第101話 帰国
花祭りはいきなり何人か人が倒れて一時は騒ぎになったが
ハーバランド国の騎士団によって倒れた人達は連れて行かれて
その後は何事もなかったかのように花祭りは再開された
カイザー師匠が倒れた時に白魔法で治したマナは
慈悲深く
見返りを求めない
その懐の深さは
まさしく世界唯一の聖女そのものだった
でも…今日のマナは聖女と呼ぶには程遠く
怒りに身を任せて
復讐しようとする姿は
修羅と化していた
マナを敵に回して生き残れる人間は
この世にはいないだろうと
そう感じる程恐ろしい殺気と狂気だった
レイと呼ばれていた騎士が止めなければ
カルト団体はマナの手で皆殺しにされていただろう
一人で魔王討伐に行くような女だ
常軌を逸していているのは当たり前なのかもしれない
マナの変装を頼んだのはガードン王だった
“本当は危ないからこの国を離れて欲しくはないけれど、一生懸命練習したピアノを台無しにすることはマナの怒りを買うかもしれないから…。付け焼き刃かもしれないけれど、変装はさせて欲しい。マナがキッカ国に行く最低条件だよ。マナの護衛もつけるが、マナには秘密にしてくれ。護衛をつけると言うと怒るから。ピアノを通して少しは真人間にマナがなってくれるなら万々歳なんだけど…。ハァ…頭が痛いよ。”
そんなことをガードン王は言っていた
この時は大袈裟だと思っていたが
今ならわかる
マナを怒らせるとヤバイと
俺達はその後、数日間キッカ国の美術館やデパート等観光をして
帰国の日になった
俺達はまた豪華客船に乗りハーバランド国へと帰る
「帰りのディナーショーはマナにも参加して貰うから。」
「…え?…は!?聞いてないんだけど!?」
「言ってないからね。」
「なんでいつも言わないの!?」
「だって言ったら断るだろう?」
「だからって強硬手段を毎回使うのは狡いと思うけれど!」
「オーケストラ部の部長命令だから。」
「ひどい!パワハラだよ!!」
「パワハラ?」
「権力がある人に逆らえないことだよ。」
「この世の中全部そうじゃないか?」
「私は王様に逆らいまくってるよ。」
「よく生きていられるね…。」
「そんなことはどうでもいいんだよ!わたし絶対いやなんだけど!!」
「レストランのストリートピアノは機嫌よく弾いてたじゃないか。」
「あれは無料だからでしょう?有料でしかもニックが目当てのディナーショーでピアノを弾くなんて空気読めなさすぎでしょう!?」
「何が問題なの?」
「みんなはニックのバイオリンが聞きたくてお金を払って来てくれてるのに、当然知らない女がピアノ弾いたら嫌でしょう?」
「そんなことないよ。みんなマナの音楽を楽しんでくれるさ。」
「甘い!!甘すぎるよ!!ガチ恋勢のファンとかニックは絶対多いタイプじゃん!!絶対私がゲスト参加なんかしたら地雷だから!!」
「めんどくさいファンは切ってるから大丈夫だよ。」
「切ってる?どうやって?」
「俺は演奏家である前に伯爵地位の貴族なんだ。俺に過度な態度で接するファンは全員出禁にしているよ。」
「どこの世界もファン対応って難しいんだね。」
「俺のファンは俺に直接触れてはいけない。俺のプライベートにも触れてはいけない。愛の告白も禁止。そういう鉄の掟があるから大丈夫だよ。」
「ニックも苦労してんだね…。」
「もう既にゲスト発表してるから拒否権はないけど。」
「だからなんで勝手にそんなことすんのよ…」
「一曲はソロでやって貰う。もう一曲は俺と一緒に演奏して貰う。」
「ニックと?コンクール曲をやるの?」
「それだと面白味がないから今から練習して仕上げるよ。」
「は!?え!?今から練習すんの??」
「本番は三時間後だから。」
「…鬼。」
「なんか言ったか?」
「いえ。何も。この世で一番偉いオーケストラ部の部長様の言う通りにしますよ。」
「じゃあマナが音楽室で初めて弾いた曲を弾くよ。」
「え…!?はぁ!?あのゲームミュージックをですか!?ニック弾けるの?」
「最高にかっこよかったからね。俺は耳がいいんだ。覚えているよ。」
「そうなんですか?ではお手並み拝見ですね。」
そして俺達は三時間練習をした後に本番を迎えた
俺のソロ演奏を三曲披露した後
マナがソロでピアノを弾く
マナの英雄ポロネーゼは何度聞いても心惹かれる
そして最後のトリで俺達のデュエット演奏
クラシックではない曲調だが
一度聞いたら耳から離れないであろうこのかっこいいメロディーラインは
観客の心を鷲掴みにした
マナのピアノが響き
俺のバイオリンが奏でる
幸せな気分に俺は浸っていた
大勢の拍手が鳴り止まない
大成功のディナーショーになった
「シエル!!」
そう声を掛けてきたのはマオの友人チーノだ
「チーノ!どうだった?私の演奏!!」
「最高だったよ!!シエルって凄かったんだね!」
「いやぁ…それほどでも…あるかもしれないけど!我が名はシエル!この世を制するピアニストになる!」
「かっけぇ…」
「そうでしょう!そうでしょう!!」
「シエルは聖女でしょ?」
「…は?…え!?…な、なんで!?」
「だって僕は確かに体を剣で貫かれたのに、跡形もなく傷がなくなった。そんな魔法を使えるのはこの世でただ一人。聖女様だけだよ。」
「た、たしかに…」
「誰でもわかるよ。そしてマオは魔王なんでしょう?」
「…え。な、なんで…」
「破滅の力を持っているのはこの世でただ一人。魔王だけだよ。」
「…黙っていてごめん。チーノ。」
マオが言う
「マオはちゃんと話してくれたじゃないか。黙っていたのはシエルだろ?」
「え!?わ、私は正体を隠さないと危険だからと言われて仕方なくですね…」
「別にさ。いいんだよ。そんなことは。シエルとマオは俺を助けてくれたヒーローだから。だから…ありがとう。」
「…魔王でも友達でいてくれる?」
「当たり前じゃないか!俺の友達は魔王だって自慢して言いふらしたいよ!」
「そんなことしたら友達いなくなるよ?」
「そんなことないって。マオはいいやつなんだから。わかってくれるさ。人はそんなことで差別なんかしないよ。世界は平和になったんだ。魔王に友達ができるほどにね。」
「僕がもし魔王として復活したらどうする?」
「そりゃあ責任持って俺が退治してやるさ!!そして俺はこの世界の英雄になるのさ!!」
「…ハハハッ!!俺強いよ?大丈夫?」
「大丈夫さ!マオは友達を殺せないからな!俺の勝利は確定している!!」
「たしかにそうかもね。」
「安心して。マオが人間でも魔王でも友達さ。」
「魔王になったら殺すのに?」
「魔王として生きていたくないから今人間になったんだろう?じゃあ魔王になったマオを殺すことは救済だろう?」
「…アハハハ!!たしかに。そうかもしれないね。」
「でもずっと人間の姿でいて欲しいよ。」
「この恋が実らなかった時、俺が魔王になってしまったら必ず僕を殺しに来てね。」
「バカ言ってんじゃねーよ!失恋ぐらいで死のうとすんな!!俺なんかもう三回ぐらい振られてるけれど、元気だぞ!!マオを振るような女なんて気にすんな!!お前のことを愛してくれる女はどこかにいるさ!!」
「うん。うん!!ありがとう。チーノ。僕はチーノと友達になれてよかった。」
「おう!ハーバランド国に帰ってからもいっぱい遊ぼうな!」
「うん!!」
そう言って彼等は友情深めていた
マオが魔王…?
「マナ。マオが魔王なのか?」
「トップシークレットだよ。誰にも言わないでね。」
「マナがマオを人間したの?」
「そう。誰にも言わないでね。情報漏洩したら王様に殺されちゃうかもしれないから。」
「じゃあマナは殺されるんじゃ…」
「ワンチャン死ぬ。私もマオも。」
「…。」
「許してヒヤシンス。なんちゃって。」
「それ言ったら本当に首が飛ぶよ?誠心誠意謝罪しないとダメだよ。」
「あーーー。やだーーー!!帰りたくなーーい!!」
そんなことをマナは言っていたが
あっという間に移動の三日間はすぎて俺達はハーバランド国へ帰って来た