第127話 拝啓前世のお父さん
“普通が一番いいんだ”
“小さな幸せを積み重ねることが一番いい”
“自分の努力で手に入れたものが一番信用できるんだ”
“楽をしようとするな”
“怠けて楽をした分は必ず自分に返ってくる”
“人生はプラスマイナスゼロだ”
“大きな幸せには大きな苦労が”
“小さな幸せには小さな苦労が”
“だから一番普通がいいんだ”
“普通に生きることが一番いいんだ”
これは前世のお父さんの言葉
私の普通信者の教祖だ
佐々木華は可愛い女の子だった
何もしなくても誰かが助けてくれたし
何もしなくても誰かに愛された
そんな私の身を案じてだろうか
怠け者の私を
努力させようと
教育してくれた
それは正しいことなのだろう
大人になって
私がおばさんになって
可愛くなくなったら
私の価値はなくなるのだから
可愛さに頼らないように
自分の努力で手にしたものを誇れるようにしてくれたのだろう
でも佐々木華野怠け癖は治らなかった
一年賭けた努力よりも
可愛くて得することの方が圧倒的に多かった
何もしなくても
楽に生きていけるのに
努力することがめんどくさかったのだ
将来苦労することがわかっていても
楽に生きれる生活に甘えてしまっていた
“アイドルになりたいなぁ”
私がお父さんにそう言うと大反対された
“駄目だ”
“若くして成功すれば栄光を手にすれば”
“心が壊れる”
“プロの野球選手だって引退後は薬に溺れてしまうことが多いんだ”
“普通に生きろ”
“普通が一番いいんだ”
ねぇ。お父さん。
あの時お父さんに逆らってアイドルになっていたら
佐々木華の人生はどうなっていたのかな
私はマリアちゃんに髪型をセットしてもらう
今回はツインのお団子ではなく、巻き髪にするようだ
「前世のお父さんがね。アイドルにはなるなーって言ってたんだ。」
「えぇ?どうして?」
「若くして成功すると心が壊れるからだって。普通に生きろってさ。」
「佐々木華の容姿で普通に生きる方が難しそうだけどね。」
「そうだね。たぶんお父さんもそれはわかってたと思う。でも私に苦労させたくなったんだろうね。」
「今からアイドルステージ立つの嫌?」
「そんなことないよ。ずっと憧れてたから楽しみ。」
「そっか。よかった。」
「“貴方の笑顔が世界を救う”」
私は先程占いの館でエド様に言われた言葉を反芻する
「そうですよ!マナ様が笑顔でいるなら全人類幸せななれます!」
「フフフッありがとう。佐々木華に惚れた人は不幸になっていく人が多かったから。アイドルとして人を魅了してまた誰かの人生を破滅させるかもしれないって。それが怖かったの。」
「そんな…佐々木華に惚れた人だって幸せな人の方が多いですよ!犯罪者とか捕まるようなやつらを相手にしてたから知らないだけ!」
「そうかな…。でも今となってはもういいんだそんなことは。佐々木華はもう死んだし、アーネルド・マリアも私ではない。私はエラート・マナ。世界最強の聖女。世界最強のヒロイン。全人類を私が魅了して幸せにしてやる。」
「マナ様の幸せが私達の幸せ。」
「伝説のステージにするから。目を離さずに見ててね。」
「瞬きすらも惜しい程、釘付けになって見てますから。」
拝啓前世のお父さん
私はお父さんの教えを破り
普通に生きることをやめました
世界の崩壊の鍵を握ることになったり
牢屋に入れられることになったり
最近は変態を飼うようになりました
お父さんが知ったら殺到するでしょうね
苦労が多いし
あぁー普通に生きたいなぁと今でも思いますが
今の人生もそんなに悪くないです
案外楽しく人生過ごせています
今から私は一日だけアイドルになります
沢山の人を魅了する
伝説のステージにします
お父さんは反対するでしょうか
応援してくれるでしょうか
どちらでも構いませんが
見て欲しかったですね
私の晴れ姿を
誰よりも輝く私を
普通ではない私を
とびきり特別な私を
「出番だね。行こうか。」
私の伝説のアイドルステージの幕が開ける