第141話 優秀な弟子
「久しぶりだな。ミケ。魔塔から出てくるなんて何年ぶりだ?」
「わしは時々街へ行っておる。わしを引き篭もりのじじい扱いするな。ガードン。」
「物珍しいからついな。今日は何しにわざわざ城へ来たんだ?」
「別に。正月ぐらい帰省してやろうかと思っただけさ。」
「ミケに文化を重んじる心があったなんてね。」
「人に心がないような言い方をするな。これだから外に出るのが嫌になるんだよ。」
「魔塔も今は一人じゃなくて子守しないといけないから大変だろう?」
「そうだな…。」
「ミケが人と一緒に長く暮らせるなんてな。ミケは我儘なのによく辛抱しているな。」
「わしは辛抱なんてしとらん。うるさいときはうるさいと言ってるし、我儘で頑固なじじいだよ。」
「でも追い出したりしないじゃないか。」
「うるさくするだけで他は気にならんからな。魔法の研究にもあの二人は役立つ。」
「そうなのか?マナなんて我儘放題だし、ミケと相性悪そうなのにな。マナも魔法研究の手伝いをしているのか?」
「マナは協力的だよ。俺が無理難題を押し付けても諦めずに何度も挑戦する。一日中同じことの繰り返しでもマナはやってくれるよ。白魔法で回復出来るとはいえ同じことの繰り返しで失敗が続けば心が折れるのにな。やれと言えばやるよ。あいつはヒーロー属性だ。」
「へぇ。マナは怠け者だと報告を受けていたから意外だな。」
「誰がそんなことを言ったんだ?マナは怠け者なんかじゃない。…流されやすい性格なんだ。自主性が殆どない。あいつが怠け者になるとしたら、近くに怠け者を置いているからだろうな。甘やかされるとダメになるんだろう。でも…わしみたいな厳しい人間の近くでいると怠けたりしないよ。言われたことを従順にこなす。毎回文句は言うけどね。」
「俺に従順だったことなんで一度もないけれど…。」
「マオが絡んだりすると豹変するからな。それでもマナの行動原理は人の為であり、自分の欲望の為に力を奮ったりしない。」
「チーノを刺したやつを殺そうとしたが?」
「チーノが刺されたからだろう?自分が刺されても怒ったりしないよ。マナは。」
「…。」
「知っているか?マナの好きな食べ物を。」
「知らん。」
「ないんだとさ。全部好きだって言うんだ。自分の好きな食べ物も決められないくせに結婚相手なんて決められるわけないのにな。」
「それでも恋愛して貰わないとこの世の終わりだ。なんとかその気にさせろ。」
「そんなもん俺の仕事じゃねーよ。押し付けんな。この国未来を守るのはお前の仕事だろう?」
「マナにこの世の生死を握らせてるなんて恐ろしい…」
「まぁ大丈夫じゃないか?なんとかなるだろう。」
「随分と気に入ってるんだな。マナのことを。」
「…愛することが得意で。愛されることが得意なんだマナは。いつのまにかあの笑顔に絆されてしまったようだ。」
「ミケまで虜にするなんて恐ろしい女だ。」
「マナは俺の優秀な弟子だよ。可愛いく思うのは当たり前だろう?」