1話
あたしはにほんって言う国の水族園って所で暮らすシャチだ。
名前はフェリといって、母さんシャチのリアと二頭で飼われている。父さんシャチのフィルは五年くらい前に、亡くなった。今は母さんと二頭だけで過ごしていた。ちなみに、あたし担当の飼育員さんは名前をカワモトさんと言う。母さん担当はオオノさんと言った。
「……フェリ、リア。おいで!」
『あ、ご飯の時間だ。行こ、母さん!』
『待って、フェリ!』
不意に声を掛けてきたのはカワモトさんだ。傍らにはオオノさんもいる。水面から、首や頭を出す。
「はい、お魚だよ」
カワモトさんがバケツに入った魚を一匹ずつ、手ずからくれた。オオノさんから母さんも、もらっている。
うーん、やっぱりご飯の時間はカクベツだわ。プールの中で泳ぐか、母さんと遊ぶかくらいしかやる事がないからなあ。まあ、時たまに母さんと二頭でパフォーマンスをやる時もあるが。
「はい、魚はこれで終わりね」
『あ、もう終わりかあ』
あたしはバケツを見せられて、ちょっとガックリきた。仕方ないから、カワモトさんから離れる。プールの中をまた泳ぎだすのだった。
夕方になり、カワモトさんやオオノさんは帰って行った。母さんと二頭だけになる。
『暇だね』
『そうねえ、ヒトがいなくなると静かだわ』
『うん、夜中は全然、音がしないからね』
ヒトがいない水族園にはあたし達の声や水音くらいしかしない。本当に、一気に寂しさがこみ上げてくる。キューと水面に上がりながら、鳴いた。プールから、ぽっかりと空に浮かぶお月様が見える。あたしはまた一声鳴いたのだった。