取引材料
2016年 ウェストリムソン 配車場のカフェテリア
「最近どうかな?」とのホランドの問いかけに、バディダは少し考えて答えた。「寝る場所も与えてくれますし、上司のライラも優しいです。しかし・・・」「ほう、しかし?」「犯罪まがいの業務もおおくあり、警察等の機関に目を付けられないか不安です。」するとなぜかホランドは笑いだす。怪訝そうな顔をするバディダに対してホランドは静かに言う。「すまない、すまない。でもな、よく考えてみろよ。私自身警察官だ。」バディダはその冗談に苦笑する。「ところでな・・・」
いよいよ本題に入るようだ。バディダは少し身構えた。「また犯罪まがいの依頼で済まないが、とあるものを市議会議員の家からだまし取ってきて欲しい。」そう言ってホランドは詳細を語り始めた。
最近な、我々は少し厄介なことになっている。詳細は省くが、とある強盗集団に潜入させたうちの捜査員が強盗の一味として州警察の連中によって逮捕されちまった。その捜査員は強盗集団の内情や組織構成、犯罪ネットワークを探るために積極的にいくつかの強盗に参加していた。そのためか今では強盗の実行リーダーに任命されるときも沢山あるようだ。もう分かるだろう?そう、州警察の連中はいつでも強盗の首謀者としてうちの捜査員を書類送検できるわけだよ。だが奴らはまだしていない。この件を利用してうちを言いなりにさせようって魂胆だ。まあ、捜査員を人質にとったわけだな。当然、我々はそれをやめさせたい。だが悔しいことに捜査員を書類送検できる立場にある奴らの方が上手なわけよ。ここまでは分かったな?さて、ここからだ本題だぞ。この状況を打開するためにある人物を脅して操るしかない。それが州知事だ。彼は州警察の監督権と幹部の任免権を持つ。彼を味方につければうちの捜査員は釈放される。どうやって味方に付けるかだって?本来ならばとある書類を使えば簡単に済むはず・・・だった!クソ!内通者がいたんだ。その書類は先日のシネル孤児院放火事件の捜査過程で我々が孤児院の事務室から回収したものだ。だが・・・今は知事の息子の市議会議員の家にある。俺の同僚が知事に連絡したんだ。そう、その書類をあんたに奪還してもらう。なぜあんたかだって?実はな・・・
「裏切り者の同僚はあんたと同じキューバ移民の地を引く男だ。さらに顔や背丈、骨格も似ているときている。あんたが市議会議員を騙すのさ!」
翌日 リムソンシティ 行政特別区 連邦警察支局
バディダは取調室の外から、顔がはれ上がったキューバ系の男を見つめる。彼は床にボルトで固定された椅子に手足を鎖と手錠で繋がれていた。その前には警棒を持った大男。ホランドの部下の巡査であるようだ。
「本当にすまねえ、もう許してくれ!知事は俺の父ちゃんの犯罪歴を削除してくれたんだ!そのおかげで俺は・・」とキューバ系の男。すると大男が警棒で彼の背中を殴りつけ。怒鳴った。「そんなこたあもう分かってるんだよ!一つ言えることはな、お前はお前の父ちゃんに似ているってことだな。つまり最低なクズだよ。連邦警察の裏切り者だ!」大男はそういうと警棒を放り投げ、拳でキューバ系の男を殴りつけた。
「気が済むまで見ていいぞ。奴の口調を把握しろ。変装のしたくは任せろ。」そう言ってホランドは自分のオフィスに向かった。
四日後 リムソンシティ 行政特別区 議員アパート
パトカーから降りた連邦警察警官を見て、アパート前の警備員は頷く。「あんた、ジェファーソン議員のところに来ただろう?」という警備員の問いかけに「ああ、取り次ぎ頼んだぜ。」と答えた男は髪型を角刈りにし、鼻の下に付け髭を装着したバディダだ。
警備員は壁の内線を使ってジェファーソン議員に電話をかける。「ああ、もしもし。今丁度・・・ええ、その通りです。ドログ特別警部が来ましたぜ。」内線の向こうから低い声がした。「ああ、通せ。」警備員は頷いてバディダを手招きした。「こっちだ。」バディダは警備員の後に着いてエレベーターに乗り込む。
「やあ、よく来たな。まあ座れよ。」とジェファーソンはソファを指し示した。先ほどの内線電話と同じ声だ。彼は長い灰色の髪をかき上げるとバディダが座ったソファの向かい側に腰を下ろす。「それで、あんたが書類を処分してくれるのかな?」との問いかけにバディダは答える。「ええ。処分をする旨、お父様には了承していただけました。」とバディダ。事実、ホランドらの目の前でドログ特別警部は知事に電話を掛け、書類を処分しておく旨を伝えていた。それを聞いて安心したようにジェファーソンは頷き、「少し待っててくれ」と言うと書斎のような部屋に入った。
出てきた彼は大きなファイルを手にしていた。「処分するのは父に関する部分だけかな?」「え?」「あんた、よく分かってるだろうがね、この死んだ似非修道士の顧客は父だけじゃない。多くの顧客がいるのだよ。有名な実業家や俳優、政治家・・・彼らの情報を処分するのはもったいないだろう?」「ええ、まあ・・・しかし・・・」「だから父は考えを変えたんだ。このファイルは私が保管しておく。私と父がこれを武器として使えるようにな。だからありがとうさん。」バディダは想定外の事態に動揺した。「今警備員を呼ぶよ。玄関まで送ってもらってくれ。」バディダはなすすべもなく座っていた。
警備員が室内に入ってくる。「まいりました・・・」そう言う警備員の声はなぜかか細い。すると彼の体がいきなり前に倒れた。「そのファイルを寄越せ!」警備員の後ろからピストルを持った黒覆面の男が現れる。ジェファーソンは「ひっ!」と叫んで尻もちをつく。バディダは固まる。男はピストルをシェファーソンに向けながらファイルを手に取り・・・倒れた。警備員が椅子で殴りつけたのだ。「クソ!なにしやがる!」怒鳴った男はファイルを取ろうとするが・・・無い。「クソ!」男は舌打ちをするが、いつのまにか警備員に組み敷かれていた。
バディダは警報が鳴る中非常階段を駆け下りていた。駐車場が見える。ここを走り抜ければ・・・しかし、「待て!」と声がした。後ろから二人の警備員が追ってくる。バディダは慌てて駆け下り、足を踏む外す。地面が顔に迫る。
警備員二人は「あ!」と叫んで止まり、下を見下ろした。だが二人はさらに動揺することとなった。「なんだあいつ?」なんとバディダの落下地点にトラックが滑り込んだのだ。
バディダは死を覚悟し・・・ふかふかの感触に驚いた。目を開けると柔らかい綿の中に落ちていた。どうやら綿を満載に積んだトラックであるようだ。
40分後 リムソンシティ 中央東区
トラックが停まるとバディダは隠れていたが、「おいおい、あんたを救ってやったのに薄情じゃねえか?」と声がする。顔を出すと、なんと前の職場の用心棒メドゥスがいる。彼は今、チカーノギャングのアジトの倉庫にトラックを入れた。
「正直驚いたぜ。あんたが落ちてくるところを見た時はな。俺たちはとある人物から金もらってジャファーソンからファイルを奪ってやろうと思ってな。俺の手下が警備員を脅して侵入したはいいがへまをやらかしてみてえだな。奴は捕まっちまった。」そう言って豪快に笑うメドゥス。「本来ならばあんたを拷問して目的を吐かせるところだが、大体あんた側の依頼人の想像はついてる。」そう言うとメドゥスはトラックの隅に転がっていたファイルを取り、目を走らせていた。「このページはあんたにやるよ。あんたの依頼人が必要としている部分はここだけだからな。」そう言って破ったページをバディダに渡す。「あんたの依頼人に連絡して迎えにきてもらうぜ。だが彼が来るまでには時間がかかるだろうな。その間に俺のボスを紹介しよう。」そう言ってメドゥスは立ちあがり、さびれた小屋の間に場違いのように立つログハウスに向かう。
「これがお前が言っていたキューバ人か?」と髪飾りを付けた老人が尋ねるとメドゥスは答えた。「ええ、そうです。彼は使えますよ、ホーミー。」「そうだな。」と頷き、老人は言う。「これからはよろしくな。私はドランダ。ここらのチカーノ連中の世話係の一人さ。」
そうしてバディダはチカーノギャングとの繋がりを持ったのだった。