表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/280

第136話 定期演奏会

クリスマスパーティが無事に終わった数日後、オーケストラ部の定期演奏会がある

三年生はこの演奏会で引退になる

夏休みはニックとワンツーマンでピアノの練習をしていたからあまり関わりがなかったけれど

二学期からは吹奏楽の打楽器に入れて貰えるようにもなり

交流することが増えた

先輩方はみんなは本当に優しい人達ばかりで

私が何回やっても上手く出来なくて落ち込んでいた時に

“大丈夫だよ”

“練習量は裏切らないから”

“あともう少しで出来るようになるって”

“この飴あげるから元気出して”

そう言って励ましてくれた

優しさに触れて泣きじゃくりながら食べた飴を

私は決して忘れないだろう

そんな優しい先輩達も今日の定期演奏会でお別れだ


選曲は

エルガー:威風堂々 第1番 ニ長調 Op.39

オッフェンバック:喜歌劇《天国と地獄》序曲

ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー

グリーグ:《ペール・ギュント》 第1組曲 「朝」 Op.23-1

ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ《美しく青きドナウ》 Op.314

singsingsing


高校生の定期演奏会らしく有名曲を目白押しにしてある

スカーレット学園の定期演奏会はチケット制にも関わらず大人気で毎年完売する

今年は文化祭の野外演奏会の反響が大きく即売になったらしい

お世話になった三年生の先輩方を送り出す最高の定期演奏会にしよう



定期演奏会の前に部長のニックが私達へ言葉を掛ける

「このチームで演奏をするのは今日で最後になります。」

「この一年間。俺の小言がうるさくて煩わしい思いをたくさんさせてしまったことでしょう。」

「キツイ言葉もたくさん言ったと思います。」

「この一年間を振り返ると俺は怒ってばかりだったなと。」

「怒った記憶しかほとんどないです。」

「俺は一年だけれど実績だけで部長に任命されて。」

「部員をまとめるリーダーの役割は初めてだったので。」

「演奏とはまた違う苦労も多く。」

「至らない点はたくさんあったと思います。」

「そんな若造の俺のことを温かく優しく見守ってくれた。」

「先輩方には感謝の気持ちでいっぱいです。」

「こんな俺に文句を言わずについてきてくれてありがとうございました。」

「この日を楽しみにしていた反面、この日が来なければずっと一緒に演奏できるのにと。」

「寂しい気持ちもあります。」

「それでもこの定期演奏会の本番が始まってしまいます。」

「俺達は完璧に音楽を仕上げてきた。」

「だから今日は楽しんで演奏してください。」

「それが俺の最後の部長命令です。」


ニックの激励の言葉に部員達は始まる前から泣きそうになっていた

私は泣いた

泣いていたら“マナはまだ引退しないのになんで泣くんだよ”と笑いながら揶揄われた

いよいよ幕が上がり

私達のラストステージが始まる


私は全曲ピアノを演奏する

私一人では奏でられない

オーケストラ部の部員の音を聴きながら演奏する

とても気持ちよさそうに

楽しそうに

演奏する音は心地よく

私も気分よく演奏することが出来た

最後の曲は終わって欲しくないな

もっとこのオーケストラ部で演奏したかったなと

そう思うのと同時に

楽しくて

楽しくて

本当に楽しくて

最高の演奏を特等席で聴いた

私は先輩達に助けられてばかりの

落ちこぼれの劣等生だったけれど

下手くそな私を

応援して励ましてくれる先輩方がいなかったら

私はすぐにオーケストラ部を辞めていたかもしれない

だからありったけの感謝を込めて

私は最後の演奏をする

演奏が終わり

観客の拍手は鳴り止まない

大成功と言っていいだろう

お辞儀をして

舞台の幕が降りる

私達は抱き合いながら泣きじゃくる

最高の演奏が出来た喜びと

もう二度とこのチームでは演奏出来ない悲しみを感じて

「マナ。絶対辞めちゃダメだよ。」

「次の文化祭も見にくるからね。」

「マナは下手くそなんかじゃない。」

「自信持って。」

「大丈夫。練習は裏切らないから。」


先輩。ありがとう。

私も先輩方みたいな

後輩を支えられる存在に

なれるといいな


「絶対に見にきてください。私もっと上手くなりますから。先輩方のようにプロ並みに上手になってみせますよ!!」


人は出会いと別れを繰り返して

成長するものだから

全ては繋がっている

先輩方の強さと優しさは

私達が受け継ぎます

だから安心して

旅立ってください






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ