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第119話 イシュタル・ヤクモ

ただなんとなく生きてるだけの人生だった

学生時代に部活に熱中して頑張ったこともなく

恋人がいて恋愛を満喫したこともなく

青春を謳歌した経験はない

魔力のある貴族はスカーレット学園に入学して学ばないといけなかったから

義務教育を受けて

ただ卒業しただけだ

特に目標もなく

やりたいこともなく

人材不足だから教師を目指さないかと言われて

大学へ入り卒業して

教師になっただけ

教師になってからも

なんとなく毎日が過ぎていくだけの時間

良くもなく悪くもない俺の人生

生徒達を見ると

私も青春を謳歌したかったなと

羨ましく思う



特進クラスの担任になり、二ヶ月が経つ頃だろうか

昼食の時にマナと会った

「あれ?先生こんなとこで一人で食べてるの?」

俺のクラスの生徒エラート・マナが私が裏庭のベンチで一人で購買のパンを食べていると話しかけてきた

「お昼ぐらいは一人でゆっくり食べたくてな。」

「アハハ!わかる!私も実は今クリス様から逃げてるところでさ。たまには一人でゆっくり食べたくてね。」

「学生はみんなで仲良く食べた方がいいんじゃないのかな。」

「やだなぁ。学生だって一人になりたいときぐらいありますよ。」

「友達と笑い合える毎日が貴重で人生の財産になるんだよ。大事にしなさい。」

「…。」

「なんですか?」

「イシュタル先生っていつも購買のパン食べてるの?」

「そうだよ。」

「自炊しないの?」

「私は料理が苦手だからね。朝も昼も夜も買って食べてるよ。」

「なんでも器用にこなせるように見えますけど料理苦手なんですね。自分で作って食べると楽しいのにな。」

「マナさんは自分で毎日お弁当を作ってるんですよね。この学園は全員寮生活をしているからね。全員食堂で昼食を食べるからね。お弁当を作る生徒は初めてですよ。」

「あーん。」

「…なんですか?」

「あーん。ほら。口開けてください。」

私はマナさんが作ったサラダが入ったスプーンを取ろうとするが

サッと避けられる

「あーん。」

「…。」

口で食べさせることしか許されないようだ

私は仕方なくパクッと口で食べる

「美味しい…。」

サラダを食べたのは何年ぶりだろうか

自分では絶対買わないから

マナさん特製サラダは今まで食べたサラダの中で一番美味しかった

「そうでしょう?野菜もちゃんと食べないと長生きできないよ。イシュタル先生。」

「長生きしてもいいことなさそうだしな…」

あ。こんなこと生徒の前でいうべきじゃないのに

教師失格だ

私はしまったという顔をしたのを

マナさんはニヤリと笑って私を見つめていた

「なにもせずにいいことが舞い降りてくるなんて贅沢すぎますよ。いいことなんてやってくるわけないじゃないですか。自分でいいことしないとね。人生楽しくないですよ?イシュタル先生。」

「いいこと…なにかあるかな。」

「ありますよ。サラダ作りましょう。」

「えぇ…」

「サラダなんて野菜ちぎって好きなドレッシングかけるだけなんだから!料理苦手でもそれぐらい出来るでしょう?」

「そんなことでいいことが起きるのか?」

「はい。」

「嘘だ…。」

「嘘か本当か試してみてくださいよ。」

「えぇ…めんどくさい…」

「つべこべ言わずにやるの!やる気は後からついてくるから!とにかく行動!やるんだよ!!」

「なんの為に…?」

「いいことがおこる為に。」

「おこるの?」

「人生が変わる程いいことがおきるよ。」

自信満々にマナさんは答える

毎日サラダを作って食べるだけなのに

人生が変わるのか?

俄かに信じがたい…

それでもなくとなくマナがそう言うのなら

聖女様の神言を信じてみようと思い

私はその日から毎日サラダを作って食べる

体に足りなかったのか

自分でサラダを作ってもとても美味しく感じて

毎日続けて食べることが出来た

一ヶ月程経ったときに

マナがまた昼食時に裏庭のベンチに現れた

「あ!サラダ作ってる!えらーい!!」

マナは拍手をして褒めてくれた

「少し健康になった気がするよ。マナさんありがとう。」

「あーん。」

次はマナが口を開けて待っている

これは私がマナに食べさせろと言うことなんだろう

私は自分で作ったサラダをマナの口に運んで食べさせる

パクッとマナさんは食べた

「んーー。おいしっ!!」

「お口にあってよかったです。」

「いいことあったでしょ?」

「え?」

「こんな美少女餌付けに出来てさ。ね!」

にっこりと笑顔でマナは笑う

「ハハハッ!!!うん。そうだね。いいことあった。」

「人生は彩りましたか?イシュタル先生。」


こんな些細なことで

本当に人生変わるんだな

こんな些細なことで

恋に堕ちるんだな

青春を謳歌したいとなんとなく願っていたが

今がまさに青春そのものだ

何もない日々は終わり

私の人生は激動に動き出す

マナを中心に


「最高の人生になりそうだよ。マナさん。ありがとう。」


私はその日からマナの虜になった

新聞部へ毎日足繁く通い

マナの情報を買っていた

好きなもの。嫌いなもの。入れ替わり。前世のこと。全て全て全て知り尽くした

知れば知るほどマナは手に入らない女の子だと感じた

誰にでも平等に愛する

最強の聖女様は

恋なんてしない

それでもどうしても手に入れたかった

心は無理でも

体だけでも

私のものにしたかった

気持ちは止まらず

加速していく

遂には体操服を盗み

私は立派な犯罪者になってしまった

もう後戻りはできない

心を手に入れることは絶望的だ

それなら体だけでも繋がろう

マナの初めてになれるなら

これ以上ない幸せだ

死刑になったとしても

私の人生いいことあったと胸を張って言えるから




「助けてあげようか。」



世界最強の聖女様の甘い囁きに

私の心は揺らぐ

助かりたくなんかなかったのに

マナが毎日死ぬまで私のことを面倒見てくれるなら

これ以上ない幸せだ

地に堕ちた私を救ってくれる

なんと慈悲深いのだろう

私の人生いいことだらけだ

今日もサラダを作って食べよう





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