第113話 ファーストキス
佐々木華は陰気なやつだった
大人しくていつも俯いていて
一人で孤立をしているわけではないが
誰とでも分け隔てなく上辺だけの関係性を意図的に作っていて
踏み込まれて仲良くされることを何故か避けていた
大人しくて美人で人形のようで
大和撫子という言葉がよく似合うような女だった
自分から男と関わることなんて絶対にしなかった
少し笑いかけただけで
勘違いする男が続出するからだ
佐々木華の男嫌いは有名だった
あんなに美人で可愛いのに
誰から告白されても全員断っていた
佐々木華は性犯罪に遭ったから男嫌いになったんだと噂されていた
誰のものにもならない極上の美人は
高嶺の花そのものだった
目の前のエラート・マナは佐々木華とは別人だ。
佐々木華はこんなに明るく無邪気に笑うやつじゃなかったし
クリスにビンタをするような攻撃的なことなんて絶対するようなやつじゃなかった
姿は佐々木華のままなのに
全くの別人だ
陰気で何もしない佐々木華とは仲良くなれそうになかったが
エラート・マナは話しやすい
他の人には未だに壁を作り当たり障りのない会話しかしないのに
私にだけ懐いて抱きついて満面の笑顔を見せるのは
正直優越感を感じている
私はマナの特別なのだと
男女混合リレーが始まる
私は一番手で走り、マナは三番目に走るその後、アンカーの四番目にレックスが走る
赤組は二番手にニックが走り、アンカーの四番手にクリスが走る
マナはクリスに駆け寄り先程レックスに負けてしまったことで落ち込んでいるクリスを慰めていた
マナは判官贔屓をよくする
いつでも弱者の味方なんだ
レックスが負けていたら
レックスのことを慰めていただろう
誰もマナの特別になることはなく
弱者に優しい聖女様だ
「位置について…よーい。」
パァン!!!
ピストル音が響き私は走り出す
自分で言うのもなんだけど私は走るのがとても早い一番をぶっちぎりで駆け抜けた
早々に二番手の男子にバトンを渡すみ
二番手もリードも保ったままマナにバトンを渡す
マナは必死に走るが、赤組にどんどんと追いつかれる
マナがバトンを渡す時にはレックスとクリスはほぼ同時だった
今回もレックスが勝ち、白組が勝った
「やったーーー!!すごいすごい!!」
マナが私に抱きついて喜ぶ
「マナは危なかったけどね。」
「勝ったから結果オーライですよ!!ローズ様が一番手でぶっちぎりで走ってくれたから勝てました!!ローズ様が一番かっこよかったです!!」
「そこはレックスにしときなさいよ。」
「だってローズ様が一番カッコよかったもん!!」
私はマナに抱きつかれて勝利を讃えられる
ふとゴール付近を見ると
レックスもクリスも私のことを睨みつけていた
好きな女が抱きついているのを見ていい気はいないんだろうな
その後、私達は借り物競争に出る
借り物競争は遊び要素が高い為、ガチでやる人はいない
定番の好きな人とか
かっこいい人とか
可愛い人とか
そういうのが入っているのだろう
パァン!!
とピストルが鳴り、マナが先なのでマナが走り出して借り物のメモを読む
「ローズ様!!来てください!!」
「いやよ。」
「ダメダメ!ローズ様じゃないとダメなお題だから!」
そう言われて私はマナに引っ張られゴール付近の借り物チェックの係の人まで連れて行かれた
係の人に借り物野お題のメモをマナが渡す
「マナ様のお題は…。なんと!!ファーストキスの相手です!!」
「違います。」
私は即答する
「えぇ!?私のファーストキスの唇奪ったじゃないですか!!」
「マナじゃないから。」
この女…最近マナから特別待遇されているから攻略対象者からの嫉妬でヘイトが溜まっているのに
ファーストキスの相手が私だと認定されたら
今後、私への嫌がらせが勃発するかもしれない
ドロドロの展開を望んでいたが
私が巻き込まれるのは絶対に嫌だ
「あー…あの時はマナじゃなったか。」
そう。私がキスをしたのは入れ替わり前のアーネルド・マリア。だからファーストキスの相手は無効だ。
「諦めて…」
私が諦めるように言おうとしたその瞬間に胸倉を掴まれて
ちゅ
強引に私の唇はマナに奪われてしまった
「これでお題クリアですよね?」
満面の笑顔でマナは言う
ただのお題の為にファーストキスをあっさりとするなんて
他の人にも簡単にするの?
もしかして私だけ?
やっぱり私はマナにとって特別なの?
私が付き合おうと告白すれば
マナはどうするのだろうか
私は恋に堕ちないマナを
恋させることに成功したの?
マナを攻略出来たの?
私が?
それともただの気まぐれで
私を弄んで遊んでいるの?
こんなにも感情に振り回されて
本当に嫌になる
それでも可愛くて守ってあげたくなるこの笑顔に弱くて許してしまうのだろう
結局私はマナに一生敵わない
マナに攻略されて振り回され続ける人生なんだ
私が選ばれることなんて絶対ないのに
ひどい女だよ。本当に。