第142話 青春謳歌
もう両親は牢屋に入れられているのに
長期休暇で実家に帰ることは
体が震える
長年の苦い思い出がそう簡単に消えることはない
実家に帰る度に私は惨めな思いを繰り返すのだろう
使用人は全員変えたので
今の使用人達は普通に俺に仕えてくれている
怯えることなんて一つもないのに
この屋敷が俺を萎縮させる
マナは俺をヒーローだと言ってくれたけれど
人は簡単には変われないらしい
臆病者のガーネット・スリー
それでも…今はやりたいことが見つかったから
それだけで前を向いて生きていくことができる
俺の願いはただ一つ
マナの望む世界をすること
私を救ってくれた神様のルナに
俺の人生を捧げてマナの望みを叶えてみせる
魔王を復活させることになっても
この国を滅ぼすことになっても
この世界を滅ぼすことになっても
俺はマナについていく
だって…マナは神様
マナの望まない未来なんて
腐った人間が蔓延る世界なのだから
滅んでしまえばいい
マナが望む世界こそが
俺の理想郷
この世界の理を新聞部から仕入れる
私が用意した情報は便利だったらしく
全ての取引に成功して情報を貰った
マリアとマナの入れ替わり
マナが魔王を浄化して弟として暮らしている
この世界はマナの恋が攻略対象と成就しなければ滅ぶ
…驚いた
でも納得した
やはりマナは特別な女の子
神様だったんだ
私はますますマナに心酔する
この世を救うのも
この世を滅ぼすのも
マナの思うがまま
マナがどんな選択をしても
私はついていく
とりあえず私は魔王のことを調べないといけない
闇の神様の情報は新聞部も全くわからないようだったそんな
闇の神様と接触するには
やはりマオくんの協力が必要だけれど…
「わぁ!!」
「うわぁ!!マナ!?」
「どうしたの?今日は一段と難しい顔してるよ?」
「毎回驚かして声を掛けるのやめようよ…。」
「生徒会室に私が入ってきても毎回気付かない方が悪いよ。そんなことじゃ刺客にすぐに殺されちゃうよ?」
「私を殺そうとする刺客なんていないよ。聖女じゃないんだから。」
「だめだめ。スリー様は優秀なんだから。脅威を感じてグサリ!!とかする悪党がいるかもしれないよ?」
「えぇ…。そんなこと…。」
「あるある。この世は妬みとか恨みとかが事件になるんだから。」
「うーむ…。護衛を雇う人件費はちょっとなぁ…。」
「命かかってるんだから!雇った方がいいよ!魔王を調べるなんてことしてたらどこで敵を作るかわからないんだから!」
「そうだな…。問題が解決するまでは雇うか…。」
「それがいいですよ!最近暗い顔ばかりですよ?たまには休憩したらどうですか?」
「そんな時間ないんだよ。やるべきことがたくさんあるからね。」
「そんなに根を詰めて何をしてるんですか?」
「世界平和の為に貢献してるんだよ。」
「スリー様。学生の本分は何かわかります?」
「勉学だろう?」
「ぶっぶー!!ハズレでーす!!」
「なんだ?」
「もちろん青春謳歌ですよ!!」
「へぇ。そうなんだ。」
「スリー様は青春謳歌してますか?」
「そんなことは無縁だな。」
バンッ
突然窓の扉が開く
俺とマナ以外は生徒会室には誰もいないのに
「うわっ!!」
突然私の体は宙に浮く
何故?
どうして?
風魔法?
誰かが俺を誘拐しようとしているのか?
抵抗しようと私も風魔法を使おうとするが
「だーめ!!これからスリー様は私と青春謳歌するんですから!!」
「は?」
意味がわからない
理解が追いつかない
この風魔法はマナが…?
マナは白魔法しか使えないはずなのに
私とマナの体は風魔法ににのって窓から飛び出す
「さあ!!授業をサボって遊びに行きますよ!!こんなこと学園を卒業したら出来ませんからね!!」
「学生でもやったらダメだよ!!」
「いいの!いいの!これが青春だよ?」
「嘘つけ!!」
私はマナに風魔法にのせられて学園から飛び出す
忘れていた
私のヒーローであり神様は
問題児の破天荒だということを