第106話 理想と現実
「水に浮かんでいる時の浮遊感が好き。」
「俺も好き。」
「水に潜った時に太陽の光で光るキラキラした水面が好き。」
「俺も好き。」
「全部のっかるじゃん。胡散臭いなぁ。」
「本当だよ。マナの好きなものは全部好きだよ。俺達気が合うね。」
「私はトマトも好きだよ。」
「…。」
「私達気が合わないね。」
「トマトだけだから。」
「ぶっちゃけクリスが一番気が合わないと思ってるよ。私。」
「な、なんで!?」
「だってすぐ喧嘩になるし。私穏やかな性格なはずなのに。」
「世の中の穏やかな性格の人に謝った方がいいんじゃないか?」
「ほら!そうやってすぐ喧嘩ふっかけるじゃん!!」
「マナのどこが穏やかなんだよ。」
「クリスからみた私はそうじゃないかもしれないけれど、他の人から見たら結構穏やかだと思うけど。」
「例えば?」
「え?えーと…」
「ほら。いないじゃないか。誰がどう見てもマナは穏やかじゃないよ。」
「…そうだね。」
マナはバシャっと水を俺に掛けてきた
「うわっ!!」
「アハハっ!!!」
「気に食わないという理由だけで攻撃するな!」
「アハハッ!ごめんなさーい!」
バシャっと俺もマナに水を掛ける
「ひゃあ!!」
「反省の色が見えない!」
マナは俺の顔を覗き込み上目遣いで
「許して…ね♡」
あざとい
可愛い
こんなに近づかれたらそのままキスしたくなってしまう
「なぁ。もう俺達恋人同士じゃないか?こんなラブラブなデートしてさ。」
「やだなぁ。私はクリス以外の男の人ともラブラブしてるよ?」
「…は?」
「みんな平等にイチャイチャしてる。」
「博愛主義通り越してただのアバズレじゃないか。」
「誰がアバズレよ!私の恋愛に世界平和がかかってるんだからこれでも私なりに頑張って恋愛しようとしてるだけなのに!」
「俺だけにしとけよ。」
「だめーー!!!私はみんなとお話しして誰と恋するかちゃんと決めるんだから。」
「なぁ。今って誰が一番好きとかあるのか?」
「みんな好きだし順位の凹凸はつけられないな。みんな違ってみんないい。」
「アバズレ。」
「うるさい!」
またバシャっと水を掛けられる
「あ。強いていうならローズ様が一番好き。」
「…あの女のどこがいいんだ?」
「だって可愛いし、かっこいいしそれでいてちょっとメンタル弱かったりして守ってあげたくなる感じがいい。」
「俺だってマナを守れる強い男だよ。」
「私守ってもらうの好きじゃないから。」
「どうして?」
「守ってもらうだけのお姫様になりたくないから。可愛いだけの女だって言われたくないの。私のプライドの問題かな。」
「守ってもらえれば幸せになれるのに?」
「そんな幸せいらないから。何もせず。愛してもらって守ってもらって生活するなんてとても退屈だと思わない?」
「ずっと二人で過ごせるなら最高に幸せだと思うよ。」
「ふーん。恋したらそうなるのかな。」
「どんな男が好みとかあるの?」
「うーん…私がおばさんになって可愛くなくなった時に、それでも好きだよって言ってくれる男の人がいいな。」
「マナはしわくちゃのお婆さんになっても可愛いよ。マナは死ぬまで一生可愛いと思う。」
「残酷なこと言うね。」
「残酷?褒め言葉だと思うけど。」
「あー。そっか。そうかもね。」
「可愛くなくなりたいの?可愛い自分が嫌いなの?」
「嫌いなわけじゃないけれど。可愛い自分が一番価値があるじゃない?私が長年努力して手に入れた価値よりもずっとね。だから可愛い自分が私のライバル。いつか可愛さよりも価値がある何かを手にしたいの。」
「うーん。一生勝てなさそうだよ。無駄じゃない?」
「ねぇ!!人の目標をそうやってすぐ否定するのよくないと思う!!!」
「俺は素直な意見を述べただけだよ。つまり外見の価値より内面をよく見てくれる男が好きってことだろう?」
「そうだね。」
「じゃあ俺が一番理想の男じゃないか。」
「え?なんで?」
「だって俺はマナじゃなくてマリアの君に恋をしたんだよ?それは外見関係なくマナが好きってこと。」
「まぁ…」
「理想の男が目の前にいるのになんでそんな嫌そうな顔するんだよ!!」
「理想と現実は違うのかもしれないね。」
「違わない!俺はマナの理想の男だ!!」
「やだなぁ。」
「なんでだよ!!!」