第163話 特別
「いやはや。驚くような速さで闇の神との接触に成功してしまうとは。さすがはガーネット・スリーだな。」
「…買い被りですよ。ガードン王。私は闇の神との接触に成功したのはマオが素直に応じてくれたからです。マナの言うことを守って。私は関係ありませんよ。」
「スリーの人望のお陰ということだよ。素晴らしい活躍じゃないか。」
「たまたまです。運が良かっただけですよ。」
「また接触は可能か?」
「はい。実体を保つことは難しいようなので、すぐには無理かもしれませんが…」
「そうか。では次はマオが殺されたらどうなるか調べて欲しい。新しい魔王が誕生するのか。マオが死ねば世界は平和になるのか。」
「…わかりました。」
「期待してるぞ。」
荒振神【アラブルカミ】に会ったことをガードン王に報告をする
次の仕事はマオが死んだらどうなるかだ
死んだら世界平和になると知れば
どうにかしてマオを殺そうとしてくるだろう
それはマナの望む世界ではない
何がなんでも阻止をしないと
それに…
気になるのはマオ君の状態だ
マオ君は今の現状に満足していない
弟として愛されることよりも
恋人になりたいと強く願っているようだ
こちらの問題も解決しないといけない
おそらくマナはマオ君を恋愛対象に見ることはほぼない
完全なブラコンだ
マナはいつかは他の人を恋人にするだろう
その時にマオ君がまた暴走をして魔王にならないようにしなければならない
魔王に戻れば今度こそマナが浄化に失敗して死ぬかもしれない
それだけは絶対に阻止しなければ
マオ君にはチーノという友人がいるらしい
マオ君にはマナ以外にも関わりを持たせて外で生きていける力を身につけなければいけない
私に出来るだろうか
いや…弱音なんて言ってられない
やらないといけないんだ
その為に私はここに来たのだから
全てはマナの為に
私はやり遂げてみせる
それからはなるべく外の世界との接触を増やすよう
マオ君と一緒に街へと出かけたり
チーノ君と一緒に遊園地へ行ったりした
私と二人きりではやはりあまり楽しそうにはしてくれないが
チーノ君と一緒に遊園地へ行った時はとても喜んでいた
チーノ君とはやはり積極的に遊びに行くとしよう
私と一緒に過ごす時間も増えたことから
少しずつだが、笑顔で接してくれることも増えてきた
とても賢い子で
私の話す科学の話にとても興味を持ってくれた
魔法しか習わなかったようだから
私の話す知識に興味を持って聞いてくれるようになった
そんな生活が二ヶ月ほど続いて
また魔王の森に行くことになった
マオ君が“実体がなくても話せるかもしれない”と言うので
魔王の森に風魔法で行った
前回と同じ場所に降りてマオ君はポケットから憑代を取り出す
マオ君が用意した憑代に荒振神【アラブルカミ】は入り込み、また話せる状態になった
「我こそは全人類の敵!!荒振神【アラブルカミ】!!全人類我の前に平伏せ!!」
マオ君が用意した憑代は黒猫のぬいぐるみだった
前回に増して威厳がなくなっていた
「お久しぶりです。荒振神【アラブルカミ】様。」
「この憑代のお陰で話すことができるわい!我が子は賢いのぉ!!」
「ねぇ。あーちゃん。僕、大人になりたいんだ。どうしたらいい?」
「ん?そんなことは簡単だ。もう一度魔王になればいい。一年間魔王の姿で過ごせば人間では五年分成長するのだからな。」
「そっか…。一年間僕が魔王になればマナと同い年になれるのか。」
「そうじゃな。」
「マオ君。そんなことをしたらマナがまた浄化しなければいけなくなる。今度はマナは死んでしまうかもしれない。」
「大丈夫だよ。医者のスノーは優秀だから。」
「マナが死ぬ可能性があるんだぞ!?本気で言っているのか!?」
「本気だよ。僕はどうしても恋人になりたい。」
「魔王になればガードン王だって黙っていないぞ!マオ君を殺しにくるぞ!!」
「魔王の僕が負けるわけないだろう?」
「人を殺したくないんじゃなかったのか?」
「僕はもう力の制御が出来るからね。前回魔王に戻った時も誰も殺さなかった。」
「やめろ!!魔王にならなくても方法が…」
「ごめんね。スリー様。そんな時間僕にはないんだ。他の誰かに取られる前に僕はやらなくちゃいけない。」
「我が子は強欲じゃの〜。少しは魔王の風格が出てきたかのぉ?ハッハッハッ!!」
「あーちゃん教えてくれてありがとう。」
そう言ってマオ君は風魔法で飛んでいく
マオ君もマナと同様にミケお爺さんに魔法を教えてもらい
全ての魔法が使えるようになっていた
「待て!!!」
私は荒振神【アラブルカミ】の憑代の黒猫のぬいぐるみを持ち、マオ君を追いかける
「…マナ。」
「おかえり!マオ!!ちょうど晩御飯が出来たよ!!」
「大好きだよ。マナ。」
「私も大好きだよ。マオ。」
「僕。マナの恋人になりたい。」
「どうして?私は恋人なんかよりマオが大事だよ?」
「いいんだ。もう。一番に大切にしてくれなくても。」
「そんなこと言われてもマオは私の一番大事な人だから。」
「マナが博愛主義なことを知っている。気持ちに優劣をつけることをとても嫌がる。みんな平等に愛していれば平和になると信じている。」
「…どうしたの?マオ。嫌なことでもあった?」
「後輩の男が可愛かったとかローズが今日もかっこよかったとかそんなことは言っても結局は気持ちに優劣なんてつけてない。誰も特別なんかじゃないんだ。」
「マオは特別だよ?」
「嘘だね。僕は特別なんかじゃない。例えばスリー様が家出をしてこの魔塔に住むことになれば兄になりスリー様だってマナの特別になる。」
「…。」
「マナの特別になるのなんて簡単なんだよ。」
「そんなことない。私は本当に…」
「僕は恋人になりたい。どうしても。マナの本当の特別になりたい。」
「そんなの…」
「わかってる。今の僕じゃ無理だって。だから僕は一年間魔王に戻る。次に会える時は僕達は同じ歳だ。」
「嘘でしょう?やめてよ!!そんなことより毎日一緒にいられる方が幸せだよ!!」
「ごめんね。マナ。一年待ってて。必ず僕が会いに行くから。」
「やだよ!!行かないで!!お願い!!!」
「もしもマナが他の人を選んで僕が世界を崩壊しようとしたら。」
「やだ!!お願いだから側にいてよ!!」
「僕を必ず殺してね。僕はこの世界を愛しているんだ。」
マオは目の前で魔王の姿に戻り
そのままどこかへ飛び立った
「うわああああああああああああああああ!!!」
泣き叫ぶマナを置いて