第144話 復活
私達はそのままソファに寄り添って寝た
翌朝の五時に目が覚める
暖炉の炎を眺めてしばらくぼーっとする
この心地良さに全てを捨てて
このまま過ごせたらいいのにと
現実逃避する
そんなことできるわけないのに
やらなくちゃいけないことがあるのに
この素晴らしい世界を
私の怠惰で崩壊させるわけにはいかないのに
あーぁ
なんで私の恋模様で世界の運命が決まるんだろう
いつまでも現実逃避するわけにもいかず
私は起き上がって防寒着に着替える
朝ご飯の用意なんて昨日してなかったから
私は朝食の買い出しに行こうと外へ出る
「…凄いかっこいい姿になっちゃって。何してるの?マオ。」
外に出ると初めて会った日と同じ姿
銀色の鱗に身を包み綺麗なエメラルドグリーンの瞳をしたドラゴン
この世の全てを吹き飛ばし焼き尽くす
魔王だ
よく見ると目には涙が浮かんでいて
悲しい顔をしていた
「…ごめんね。何も知らせないまま出て行っちゃって。悲しい思いさせて。」
マオは大人しく私の顔に寄り添うように顔をすりすりと近づける
出会った時とは違い
力を制御できるようになっているようだ
「フフフッ。この姿でも可愛いね。マオは。心配かけてごめんね。帰ろうか。魔塔に。」
マオは私を乗せて飛び立とうとする
「あっ!待って!!スリー様も乗せて!!」
マオは明らかに不満気な顔をしている
ドラゴンでも可愛い
私はスリー様に帰ろうと声を掛けて起こす
スリー様は起き上がって着替えをして外に出た
「うわあああああああああああああああ!!!」
「大丈夫だよ。マオは優しいドラゴンだよ?」
「え?は?マオくんなの?」
「うん。」
「魔王が復活しちゃったの!?」
「そうだね。」
「いや…え!?せ、世界はどうなるの…?」
「大丈夫だよ。私が浄化して元に戻すから。」
「えぇ…もう理解が追いつかないよ…」
「スリー様でもそんなことがあるんですね。」
「その姿じゃ目立ちすぎるだろう?今ここで浄化しないか?」
「うーん…。たぶん私倒れるんだよね。浄化すると。お医者さんのスノーと一緒に浄化しないと死ぬかもしれないからさ。」
「死にかけるのか!?」
「うん。」
「そ、そんな危険なこと…他に方法があるんじゃないか…。」
「浄化できるのは聖女だけだから。勇者に退治される前に浄化しないとね。」
「…死にかけるのに?」
「大丈夫だよ。スノーは優秀な医者だから。」
「なんでこんなことに…。」
「私がマオをほったらかしにしたからね。育児放棄したらぐれちゃったみたい。」
「そんなことで…。」
「私が悪いから。代償は払わないとね。」
「マナは悪くない…。」
「フフフッ。ありがとう。でも魔王を飼うんだからこれぐらい覚悟してないとね。」
「俺も浄化を見守ってていいか?」
「いいけど…あまり気分のいいものじゃないよ?」
「それでも側にいたいから。」
私達はドラゴンの背中に乗りハーバランド国へと帰る
魔塔に到着してそこにはミケお爺ちゃん、スノー、王様、騎士団と大勢の人達の人だかりが出来ていた
「お騒がせして申し訳ございません。これから浄化しますので。安心してください。」
私はドラゴンのマオの姿に触れて浄化を始める
体が熱い燃え上がるようだ
この姿にしてしまったのは
私のせいだ
せっかく人を傷つけない姿にしたのに
私が傷つけてしまったせいで
マオが魔王になってしまった
だからこの熱さも苦しさも
マオの苦しみに比べたら
大したことない
大丈夫
私達は運命共同体
全てを分け合って
生きていくんだ
「一緒に生きよう。マオ。返ってきて。お願い。」
願いを込めて
熱さと苦しみに耐えて
浄化を終えた
浄化は一時間以上かかったらしい
一度目は力が暴走したからすぐに浄化できたけれど
制御ができるようになり
大きな力を使うことが逆に難しくなっていたようだ
マオの浄化を終えて私は倒れる
今度は全身大火傷になった
辛うじて生きている
私はそのまま手術室に入り
一日中生死を彷徨った
スノーの懸命な治療のおかげで
私は峠を越えて
なんとか生き残ることが出来た