第162話 荒振神
「初めまして。私の名前はガーネット・スリー。よろしくお願いします。」
「マオです。よろしくお願いします。」
「私は君の“魔王”の研究を王様から命じられてここにきています。最初の任務は闇の神様との接触。協力してくれるかな?」
「はい。」
「驚いた。そんな素直に応じると思わなかったから。」
「貴方のことはマナから聞いていましたから。」
「なんて言ってたの?マナは。」
「“スリー様はマオの味方になってくれるから。仲良くしてね。もしも裏切られたら私が殺しに行くからね”と言っていました。」
「フフフッ。マナは本当にマオ君が一番大事なんだね。羨ましいよ。」
「そうですか?私はスリー様の方が羨ましいです。」
「えぇ?少し優秀なこと以外は特に何の面白味もない人間だけど。」
「だってスリー様は選ばれたじゃないですか。マナに。」
「あぁ…あの雪遊びの為に拉致された日のこと?そんな大層なことじゃないよ。ただ雪遊びしただけなんだから。」
「嘘つき。僕は魔王になればこの世界全てを見通せる力があるんだ。あの日何があったか僕は全て知っている。」
「…何もなかっただろう?」
「スリー様がマナの告白をはぐらかしたからね。スリー様が臆病な小心者でよかったよ。もしも恋人にでもなれば僕はこの世界を崩壊させていたからね。」
「ハハッ。自分が臆病で小心者で得する日が来るとはね。」
「マナを振ってくれたことには感謝しているよ。僕だってこの世界を壊したくないからね。」
「どういたしまして。」
「それで僕は何をしたらいいの?」
「闇の神様と接触したことはある?」
「ない。」
「マオはどうやって生まれたの?」
「気づいたら森の中にいた。親とかそういうのはいなかった。」
「声が聞こえたりはしなかった?」
「…そういえば生まれてすぐは誰かに語りかけられてたな。うるさいぐらいに。」
「何て言われてた?」
「人間を襲えとか人類は敵だとか…。」
「なるほど。」
「あまりにもずっと木霊してずっと話しかけられるから、うるさい!!静かにしろ!!って言ったらすぐに声は聞こえなくなった。」
「それからは一度もない?」
「ないと思う…。」
「おそらくマオ君を作った闇の神様の声だったんだろうね。」
「そうですね…。」
「一度マオ君が生まれた森に行きましょうか。」
「今からですか?」
「風魔法ならすぐに飛んで帰ってこれるから。」
私はマオを連れて魔王の森へと風魔法で飛んで行った
「ここですか?」
「はい。」
マオが生まれた森に入った瞬間
「我を探して会いにきたのかな?愛しい我が子よ。」
そう言って目の前に突然降り立った
透けた体
人ではない存在
黒のドレスを身に纏い
マナと同じ漆黒の髪を持ち
マオと同じエメラルドの瞳をした
六歳ぐらいの幼女がそこにはいた
「貴方が闇の神様ですか?」
「我こそはこの世界の絶対的悪の存在!!荒振神【アラブルカミ】である!!!人類の敵であり最も恐れられる存在!!我の前に全人類が跪け!!!」
…とても恐ろしい神様のはずなんだが
いかんせん容姿が幼女であることと
声も可愛らしい子供であることから
幼女のお遊戯会のようだ
「荒降神【アラブルカミ】様にお会いできて光栄です。」
「ハハッ!!苦しゅうない!我が子が会いに来てくれたのだからなぁ!!我のことは親しみを込めてあーちゃんと呼んで構わんよ!」
「ではあーちゃん。」
「貴様に言っておらん!!あーちゃんと呼んでいいのは我が子の魔王だけじゃ!!!」
「あ…すみませんでした…。」
「わかればよいのじゃ。我の心が寛大でよかったのぉ。」
「寛大な心遣いに感謝致します。」
この神様少し話しただけだけど…
知性が全く感じられない
おそらくマオと同じ三年程しか生きていない気がする
言動も
行動も
姿も
幼すぎる
「…あーちゃん。」
「おお!!やっと話してくれたか!!我が子よ!!どうした?何か我に聞きたいことがあるのか?」
「どうして僕を作ったの?」
「愛してるからだよ。」
「そうじゃなくて…人類を滅ぼす為に僕は生まれたの?」
「まぁ…人類を滅ぼせば我の望みが達成出来るからな。」
「あーちゃんの望みって何?」
「我の望みは魔族の繁栄だよ。この世を人類ではなく魔族の世界にしたいんだ。」
「世界崩壊じゃないんだ…。」
「ふふん。我が魔王を作るときにステータスを割り振りするのだが、よくわからんくてな!とりあえず力に全てカンストさせたんじゃよ!!そしたら心が真っさらになってしまってのぉ。何もせずに蹲っているだけの魔王が出来上がってしまったものじゃから焦っていたんじゃがの…。ハハハ!!今になってはマオがマナに恋をしたお陰でマナと結ばれようと結ばれないかろうと我の望みは叶うのだから!!イージーじゃったわい!!ワッハ!ハッ!ハッ!」
「どういうこと?」
「だって…マナが他の人と恋をすれば世界崩壊して魔族の世界になるし、マナと結ばれたらそれはそれで魔族と聖女の子供が出来て繁栄するだろう?ハッピーエンドしかないわい!!ガハハハ!!!我は天才じゃのお!!こんな凄い魔王を作るなんて!!!」
そう言った後に体が透けて実体を保てなくなってしまっていた
「あ。どうやらタイムリミットのようじゃ。我が子と話せてよかったわい!!また遊びにきてくれ!!愛しい我が子よ!!」
そう言って荒降神【アラブルカミ】様は消えてしまった
「思いの外すぐに接触できたし、望みもわかったね。」
「そうですね。」
「マオ君。私は君の味方だよ。でもね。一番はマナの味方なんだ。マナの望みが私の望み。マナが選んだ未来が私の未来だ。…言っていることわかるかな。」
「えぇ。マナが僕じゃない別の誰かを選べば敵対すると言ってますね。」
「…それでもマナはマオ君が一番大事だと思うよ。マオ君はマナの特別な存在なんだ。そんなに愛されていてどうして不満なんだ?」
「一番大事にされても意味がない。特別に愛されて大切にされることも望んでいない。僕はただマナの恋人になりたい。」
「恋人なんかよりも今の関係の方が美しいと思うけど。」
「美しくなんてなくていい。平等に愛するマナの恋慕が欲しい。どうしても。誰よりも深く。愛して欲しい。」
「強欲だね。」
「僕は魔王だからね。」