第4話 勉強会
アターニア王国。
森林に覆われたアリアラデン大陸の北西端に位置する王国。
国王が国の頂点に立ち、その下に貴族がいて、さらにその下に領民がいるという封建制の国だ。
テネブルはその王国を治める現国王ストーの第三子、第二王子として生まれた。
「流石です。テネブル様。」
正面に座るエイリークが柔和な表情で褒める。
隣でリータが感嘆の声を上げている。
エイリークからこの国の言語を学んでいる。
学んでいると言っても、最初はエイリークやリータと雑談をしているだけだった。子供が飽きないような工夫なのか、はたまたエイリークの教育方針なのか。
そんなこんなで会話を重ねて行くうちに日常会話を覚えた。御機嫌よう、今日は天気がいいですね、それではまた、などだ。薄々気づいていたが、恐らく文法は英語と同じだ。
次に文字の読み書きに移った。
どうやら文字は表意文字らしい。
数文字で文章が表せる。
私はパンを食べた、という文章が3文字で表せる。
覚えれば便利だが、如何せん文字が多い。漢字を覚えるのと同じ感じだ。小学生のときに手が痛くなってもノート一杯に漢字を書き続けた記憶がよみがえる。
木の板に文字を書きながら、エイリークに尋ねる。
「文字は他にも無いのですか?」
「他の文字ですか・・・・・・」
エイリークは考え込んでいる。
他に文字がないのか、或いは他に文字があるが教えようか悩んでいるのだろう。まだ一つの文字を覚え始めた子供にいくつも文字を教えると混同しかねない。
「リータも書いてみてください。」
話題を変えるために自分が書いた文字を見つめているリータに話しかける。
「私ですか?わかりました。」
リータにペンと板を渡す。
ペンを握ったリータは板に文字を書き始める。
「うーん・・・・・・」
眉を潜めて唸りながら文字を書いているリータ。
「むずかしいですね・・・・・・」
力の入れ方に苦労しているようで、ペンの先端の黒鉛が数文字書いただけで潰れてしまっている。
「こんなに早くできるようになるなんて、さすがテネブル様ですね。」
「リータも一緒に練習しませんか?」
「私もですか?でも・・・・・・」
「いいですね。」
エイリークが答える。
「文字が書けて損なことはないですよ。」
「そうです。」
「エイリークさんまで・・・・・・わかりました、私もやります!」
この日からリータも手を痛くする日々が始まった。