第110話 正義のヒーロー
ガーネット家の虐待行為を先生へ報告をして
事実確認の為に明日、両親がスカーレット学園へ来ることになった
この地獄のような日々を終わらせたい
早く助けて欲しいと
願っていたけれど
現実に救われそうになると
何故こんなにも不安になるのだろうか
私が虐待されて
虐げられて生きてきたことが
この学園に広まってしまうのではないか
そうなれば
私は可哀想で惨めな男ということになり
しかも聖女に助けられなければ何も出来ない悪事なしだ
実際そうなんだけれど
生徒会長がそんなことになれば
学園中に私の醜態が晒されることになるだろう
そんなことになるなら
ずっと殴られて
我慢して
生きていく方がマシなのかもしれない
そんな風に考えてしまう
私は恐ろしいのだ
世間が私のことを嘲笑い
腫れ物のような扱いをされて
孤立してしまう
そんな未来が見えてしまう
救われても
救われなくても
私が臆病者である限り
地獄は続くんだろう
大きな不安を抱えたまま無情にも明日は来る
今日は両親との話し合いの日だ
逃げ出したい気持ちを抑えて
私は学園へ行く
時間は早く過ぎ去り話し合いの時間にあっという間になってしまう
マナはクロネコガールのお面つけて同席してくれることになった
「いよいよですね。スリー様。」
「…そうだな。」
「元気ないですね。そんなことじゃ負けちゃいますよ?」
「マナが助けてくれるんじゃないの?」
「マナではない!クロネコガールだ!!」
「…クロネコガールさんが正義の鉄槌を下すのではないのですか?」
「え?話し合いはスリー様がするんですよ?当たり前じゃないですか。」
「え…」
「私が口出しても何も変わらないよ?」
「そんな…!!俺…どうしたら…」
「どうしたらいいかなんて知ってるくせに。」
「…。」
「この世界は理不尽だ。誰も助けてくれないし。努力しても誰も認めてくれないし。権力が強い者が支配して弱者は怯えて生きていく。」
「助けてくれるんじゃないのか…?」
マナはニコッと笑う
「さて。理不尽なことだらけの世の中ですか一つだけ手っ取り早く解決出来る方法があります。それは何でしょうかー?」
答えは簡単だ
でもそれは
私にとって
何よりも難しいことだ
「…自分が変わること。」
「御名答。流石優秀なスリー様。」
「無理だよ…私には…」
「無理じゃないよ。スリー様は何でも出来る人なんだから。昨日だって勇気出して言えたじゃない。今日だってきっと大丈夫だよ。」
「私は…何も出来ないよ。」
マナが私の両頬をパンッと叩く
「私が出来るって言ってんの!!私の言葉を信じなさい!!」
「本当に…?信じていいの?」
マナは私の手を優しく握って繋いでくれた
「誰よりも優秀で誰よりも優しくて誰よりも…臆病者なスリー様。スリー様に足りないありったけの勇気を私があげるから。勇気さえあればスリー様は無敵だよ。誰にも敵わない本物のヒーローだ。」
「買い被りすぎじゃない?」
「本当だよ?信じて。」
「ありがとう。マナ。」
「マナではない!!クロネコガールと呼べ!!」
「…めんどくさいからお面外さない?」
「お面ではない!!」
「わかったよ…。クロネコガールさん。」
私達は手を繋いで部屋に入る
部屋にはもう既に私の両親と担任のヤクモ先生が座っていた
「…聖女様?」
父上が言う
「聖女ではない!!クロネコガールだ!!」
「すみません。こう言う子なんです。どうしてもお面をつけて話し合いに参加すると聞かなくて…申し訳ございません。」
担任のヤクモ先生が言う
私とマナも席につく
「スリーさんアザを見せてください。」
「…はい。」
私は身体中についたアザを見せる
「これはご両親がやったのは間違いないですか?」
「スリーが優秀になるようにしたことです。少しやりすぎたかもしれないが、将来のこの子の為と思いやったことです。」
「それにしてもアザが多すぎると思います。これは虐待です。」
「虐待だなんてそんな…この子を未来を思って…」
気持ちが悪い
反吐が出る
俺の未来?
自分の爵位の為だろ?
恐ろしい
恐ろしい
恐ろしい
怖くて震えが止まらなくなる
やっぱり私は何も出来ない…
ギュ
右手に繋がれたマナの手が私の手を強く握る
優しい眼差しで
天使のような微笑みで
私を見つめて言う
「ありったけの勇気を貴方に。」
…ハハハ。てっきりマナが私の前に立って
私は後ろで怯えながら
マナに隠れて救われることを待っていると思っていたのに
そんなことをマナは許してくれないみたいだ
自分の力で変わらなくちゃ
自分の言葉で解決しなくちゃ
何も意味がないのだから
マナが私にすることは
勇気をくれる
それだけ
でもそれだけで私は
無敵になれるんだ
「爵位が欲しいからだけだろう?」
「…なんだと?」
「私を虐待したのは爵位の為だけじゃないか!自分の利益しか考えていない!私のことは有能な駒にしか思っていないくせに!」
「この…生意気な!!有能に育ててやった恩を仇でかえしやがって!!」
「私を育てたのは家庭教師の先生方だ!父上から教わったものなんて何もない!!」
「私が教育してやったから怠けずに勉強出来たんだ!」
「教育?殴っただけだろう?」
「殴って言うことを聞かせて何が悪い!!」
「そんなに爵位が欲しいなら一番いい方法があるのにそれを父上はしなかった。結局自分のことしか考えていないんだ!」
「俺はお前の為を思って…」
「私の為、ガーネット家の爵位を上げる為にこれからは私が当主になります。」
「…なんだと?お前はまだ子供だろう?そんなこと認められるわけが…」
「私の方が有能だ。私に任せておけば父上の望むものが手に入るのに何故拒む?」
「そんなことは認めない!」
「それでは私はガーネット家から出て行きます。」
「な…なんだと…」
「私がいなくなったガーネット家はどうなるんでしょうね。私のしったことではないですが。」
「出ていけば平民だぞ?何もすることが出来ないぞ?」
「私は優秀なんです。王城での就職もたくさん声が掛かっています。」
「平民なら声がかからないだろう?」
「そんなわけないじゃないですか。みなさん私の能力を買ってくれてるんです。ガーネット家を出て行っても私は何も問題ないですよ。」
「そ、そんな…」
「さぁ。どうするんですか。私に当主の座を渡すのか。私を追い出すのか。選んでください。私はどちらでも構わないです。」
「…。」
父上は私のことを悔しそうに睨む
母上は黙って俯くだけだ
「当主の座を渡す。」
「そうですか。ではこれから先は私の言うことを聞いてくださいね。」
「話し合いは終わりでよろしいでしょうか?」
ヤクモ先生が言う
私達は頷き話し合いが終了した
こんなに上手くいくなんて思ってもいなかった
マナが勇気をくれたおかげだ
マナはやっぱり世界最強の聖女様だ
「あ。手を貸してください。」
マナが父上に言う
疑問に思いながらも父上はマナに手を差し出す
突然マナは父上の人差し指の骨を折る
「ぐわああああああああああ!!!」
父上の悲鳴が部屋中に響く
私達が驚いている間に
マナは中指の骨も躊躇いもなく折ってしまっており
二回目の悲鳴が響く
「マナさん!!何をしているのですか!?やめなさい!!」
ヤクモ先生が叫ぶが
そんなことはお構いなしにマナは動く
マナは隠し持っていた油を父上と母上に豪快にかける
そしてライターで火をつけようと近づく
「な、何やって…!?」
ヤクモ先生がそう言うのと同時に急に人が上から降ってきてマナの上に乗っかり身動きが取れないように制止した
「もう話し合いは終わったはずですよ。マナ様。」
「邪魔しないでよ。レイ。子供を虐待する親なんてこの世に一番いらないんだから。」
「解決したんです!これ以上はスリー様も望んでいないはずです!」
「そんなこと関係ないわ。子供虐待しといて謝りもせずに解放するなんて甘すぎると思わない?自分の犯した罪の重さを教えてあげないとね。」
「このまま火をつければ死にます!」
「大丈夫だって。死なない程度に白魔法かけて治すから。一日中火炙りさせて反省させてやる。」
「ダメです!」
「うるさい!」
マナは自らの腕を折り拘束を解いて逃げる
あっという間に白魔法で回復してレイを蹴飛ばし、ライターを手にした
「私に勝とうなんて百万年早いね。レイ。」
「落ち着いてください!火が学園に燃え移ったら大火事になりますよ!?」
「大丈夫だよ。スリー様は優秀な水魔法使いだから。消火もすぐ出来るし。」
「ガードン王に二人を処罰させます!だからやめてください!」
「えー?処罰って何するの?牢屋に何年も入るよりここで一日中火炙りになったほうがいいんじゃない?時間が有効に使えるよ?」
「や、やめてくれ…」
私の両親は恐怖で腰を抜かしている
父上は失禁もしてしまっている
「牢屋に三年は入れて鞭打ちの刑にさせますから!」
「ねぇ。どっちにする?牢屋?火炙り?」
「牢屋に入る!!」
「そう。まぁいいわ。三年間鞭打ちされて自分の罪の重さを感じるがいいわ。」
私の正義のヒーローは
誰よりも強く
かっこよく
恐ろしかった