第161話 救済
全校集会で新生徒会長のマール様は
今年度の生徒会は差別をなくして生徒達の自由を重んじる
その第一歩として男子がスカートを履いてもいいし、女子がズボンを履いてもいい校則へ変更すると高らかに宣言した
生徒達の反応は思いの外好印象だった
特に女子はズボンを履きたかった生徒が多くいたようで
喜んでいた
マール様は革命は嫌だとか俺は保守的な人間だとか言っていたが
ステージ上で演説する姿は堂々としており
立派なリーダー気質を感じた
実際はめんどくさいなぁと思いながらやっているのだが
微塵も感じさせない立派な演説だった
凄い演技派だ
マール様の立派な演説のお陰で好印象を残し、新しい校則はすぐにでも実装されそうだ
全校集会は大成功に終わり解散した
いつも通り委員会の仕事をレックスと行ってから
オーケストラ部でニックにしごかれて
魔塔へと帰宅しようとしていたら
「マナ先輩。」
靴箱で意外な人物に声を掛けられる
「あれ?フェイ君?どうしたの?」
「待ってたんですよ。マナ先輩を。」
「フフッ。こんなに可愛い子に待ち伏せされちゃうなんて嬉しいなぁ。」
「…あの新しい校則ってマナ先輩の発案って本当ですか?」
「そうだよ。私がマール様にお願いしたの。」
「なんでですか?」
「そりゃあ勿論フェイ君が喜んでくれるかなーって。」
「本当にそんな理由で校則を変えようとしてるんですか…?」
「そうだよ。」
「マナ先輩には何もメリットがないことなのに。」
「何言ってんの。メリットしかないよ。実際私が発案したって知ったからフェイ君は私を待ち伏せして会いに来てくれたわけでしょう?もう既におつりがくるほど得してるけど。」
「どうして僕にそんなよくしてくれるんですか?僕はマナ先輩にひどいことを言ったのに…。」
「好きだから。」
「え?」
「大好きだから。」
「…一回会っただけなのに?」
「愛は育むもので恋は堕ちるものだそうよ。」
「僕に恋をしたってことですか?」
「一目惚れしただけ。私の動悸なんてそれだけ。」
私がそう言うと突然フェイ君はぽろぽろと涙を流した
「え!?どうした!?何か嫌なことあった!?」
「ち…違うんです…違います…」
「だ…大丈夫?」
「うぅ…ひっく…ひっく…僕の為にこんなにも優しくしてくれたことが初めてで…僕は異端者で…誰にも理解されなくて…クリス様だけが…そのままでいいって言ってくれて…だから…クリス様が大好きで…」
「うん。」
「クリス様と一緒にいられるならなんでもよかったんだ…この恋は一生叶わない…。ましてやライバルが絶世の美女であり、世界唯一の聖女様なら尚更勝ち目なんてない…。」
「…。」
「マナ先輩が羨ましかった…。僕は…去年の文化祭のマナ様のアイドルステージを見たんだ。その時思ったよ。神様は不公平だって。マナ様は僕の欲しい物を全て持っている。美貌も好きな人も…女の子であることも。全て全てマナ先輩が持っていて羨ましかった。妬ましかった。僕の欲しい全てを手にしているのに…その全てを無価値のように扱うマナ先輩が大嫌いだった。」
「…。」
「それでも…僕のことを一番理解してくれて愛してくれるのもマナ先輩だった。」
「フェイ君…。」
「ありがとうございます。僕の為に校則を変えてくれて。女の子の格好をすることを可愛いと言ってくれて嬉しかったです。」
「私ね。フェイ君のどこに惚れたと思う?」
「顔でしょう?」
「勿論外見も大好きだよ。世界一可愛いと思ってる。でもさ。一番好きな所はフェイ君のその素直な所が好き。出会ったすぐに私のこと運がいいだけのずるい女だって言ったでしょう?私はフェイ君の素直にそう言ってくれる所が一番好き。今も素直な気持ちを伝えてくれるでしょう?嫌なこともいいことも全て話してくれるフェイくんが私は大好きだよ。ありがとね。」
「うっ…うっ…うわああああああああああああああんんんんん!!意地悪言ってごめんなさいいいいいいい!!!」
「やだなぁ。今嫌なことも言ってくれて嬉しかったって話した所なのに。」
私はケラケラと笑いながら泣いているフェイの頭をポンポンと優しく撫でる
「もしかして惚れちゃった?」
「ううぅ…それでも大嫌いですうううううう!!!」
「まだダメかぁ。」
「それでも…僕を救ってくれてありがとうございました…。」
「これでも一応聖女ですから。」
「こうやって男を誑かしてるんですね…。」
「やだなぁ。フェイ君だけだよ♡特別なんだから♡」
「全員に言ってるんだ。恐ろしい女だ。やっぱり大嫌い。」
「本当なのに…。」