第16話 メイドと護衛騎士は同担拒否
「私、ハードル家のご子息の方の婚約することになったの。」
「ハァ!?」
レイが大声で驚いた。
「この前お父様と演劇行った時にいいご子息と婚約できるようにお願いしたの。いいよって言ってくれて紹介されたのがハードル家のご子息なの。」
「よかったですね。おめでとうございます。」
アリサが言う。
「全然めでたくない!何勝手に婚約してるんですか!?まだまだ早いですよ!!」
レイが混乱して取り乱している。
「明日ご子息の家にご挨拶に行くんだけど、花嫁修行としてハードル家でこれから過ごすことになるの。」
「ハァ!?!?」
「明日からレイとアリサはしばらくお別れだけど…立派なレディになる為に頑張るね。」
「いやいやいやいや!?ちょっとツッコミが追いつかないですよ…」
大混乱しているレイ。
「ハードル家の方の要望でね。こちらから婚約をお願いしたから断ることが出来なくて…急な話になって悪いけど…」
「いつ帰ってくるんですか!?」
「基本的にハードル家で過ごすことになると思うからわからない。帰る時も一週間ぐらいしかアーネルド家には滞在出来ないと思う。」
「なんで俺とアリサはハードル家に行ったらダメなんですか!?」
「ハードル家のメイドと護衛騎士をつけてくれるそうよ。貴方達はアーネルド家の大事なメイドと護衛騎士だから勝手に連れていけないし。」
「屋敷を出る時は一緒にって言ってくれたじゃないですか!!」
「私は連れて行くとは言ってないわ。」
レイが泣き出す。
「そんな…入れ替わりの作戦はどうするんすか!?俺達が一緒にじゃないと!!」
「もちろん一緒に居て欲しかったんだけど、状況が変わったからね。最悪聖杯があれば出来るから…一人で説得してみせるわ。」
「お嬢様は元々アーネルド家に居たくて入れ替わりを阻止しようとしてるんだろ!?自らアーネルド家を出たら意味ないじゃないですか!」
「そう…なんだけど…まぁ私がお父様に軽いノリで婚約者探しをお願いしてしまったし…家同士の問題だから今更やっぱやだーなんて言えないよ…」
「言えばいいんですよ!ちょっとした冗談だったって!!」
「いやいや…お父様にアーネルド家の恥をかかかせる訳にはいかないじゃない…。」
「これは一生ものなんですよ!今は子供だから冗談でも許されますから!ね!」
「でも…写真を見ると凄く紳士的で優しそうな人だし…こんな立派な方今後婚約出来ないかもしれないから…」
「写真でしかみたことないようなハードル家のご子息がそんなに大事なんすか!?」
「ごめんね…レイ…私この婚約逃したくないの…」
「そんな……オレたちよりハードル家のご子息が大事なんですか?アーネルド家が大好きって言ってたじゃないですか!どうして…俺を…連れて行って下さい…お願いします…なんでもやりますから…。」
レイはボロボロと大粒の涙を零し始めた。
「私だけで決めれないのごめんね。レイ。」
「婚約なんて早すぎるんですよ…なんでそんな話に…ハードル家の奴らマリアお嬢様が可愛いからってそんなすぐに取ろうとしやがって…ぜってぇ許せねぇよ…殺してやる……」
「ええ!?あのレイ実は…」
「ハードル家の子息が暗殺されたらマリアお嬢様がアーネルド家を出る理由もなくなりますよね…」
「ストップ。やめなさい。」
アリサが言う
「アリサ止めんじゃねぇよ。絶対許せねぇ…」
「嘘です。」
「は?」
「マリアお嬢様に婚約者はいません。」
またボロボロと泣くレイ
「よかった……マリアお嬢様……」
「ハァ…」
「なんだよ!ため息なんてついて!マリアお嬢様もアリアもタチの悪い嘘ついて!こっちが被害者でしょう!!なんでこんな嘘ついたんだよ!!」
「入れ替わりの時に白精霊にマリアお嬢様と離れて欲しいってお願いする時の為よ。」
「は?」
「まずいわね…白精霊もマリアお嬢様のことが大好きなら今みたいにブチギレられて下手すると世界が滅ぶかも…」
「あ…」
「好きな人に離れろとお願いすることは残酷なことね。」
そう。これはアリサが立てた計画だった。レイはマリアお嬢様と離れることになると絶対に駄々をこねるからそれを説得することが出来たら白精霊も上手く説得出来るのではないかという計画だった。レイのことを騙すことは心苦しかったけど、白精霊の説得に私達の未来がかかっているから苦渋の選択だったけど承諾してこの計画にのった。
「レイ…ごめんなさい…」
「マリアお嬢様は悪くないですよ!どうせアリサにそそのかされたんでしょ!?ほら!笑って下さい!!俺は全然大丈夫ですから!!」
「そんなことより…」
「そんなことで片付けるな!!」
「そんなことよ…まずいわよ。白精霊を怒らせたら世界が滅亡するかもしれないわ…私達の勝手な欲望で世界が滅ぶかもしれないのよ?今から私達がやろうとしていることはかなり危険なことよ。やっぱりやめて大人しく入れ替わりに従ったほうが…」
「何言ってんだよ!ー絶対入れ替わりなんて嫌だ!ちゃんと交渉すれば大丈夫だよ。」
「今ブチギレした貴方に言われても説得力が全くないわ。好きな人と離れることがどれだけ嫌なことかは私もレイもよくわかっている。それは白精霊だってきっと同じことだと思うわ。」
「………でもこの説得をやめるつもりはない。たとえ世界が滅んでもマリアお嬢様と離れたくはない。」
「ハァ…このバカが…」
マリアは頭を抱えている。
「私も説得をやめるつもりはないわ。」
私が言う
「世界滅亡の危険があるかもしれないけど、私は入れ替わりを止める説得はやる。ここを離れることは絶対に嫌。」
「マリアお嬢様〜!!」
レイが喜んでる。
「アリサ。今までよりももっと慎重に交渉しよう。私も大好きな人と離れる辛さはわかるから…白精霊にも辛い思いをさせてごめんって謝ってどうにかお願いしてみる。」
「私も諦めたわけではありませんよ。」
アリサが言う
「一緒に最強のおねだりを考えましょうね。」
アリサがにっこり笑って言った。
「うん!」
「俺を除け者にしないで下さいよー!」
「レイ…本当にごめんね…作戦の為とはいえ辛い思いをさせて泣かせちゃった…」
「全然気にしてないっスよ!マリアお嬢様と一緒にいる為の作戦だからむしろ役に立てて良かったですよ!そんな悲しそうな顔しないで下さい!」
「うん…レイ…ありがとう…」
レイの優しさに少し泣いてしまった
「あわわわわ!マリアお嬢様!!泣かないで下さい!!」
「そうですよ。レイはただのマリアお嬢様の厄介なストーリーですから。そんな奴の為に泣かなくていいですよ。」
「ハァ!?アリサお前マリアお嬢様になんてこと教えてんだよ!!マリアお嬢様!!全然違いますからね!!俺はマリアお嬢様に一生忠誠を誓った護衛騎士ですから!お嬢様の身を守る為ですからね!!」
「体のいい言い訳を……」
「だいたいアリサがこんな計画を立てるからマリアお嬢様ご泣くことななるんだろ!お嬢様は優しいんだからこんな酷いことさせんじゃねーよ!!」
「だからマリアお嬢様は泣かなくてもいいですよって言ってるんじゃない。こんなストーカーの為に」
「だからストーカーじゃねぇ!!俺を泣かしたことに罪悪感を感じねぇのかよ!」
「感じないわ。」
「ひどい!」
「むしろ怖かったわよ。まさか婚約相手を暗殺しようとするなんて…」
「いや…あの…流石に冗談ですよ!冗談!!それぐらい腹が立ったってだけで…」
「もう六年一緒にいるからわかるわ。アレは本気だった。」
「………」
「マリアお嬢様は護衛騎士変えた方がいいかもしれませんよ。レイはいつかやらかしますよ。」
「いやだ!!!マリアお嬢様!!俺絶対お嬢様を死ぬまでお守りしますから!俺から護衛騎士を外したりしないで下さい!」
「二人とも頑張ってくれてるから外したりはしないけど…ずっと一緒で休暇がないでしょ?だから人数を増やそうかお母様に相談はしているけど…」
「「嫌です」」
ずっと喧嘩してたのに急に二人の息が合う。
「私ももう六歳になったし、新人のメイドとか新人の護衛騎士を付けても問題ないと思うの。」
「「大問題です!!」」
こいつら仲いいじゃん…
「大丈夫だって…二人だから無茶してるけど、私だって新人さんの時は大人しく出来るからさ…」
「新人が!?マリアお嬢様を護衛!?!?何かあった時どうするんすか!!」
「いや…屋敷内はそんな大それたこと起こらないよ…」
「新人のメイドがマリアお嬢様の我儘に合わせられるわけないじゃないですか!!」
「新人のメイドさんにそんな酷なこと言うわけないじゃん…」
「とにかく必要ないです!」
「そうです!!私達だけで十分ですよ!」
「でも休みないじゃない。たまには家族とか友達とかと旅行に行きたいーとか恋人と過ごしたい~とか」
「「ないです」」
「………」
この二人のプライベート聞いたことないけど家族とか友達とか恋人とかいないんだろうか…
「二人とも長い間アーネルド家に居すぎて視野が狭くなってるんじゃない?たまには気分転換とかした方がいいよ」
「必要ないです!絶対ない!」
「そうですよ!絶対必要ありません!マリアお嬢様は私達と離れても平気なのですか!?」
「そんな大袈裟だよ…交代して仕事してもらうだけだから…給料も変わらなくしてあげるし…」
「交代ってなんですか!?俺がいない間どこの誰かもわからねぇ若造がマリアお嬢様を護衛するってことですか!?」
「いや…まぁ…そうだけど…」
「絶対に嫌です!!」
「でも…マリオお兄様の所も六歳ぐらいで新しい護衛とメイドを入れたって言ってたし…そろそろ時期なのでは…」
「私達には必要無いですよ!ねぇ!レイ!!」
「そんな奴が来たら追い出しますよ!交代なんか絶対しないッスからね!!」
「えぇ………」
「マリアお嬢様は奥様に相談したのですか?新人のメイドと護衛のことを」
「うん………」
「新しく入れるって!?!?」
「はい…そうです……」
「酷い!俺たちと離れ離れになってもお嬢様は平気なんですね!!」
「だから大袈裟だよ…交代するだけで…」
「私達は四六時中!ずっと!死ぬまでお嬢様のお側にいますからね!!」
「いや…病気とかなったらどうすんの…?」
「流石にお嬢様にうつす訳には行かないので代わりに来て貰うかもしれませんが、安心してください!俺らマリアお嬢様生まれて一回も病気になんてなってないですよ!」
「いや…まぁ…そうだけど…私は貴方達を思ってね…休暇を…」
「「い・ら・な・い・で・す」」
…………やっぱり長年一緒にいるからか息が合うなぁ。
「私達はずっとマリアお嬢様の側にいるのが幸せなんです!ねぇ!レイ!!」
「そうです!休暇なんかしたらお嬢様が心配で死んじゃいますよ!!」
「でも…アーネルド家はみんな…」
「アリサ!奥様に新人のメイドと護衛の話は白紙にしてくれって話してこい!!」
「わかったわ。」
私が話すのを遮って無理やり新人の騎士とメイドの話を白紙にしようとしてきた。アリサはすぐに部屋から出て行き、お母様へ報告に向かった。
「そんなことしてもお母様が承諾するとは思えないけど…」
「承諾させますよ!もし承諾されなくても交代の新人護衛なんて追い出しますからね!」
「新人に当たり強い職場なんて最悪じゃん…やめてよ…」
「お嬢様の側は誰にも渡しませんから!」
話が通じない…。同担拒否みたいなノリで言われる…。そうしているうちにアリサが部屋に戻ってきた。
「どうだった?」
「交渉成立です。護衛騎士はレイだけですし、専属メイドも今後も私だけです。」
「よっしゃーーーーー!!よくやった!アリサ!!」
「私はマリアお嬢様の有能な専属メイドですよ?これぐらい朝飯前です。」
アリサが勝ち誇ったような顔で言う。
お母様を説得するなんてめちゃくちゃ難しい事だと思うけど…
「アリサ…凄いね…アリサに任せたら白精霊も納得してくれるかも…」
「任せてください。お嬢様を守れるのはこの私ですから。」
「俺もですよ!マリアお嬢様!!」
二人と一緒にいたい。アーネルド家を離れたくない。絶対に成功させる為、アリサは念入りに計画を立ててくれた。あとは私のお願い力を信じて全力で練習をする。