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リムソンライフ  作者: エッグ・ティーマン
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小さき暗殺者

 2016年 リムソンシティ ウェストリムソン

 「次の仕事よ!」ライラはバディダを叩き起こして言う。「はい・・・」ふらふらと立ち上がったバディダの手にライラは灰色のスーツを押し付ける。「偽造の免許証と社員証が入っているわ。今日はタクシーを運転してもらうわよ。」その言葉でバディダの目が覚めた。「はい?」「あなたがタクシーを運転するのよ。とある者を中央区のシネル孤児院まで送り届けてほしいのよ。」


 二日前 リムソンシティ 貧民街

 一人の浮浪児少年が根城にしている廃墟に戻った。「よお、今帰ったよ。」その声に答えるように中から大勢の浮浪児が飛び出してくる。皆戻った浮浪児少年よりも幼い。「ジェームス、今日はどうだった?」一人の少女が尋ねる。ジェームスはにっこりと笑うと言う。「今日は大収穫だよ。パンが手に入った!」浮浪児の間から歓声が上がる。「皆の分あるよ。」少年は大きな麻袋を出して見せた。中には大きなパンやの袋が四つ入っている。浮浪児たちが袋に群がる。「こらこら、皆の分あると言ったろ。」少年は少し浮浪児達をたしなめたが、その顔には笑顔が浮かぶ。

 その時、「ピーターソン、お客さんだぜ。」と言う声がしてホームレスの老人が入って来た。浮浪児達は各々パンを取って食べ始めている。それを見て少年は頷き、外に出た。

 外では老人が一人の男から金を受け取っていた。「案内ありがとな。ここからは坊やと俺が直接話す。」と男は言ってホームレスの老人は金を眺めながら去った。

 「坊や、スリが得意かな?」と唐突に聞いてきた男を浮浪児少年は睨みつける。「ふん、おじさんたちには分からないんだ。僕たちは毎日食べていくのにも必死なんだよ!おまけにここら辺は麻薬中毒者や前科者が多くいて・・・」「ああ、坊や、分かってる。俺はあんたのスリを咎めにきたんじゃないさ。スリより儲かる仕事を持ってきたのさ。」「麻薬なら御免だよ!僕のクソ親父は麻薬におぼれてかあちゃんを殺したんだ。あんな危険な代物・・・」「いや、僕は君の本業のことを言ってるんだ。」そう言うと男は封筒を取り出す。「前金だ。」少年は封筒を見ると中身を確認し、笑う。「で、いつまでにやればいいの?」「他の奴らよりも早くだ。他にも依頼してるからな。」「分かったよ。で、ターゲットはこいつ?」そう言って少年は封筒の中から写真を取り出す。「そう、こいつだ。じゃあ、頼んだぞ。終わったらさっきの爺さんを通じて俺に伝えてくれ。」そう言うと男は貧民街を後にした。


四日後 貧民街

 バディダはタクシーを不法投棄のゴミで埋まる空き地に停めた。空き地内では多数のホームレスがドラム缶で暖をとっている。皆うつろな目をしており、中には地面に転がって寄生を上げている者もいる。恐らく麻薬売人の元締めであるダニエルが実験用にホームレスに麻薬を乱用させた結果だろう。

 目がらんらんと光るホームレス四人がやってくる。手には折れた鉄パイプを持っている。バディダはこっそりとポケットの中のショットガンを握りしめた。「よお、金あるかい?」と一人が言う。「めぐんでくれよ!」ともう一人が叫ぶ。「すまねえ・・・別の用事で来たんだ。」とバディダは震え声で答える。「何の用事だ?」と尋ねられ、バディダは「ある少年を探している。」と言う。すると、奥から「ピーターソンを探しているのか?」としわがれ声が聞こえて、腰が曲がった老人のホームレスが姿を現した。「ああ、そうだ。」とバディダは驚きながら答える。老人は頷くと三人のホームレスに合図した。三人は肩をすくめると暗闇の奥に消えた。

 「案内しよう。金を持っていないとピーターソンはお前さんを殺すが、大丈夫か?」というホームレス老人に対してバディダは答える。「ああ、金はある。前金だ。」老人は「ふむ。」というとゆっくりと歩きだす。

 

 「おいピーター、客だぞ!」と老人が廃屋の奥に向かって言うと、「今行く!」と甲高い声がしたて、数分後に浮浪児が一人出てきた。だが表情を見てバディダは違和感を覚える。その少年は驚いているように見えたのだ。

バディダはあらかじめ渡されていた紙幣を数枚ホームレス老人に渡して追い払う。その後、鋭い目つきの少年に封筒を指し示す。「これから一緒に来てもらいたい。前金は終わった後支払うよ。」


四十分後 中央区 シネル孤児院

 独房のような部屋に入れられている少年たちは廊下の突き当りのドアが開く音で目が怯えた顔をする。その少年たちの前を太った修道僧服を着た老人が突っ切っていく。後ろにムチを持った大男を従えている。大男は常に独房の少年たちを睨みつけている。

 「まあいいですよ、ビィルヘルムさん。しかしあなたが私にきちんとした料金を支払わないとね、少々まずいことになる。私があなたに提供した少女は音声テープを持ち帰っています。それを新聞社に送り付けますよ。」修道僧はどうやら電話でビィルヘルムと会話しているようだ。脂ぎったその顔は欲望で醜悪に歪む。

 彼は反吐が出るような偽善事業を行っていた。身寄りのない孤児を預かる孤児院を開設したと言った彼は預け入れられる孤児を皆独房のような不衛生な部屋に閉じ込めて様々に「利用」した。ある者は修道僧と繋がりのある闇医者ダニエルに臓器を抜かれて販売され、またある者は「教官」と呼ばれる修道僧が雇った大男にしごかれて地下格闘技に出場することを強制され、さらに別の者は一定数存在する特殊性癖を持つ者たちに対する違法の性的サービスの道具にされた。そして最悪の場合、すなわち「利用価値無し」と認定された孤児はダニエルに売られる。ダニエルは彼らを新薬投与の人体実験に「使用」する。

 

 バディダは少年の手を引き、孤児院の玄関に入る。暗く寒々しい雰囲気の玄関だ。受付と思われるカウンターには人がいなかったが、「来客用ボタン。受付がいないときはこれでお呼び出し下さい。」と書かれた紙が貼られた赤いボタンがあった。バディダはそれを押す。少年が不気味な笑みを浮かべ、バディダの背筋に寒気が走った。


 大男が一人の少年を独房から引きずり出し、ムチで叩きまくる様子を見て修道僧は大声で笑う。「すみません、すみません・・・」と言う少年に対し、大男は怒鳴る。「ペンスさんにどんな態度とってんだよ!」しかしその大男の声をかきけすような大音量が響いた。「ふむ、来客か。」とつぶやいたペンス修道僧はいきなり顔にわざとらしい笑みを張り付け、ドアを開けた。


 奥の鉄製のドアから出てきた太った修道僧が微笑む。「もしかして、孤児発見者ですか?」「ええ、タクシーを流していましたところ、倒れかけていました。」と言ってバディダは貧民街で拾った少年を見せる。「ご協力ありがとうございます。ぼうや・・・」そう言って修道僧は愛想笑いを浮かべて少年の手を引いた。「ぼうや、つらかったろう。これを食べて少し待っててくれ。」修道僧はカウンターの下に段ボール箱からクッキーを取り出して少年に渡し、バディダの方に向き直る。「念のため、あなたの身分確認を・・・」と言って差し出された書類の空欄を偽造免許証の情報で埋めるバディダ。

 「さてと・・・ありがとうございます!また何かあれば連絡しますので・・・」と愛想笑いを浮かべる修道僧。「分かりました。」「子どもさんはしっかり預かりますよ。」「ありがとうございます!安心しました!」バディダはそう言ってタクシーに戻り、ライラに電話する。「ああ、ただ今殺し屋を送り届けました!」「分かったわ。殺し屋には修道院裏手の建設現場の中に入るように指示書に書いてあるわ。タクシーをそこに乗り入れて待っていて!」「承知しました。」


 孤児たちは別の恐怖で震えている。床に広がる血だまり。その中に転がる大男と修道僧の死体。いずれも腹に開いた傷から大量出血している。そして大笑いするナイフを持った少年。


 バディダが待機していると、血まみれの服を着た少年が走ってくるのが見えた。バディダはタクシーのランプを点灯させると、エンジンをかける。

 少年は乗り込むとすぐに「金」とだけ言う。「ああ、分かったよ。」バディダは呆れながらも後金の入った封筒を取り出し、少年に渡そうとして・・・固まる。少年が血まみれのナイフをバディダに突きつけていた。「あんた、死んでもらうぜ。あんたの殺害依頼を受けたんだ。」そういいながら少年が飛び掛かるのと、バディダがショットガンを撃つのが同時だった。少年の頭が吹き飛び、脳漿が飛び散る。バディダのショットガンを持つ手は震えていた。遂に・・・人を殺した!正当防衛だったとはいえ、少年の無残な姿にバディダはショックを受けていた。


 四日後

 カーナックは「清掃業者」から連絡を受けた。ライラから依頼されたタクシーとその中にある子どもの遺体の処理が完了したようだ。

 カーナックはとある人物に電話をかける。「もしもし。」とボイスチェンジャーの声。「よお、カーナックだ。」「やあ、どうしたね?」「あんたの紹介したターゲット、ホランドの稽古を受けている話はしたよな?」「ああ、きいたとも。で、奴が動き出したのかな?」「いや・・・だが、ターゲットは確実にホランドの稽古の成果を見せ始めている。才能が開花する前に早く殺したほうがいいぞ。」「そうだな、君の言うとおりだ。」そう答えた人物は目の前に転がる裁判官の遺体を見下ろしながら考えこむ。



 

 


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