7話
あたしが母さんやヘレナ、カロン君と一緒に過ごすようになってから、一ヶ月近くが過ぎた。
四頭のオオジョタイになり、プールが狭く感じられる。以前はあたしと母さんだけだったから、余計にだ。トレーナーのオオノさん、カワモトさん、ハタノさん、新しい人であるらしいミヤモトさんがあたし達の所にやって来た。このミヤモトさんはオトコのヒトだ。オオノさん、カワモトさん、ハタノさんはオンナのヒトだけどね。
「……おはよう、フェリ!」
『……キュッ!』
元気よく、オオノさんがあたしに声を掛けてくる。他の三人も母さんやヘレナ、カロン君とスキンシップを取っていた。
「フェリ、今日は元気そうだね。前は弱ってたから、心配したよ」
『?』
「分からないかな、ごめん。さ、フェリが好きなサバだよ!」
オオノさんは気を取り直すように、バケツから魚を手に取る。あたしが口を開くと一匹ずつ、投げ入れてくれた。うん、本当に好きなサバだ!
ちょっと、気分がフジョウしたのだった。
あたしはパフォーマンスの時間に、ヘレナやカロン君と一緒にスーパーダッシュに挑戦する。プールの端から端まで本気の速さで泳ぐ。何とか、無事に成功した。
『……凄い!』
お客さん達が一斉に歓声と拍手をあげる。あたしはこの瞬間が好きなのよね。ヘレナやカロン君も誇らしげだ。母さんも水平ジャンプやスピンジャンプで頑張っている。さすがに、母さんはトシの関係で激しいパフォーマンスはできない。代わりに、出来る範囲でやれるようにとオオノさん達が懸命に考えてくれているようだ。あたしは最後にレスキューランディングを披露する。拍手と歓声、音楽がある中で頭を反らし、ピンと尾びれを上げた。
「フェリ、頑張ったね!」
そう言いながら、オオノさんはあたしの頭を強く抱きしめてくれる。ちょっと、照れくさいけど。褒めてくれてるから、もっと頭や尾びれを上げた。
お客さん達はゾロゾロと席から立ち上がり、去って行く。一通り、人気が無くなるとオオノさんがサインを出した。戻っていいよという合図だ。あたしは体を横に傾けてザバンとプールに戻る。
「うん、お疲れさん。今日はゆっくり休んでね」
オオノさんはにっこり笑顔で言った。あたしはプールの中でスィーと泳ぎながら、こちらから離れるカノジョを見送った。