。私も同じだよ。大勢の愛情はいらない。大事な人の愛情だけで十分なんだ。」
「マナ先輩が言っても嫌味にしか聞こえないけどね。みんなに愛されてて何もかも手にしているのに。」
「そうだね。だから羨ましいな。フェイの好きだと言う言葉は誠実に、美しく聞こえるから。」
「僕が羨ましい?」
「うん。大多数の俗物に染まることなく、自分のマイノリティを大切にしてるフェイだからこそフェイの言葉は響きやすい。」
「僕の声なんて誰にも届かないよ。」
「そんなことない。大事な人には綺麗にまっすぐに届くよ。」
「クリス様だって僕の声なんて聞いてないよ。」
「私がいるじゃない。」
「…。」
「誰にも届かなくても私には届いてる。フェイの気持ち全部私が受け止めてあげる。」
「どうして僕にそんなに構うの?」
「可愛い子の辛い顔はほっとけないからね。」
「僕になんかに構ってないで世界平和の為に行動した方がいいんじゃないですか?聖女様。」
「バカね。世界平和の第一歩は近くにいる人を笑顔にさせることよ。フェイの辛い気持ちを寄り添えないやつが世界を救えるわけない。そうでしょう?」
「どうしてマナ先輩なんだろう。マナ先輩だけには救われたくなかったのに。人が弱ってる所に優しくするなんて最低だ。」
フェイは私に抱きつく
私はフェイの頭を撫でてあげた
「マナ先輩。こんな僕を愛してくれてありがとう。」