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第1話 転生

「@#&:?^[\#"」


 声が聞こえる。


「@#&:?^<(」


 何か話しているようだが、何と言っているのか理解できない。


「?>]}#<+^>」


ー夢?……ー


 体を動かそうとしても、動かない。


ーお腹すいたー


 突然、頭に自分が空腹であることが思い浮かぶ。


「うぅ……」


 空腹であることを認知した途端、思考が空腹に乗っ取られる。


 「あぁ……」


 空腹であることに耐え難い不快を感じる。


ーお腹がすいただけなのに……ー


 突然の強い感情に困惑しながらも、なんとか耐えようとする。

 しかし、不快感は治まるどころかどんどん大きくなっていく。


 そして、


「あぅあぁあああ」


 耐えきれずに泣き声をあげる。


「$%>;:@|]<=%」


 体が抱き抱えられて、浮き上がる感覚がする。


「^>>(+[&}%=」


 顔に何かが近づいてくる。


 無意識に口を開いて、その何かを咥える。


ーこれは……ー


 口の中に液体が流れ込む。


ー夢じゃない?……ー


 満足すると、物体から顔を離す。


ーいや、そんなはずは……ー


 しばらく、そのまま抱かれたままでいる。


ーそういえば、俺はバスに乗っていたはず……ー


 修学旅行で金沢に向かっていたはずだ。


ー雨が降っていて、高速に乗れなくて……ー


 記憶を辿る。


ーバスの中で……ー


 思考を続けたまま意識は闇に落ちていった。


ーーー


ーさて、どうするか……ー


 起きては寝てを数回繰り返すと、現状が理解できてきた。


 どうやら本当に夢ではないらしい。


 現在、自分は恐らく新生児である。

 視界がぼやけているため、生まれて数ヶ月以内であると考える。

 種族はわからないが、おそらく限りなく人間には近いだろう。

 頭に耳が生えていたり、背中に羽が生えている感覚はない。

 体の大きさも新生児なら妥当であろうと思える。


 聞こえてくる言語は全く理解できない。

 恐らく今まで聞いたことない言語ではあると思う。

 外国か、時代が違うのか、はたまた異世界なのか。


ー異世界転生……ー


 異世界転生はよくラノベやアニメで見ていたが、まさか自分が転生するとは思いもしなかった。


 現状はわからないことだらけだが、まずは言葉を覚えるところからだろう。

 複数の声から何度も同じ単語を呼び掛けられているため、恐らくそれが自分の名前だと思う。


「あぅあぁ」


 発話してみようと思うが、上手く口が回らない。

 この体に慣れてないからなのか、まだ未発達で喋れないのか。


ー喋るまえに、聞くところからだな……ー


 体を抱き抱えられて、ゆらゆら揺すられる。


ーまあ、この生活も悪くないかな……ー


 そんなことを考えながら、眠りに落ちる。


ーーー


1043年 

アターニア王国 王都レスト 王城 謁見の間


 王城に設けられた謁見の間

 豪華絢爛ではないが、大きな窓から入る日の光が調度品を照らし、部屋の格式を高めている。

 そんな王国を象徴したようなこの部屋には王城に勤める貴族が全員集まっている。

 各々が緊張した面持ちで並んで立っている。


 静かな室内で国王が口を開く。


「全員揃っているな。」

「はい。」

 国王から向かって右、群臣の一番前に立つ宰相が返答する。


 宰相を一瞥した国王は、貴族たちに向き直る。


「昨日、我が子が産まれた。」

「第一王女と第二王子だ。」


 室内が一瞬動揺する。


「この度はおめでとうございます。」


 国王の発言に一拍置いて、宰相が頭を下げる。


 それに倣って、室内の全員が頭を下げる。


「ああ、ありがとう。」


 返事をして、室内を見渡す。


「これからもよく、王家と王国の為に宜しく頼む。」


 再び全員が頭を下げた。


ーーー


「テネブル様~」


 女性が笑顔でこちらに手を振りながら名前を呼んでいる。

 この女性はメイドのようだ。


「あぁうぁ」


 体はまだ動かないため、言葉を発してみる。

 新生児にしては反応が良いことが珍しいのか、定期的に話しかけられる。

 話しかけられるたびに返答を変えようとするのだが、発音はまだはっきりできない。

 

 発音はまだできないが、音とにおいから自分がいる部屋には何人かが出入りしていることがわかる。

 ときどき来る父親と思われる男性以外は女性である。

 母親はわからない。

 出入りする人の中にはいない気がする。

 なんとなくだが。


 現代の知識に照らすと、他人に子育てを任せているということはかなり身分の高い家庭だと考えられる。

 女性の服装もみんな同じものを着ている。


ー貴族……ー


 転生先で一番嫌なところを引いてしまった。

 貴族なんて複雑な貴族社会のなかで一生足の引っ張り合いをしているイメージしかない。

 ただでさえ人とコミュニケーションをしたくないのに、駆け引きなんてそんな面倒なことはしたくない。

 まぁ、身分が高そうだからって貴族と決まったわけではない。

 商人や大地主の可能性もある。


ーそれはそれで面倒かもな……ー


 そんなことを考えながら、月日は過ぎて行った。

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