第108話 新学期
私はエラート家には帰省したが、アーネルド家には行かなかった
「今、アーネルド家に帰ったらうざいと思って。もう新しいチームとして頑張ろうとしている野球部に卒業生のOGがずっと遊びに来て居座るみたいな。」
「そんな鬱陶しい扱いされないですよ…」
アーネルド家に帰らない報告をレイにする
レイは少し残念そうにしていた
「でも今のマリアにとっては鬱陶しい存在でしょう?」
「今のマリア様は今のマナ様が大好きですから。喜びますよ。」
「でもアーネルド・マリアとして生きていくのはしんどくなりそうだから。もう一生アーネルド家に帰ることはしないと思ってたけれど、卒業したら会いに行こうかな。」
「…そうですか。俺はアーネルド家で働くように命令されていたのにも関わらず命令に背いてここに来てしまったので…マナ様に会いたくて仕方がなかったんです。それはきっとアーネルド家のみんなそうだと思います。」
「私だって今すぐに会いたいよ。本当はね。でも…私はマナだから。私はマナとして生きていかないといけないのに決意が揺らいでしまう可能性だってあるもん。」
「…そうですね。俺は実は聖女パレードから護衛についていたんですよ。マナ様にお仕えして思いましたよ。俺が一緒に過ごしたアーネルド・マリアはもうどこにもいないんだなってね。」
「力と権力を手にすると人は変わるからね。マナは嫌い?」
「まさか。マリア様の時よりもずっと愛していますよ。」
「え。意外。マナを好きになる要素ないけどな。」
「外見と白魔法の才能を足枷のように抱えて生きている姿が生き辛そうで好感が持てます。」
「それ好感度上がる話なの?」
「マナ様が教えてくれたじゃないですか。人間の長所を愛するんじゃなくて短所を愛してこそ“愛”なんだって。」
「アハハ!!たしかに。」
「短所が人間臭さが出ていて素敵なんだって。」
「よく覚えているね。」
「当たり前じゃないですか。マナ様から貰った言葉は全て宝物ですから。」
そして夏休みが終わり、今日から新学期が始まる
「おはよう。マナ。」
「おはよう。レックス。」
エラート家から帰ってから毎朝五時にレックスが魔塔に来るようになった
「新学期が始まってからも毎朝来るの?」
「もちろん。寧ろ学園が始まってからの方が通いやすいのにやめたりしないよ。」
「そっか。まぁ私も毎朝レックスに会えるの楽しみにしてるから嬉しいけど。」
「…急に心臓に悪いデレ方するなよ。」
「アハハ!」
私達は毎朝五時から朝食作りをする
ミケお爺ちゃんが育てている畑の手入れをして
今日の分の野菜を収穫する
収穫した野菜と昨日から寝かしてあるパン生地を焼いて朝食を作る
「マナって自分のこと怠け者だってよく言うけどそんなことないよね。」
「私はどうしようもない怠け者だよ?」
「朝五時に起きて朝食作る人間をそんな風に言わないよ普通。」
「私は朝型の人間なだけ。夜は二十二時には寝るよ。夜遅くまで起きるのは苦手だから。」
「早寝早起きする怠け者はいないよ。」
「偏見だなぁ。朝型の人間だって怠け者だよ。早寝早起きしても日常生活はだらけてるよ。」
「昼休みは生徒会でクロネコガールの仕事をして、放課後はオーケストラ部の練習をして忙しいじゃないか。」
「流されやすいだけだけどね。なんとなく成り行きで忙しくなっちゃっただけ。」
「マナって自己肯定感低いよね。」
「だって特に誇れるものがないからね。」
「そんなことないよ。」
「じゃあ私のどこが好きなの?」
「可愛いところ。」
「…まあそうだよね。」
「マナは俺のどこが好き?」
「いつも別れ際に寂しそうな顔をする所。」
「…なにそれ。嫌なんだけど…。」
「フフフッ。いつも別れ際に離れたくないなーって顔に出てていつも可愛いなって思って見てる。」
「もっと顔がかっこいいとか!!文武両道な所とか!!かっこいいところを見せて惚れさせたいのにさぁ!!」
「かっこいいところを見ても惚れないよ私は。」
「…え?」
「カッコ悪い所を見せてくれないと。私は好きにはならないよ。」
「それは難しいな。俺はいつもかっこいいから。」
「アハハ!!ハイスペスパダリ男子は凄いねぇ!!因みに私の好きな所の答えで可愛いところは地雷だよ。」
「え!?何で!?」
「なぜでしょうね。」
「マナは世界一可愛いのを誇るべきだよ。もったいない。マナは結構逆張りな考え方するよね。自分のこと嫌いな人の方が好きとか言ってたし。」
「私のこと可愛いという人間はこの世で一番信用がないからね。」
「この世の男全員信用ないよ。それ。」
「だから一生恋できないんだよ。」
「素直に可愛いって言われたら喜べばいいじゃないか!」
「そんなこと出来たら苦労してない。」
「なんで素直に喜ぶことが難しいんだよ…」
そんな雑談をしながら朝食を作り終える
マオとミケお爺ちゃんが起きてきて私達は四人で朝食を食べる
「一緒にスカーレット学園行かないの?」
「うん。一緒に学園に登校して毎朝マナに会ってることをバレたくないからね。貴重なマナとの二人きりの時間を邪魔されたくないから。」
そう言って先にレックスは登校する
私はその後時間をずらして登校する
新学期の始まりだ