第156話 ミケ
儂は人間としては欠陥品なのだろう
人とまともな人間関係を築けたことは一度もない
両親でさえも儂は扱い辛かったようだし
肉親で苦労するような人間が
赤の他人と分かり合えるわけもなく
衝突は絶えなかった
そんな儂にも愛する人ぐらいはおったのだが
人の気持ちを汲み取れない儂には
相手を悲しませることしか出来ず
お互いが苦しくなり別れることを決意した
“ねぇ。貴方は本当に私を愛していたの?”
最後に彼女が言った言葉に儂は何も答えられなかった
会話をすることが苦手で
自分の気持ちを伝えることが出来なくて
苦労ばかり掛けてしまった彼女を
本当に愛していたからこそ別れたかった
愛していたさ
本当に
でも…そんなことを伝えても儂の自己満足でしかない
だから…黙ってしまった
“貴方はいつもそうね。何も答えてくれない。貴方が何を考えているのかいつもわからなかったわ。それでも…愛していたわ。さようなら。ミケ。”
そう言って彼女は儂から去っていった
彼女が去って辛い気持ちもあったが
安心した気持ちの方が多かった
よかった
これでやっと
独りだと
感情に振り回されることなく
生きていける
人と関わるのは嫌いだ
後悔しか生まないのだから
長年引き篭もって生活していたが、突然目の前に聖女と魔王が現れた
凄い研究材料が転がり込んできたとしか最初は思わなかった
魔法の研究は未知の存在を研究することになり
長年停滞気味だった魔法研究が
物凄い勢いで新発見がたくさん見つかった
魔王のマオは大人しい子供だった
この世界の元魔王なんて信じられないほど
優しくて素直で従順な
可愛い男の子だった
そして…
聖女のマナはバカだった
人のプライバシーとか関係なく
強引にいつも距離を詰めてきた
“食事の団欒が家族仲を深めるんだから!!”
と謎理論を持ち出して
儂が拒否しても無理矢理食卓に座らされて一緒に食事をした
彼女とは一緒に暮らしていてもすれ違いばかりで
会話もなく過ごしていた
口下手な儂は人から理解されることは難しい
でもマナは違った
会話がなくても
仕草や目線
雰囲気で
儂の気持ちを汲み取ることが出来る
エスパーみたいなやつだった
“ミケお爺ちゃんの考えてることなんてお見通しだよ”
儂は人に何を考えているかわからないと言われ続けたのに
マナは全てお見通しらしい
人生なにが起こるかわからないものだな
一生理解されないと思っていたのに
突然理解者が現れた
世界最強の聖女、完全無敵のヒロイン
エラート・マナ
人を誑かす魔性の女に
儂はすっかり毒されていた
「来たか。スノー。」
スノーは儂に聖女と魔王の世話を押し付けた張本人だ
今日はマナの白魔法をリミッターを外した状態で
どれぐらいもつのか確かめるためにマナの主治医として呼んだ
魔力枯渇を起こして倒れるからだ
「せっかくの休日だったのに…」
「人に面倒事を押し付けるからバチが当たったんだよ。」
「あ!スノー!!来てくれてありがとうー!!今日はよろしくね!」
マナがスノーに気づいて挨拶をする
「マナ…もう二度と呼ぶなといつも言ってるだろう?」
「えへへ。すみません…。」
外に出てマナは白魔法を使う時にリミッターを外す練習をする
魔法石にありったけの白魔法を込める
「では…始めますね。」
マナがそう言うと白魔法が発動して眩い光で包まれていく
そして…リミッターを外して暴走状態にさせた
三十秒経った時に
スノーが飛び出してマナを止める
「やめろ!!これ以上は死ぬぞ!!!」
その声でマナは白魔法を使うことをやめて倒れた
「ガハッ」
魔力枯渇を起こして口から血を吐いた
「ミケ!!何故こんなことをさせる!!こんなことを繰り返して練習せるなんて主治医として認められない!!」
「世界平和に必要なことだ。マナにしか出来ない。こんなことで倒れていたら世界は救えない。」
「マナは…お前の実験材料じゃない!!こんな状態になって…本当に次は死ぬかもしれないぞ!!」
「そんなことにならないためにお前を呼んでいる。」
「無茶だ!何度も繰り返しさせるなんて酷なことさせられない!!」
「それでもやらないといけない。世界を救えるのはマナだけだ。」
「…お前はこんなマナを見ても平然としているんだな。一緒に暮らして少しは情があると思っていたがとんだ勘違いだったようだ。」
「…愛しているさ。」
「…え?」
「マオもマナも愛している。だからこそ修行はやめられない。二人とも一緒に生きて欲しいから。」
「…。」
愛してしまったからこそ
苦しみ足掻き悶える
儂が白魔法を使えたらよかったのに
人と関わるのは嫌いだ
後悔しか生まないのだから