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リムソンライフ  作者: エッグ・ティーマン
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告発

2016年 リムソンシティ ファストフード店 ジョイキッチン

 「おいバディダ、少し来てくれ。」とバークに呼ばれ、バディダは事務室に行く。事務室に入ると、見知らぬ男が座っていた。がっしりとした体格で初老の男。白いジャージでサングラスを付けている。「バディダ、こいつはタイソンだ。俺の友人でな。タイソン、こいつがバディダだ。あんたがやりたい仕事にはうってつけだぜ。」「おう、よろしく頼むぜ、バディダさん。やって欲しいことがあるんだ。」そう言ってタイソンは話し始めた。


自慢じゃねえが、俺はここらじゃ有名なラグビーチーム「ファイターオブリムソン」の監督だ。世間的にはアマチュアだとされてるが、俺自身はそうは思わん。俺たちは全米ラグビー興業委員会に過小評価されてるみたいだ。まあ自慢話はいい。とにかくだ、二か月後俺たちは試合を控えている。「リムソンナイト」とのな。奴らは弱いアマチュアチームだが、全米ラグビー興業委員会ランド部局は俺らを奴らと同等とみなしているようだ。本当ならば徹底的に叩き潰せる。だけど、今回奴らは卑怯な手を使って俺らに勝とうとしている。相手方の監督が中央区東通りのチンピラどもを雇ってうちの有力な選手を複数病院送りにさせたんだ。おかげでうちはまだ訓練中の新人だけで試合することになっちまった。ちなみにだが、この不正を突き止めたのがこいつ、バークだ。こいつは基本的には無能なんだが、賭博界隈には顔がきく。スポーツ賭博を行う連中が集まる酒場で一人の男がギャンブラーたちに「リムソンナイトに賭けろ」と言っていたのをこいつが聞いた。その男はリムソンナイトに賭ければ必ず勝つと保証し、勝った暁には必ず掛け金の6パーセントをいただくと言った。勝たなければ凹してもいいのか、と一人のチンピラが凄んだら、そいつは満面の笑みでこう答えたってよ。「ああ、もちろんだとも!」とね。その男は何者かと思うだろう?バークによるとそいつは悪徳弁護士ラッセルらしい。複数の服役中のギャングの親玉の顧問弁護士であり、かつ中央区東通りの南米系ストリートギャングどもとの繋がりが噂される。そいつがそう自身満々に言った翌日、俺らの精鋭が病院送りにされた。犯人は南米系のギャング共だ。俺はラッセルのことを探偵に調べさせた。するとな、奴はカフェでリムソンナイトの監督であるベニータから封筒を受け取っていたというじゃねえか。多分中身は金だ。さてと、これであんたも奴らの不正については理解しただろう。そう、これは不正だ。それも極めて悪質な。俺はどうしてもこれを証明したいんだ。メディアにも取り上げられて奴らのイメージを悪くしたい。


 「そこで君に頼みがある。ラッセルに接触して欲しいんだ。俺の精鋭たちを病院送りにした連中の仲間のふりをしてな。」


四日後 中央区 ラッセル事務所

 バディダは思い切り息を吸い込む。自分の心臓の鼓動を自分で聞くことが出来た。緊張を自覚していた。

 最初の難関は事務所前の二人のボディガードだ。軍隊のような防護服を着た彼らはライフル片手にバディダを鋭い目つきで見ていた。


 二人のロシア人が隣の廃屋の二階からその様子を眺めている。「あいつ・・・ラッセルの事務所にいるぞ。」「ああ。どうしたんだろうな。」「もしや・・あいつ、このあたりのギャング団に入ったのか?」「かもな・・・ガーノスがこの件を引き受けるとすれば、奴らとの戦争も覚悟しなければな。」「おいおい、冗談を言うなよ。戦争にはならないね。こっちが一方的に叩き潰すだけだ。」「ハハハ、それもそうだな。」二人は笑っている。「諸君、そこは立ち入り禁止だぜ。」という声が

暗闇から聞こえるまでは。「誰だ!」と叫んだロシア人二人への返事は弾丸だった。弾丸は正確に二人の頭蓋骨を射抜いた。


 「ああ、どうも・・・その・・・」「やあ、ラッセル先生に用かな?」とボディガードは無表情で言う。「そうです・・・その、兄貴たちが仕事をもらったと聞いたもので・・・」二人のボディガードは顔を見合わせる。バディダの額を汗が流れ落ちる。バレたかもしれない・・・

 「そういうことなら、上がってこい。」と言う声がした。見上げると、オールバックの太った男が見下ろしていた。


 「なるほどね。君は新人のようだね。最近ここにやって来ただろう。」「え?」「私は君に会ったことがないんだよ。誰の紹介だ?」「それは・・・」バディダは答えに詰まって慌てる。苦し紛れに出した名前は・・・・「ベニータさんです。僕を使ってくれるだろうと・・・」「なるほどな。」ラッセルは考える。「奴には二度と関わらないで欲しいと言ったんだが・・・まあいい、君は奴の仲介で来ただけだからな。仕事をやろう、ある人物に頼まれた仕事だ。とあるものを盗んで欲しいんだ。」そう言ってラッセルは説明をはじめた。

 

ベニータに聞いただろうが、私のクライアントの中にはなかなかの大物もいてね。その中の一人から持ち込まれた依頼だ。私はそのクライアントの顧問弁護士をしているんだがね、弁護の依頼でもなければ法律関係の問題解決の依頼でもない。クライアントは私のコネクションを知った上で・・・盗みの依頼をしてきた。盗むものはとある文書だ。どこにあるかと言う話だが、とある記者の家にある。美人だが、少々頭が悪い女記者なんだよ。忖度と言う言葉を知らない。つまり、喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ったんだよ。それが私のクライアントなんだけどな。地図を見てくれ。私たちがいるところがこの中央区だ。あんたに言ってほしい場所はここ、南聖堂通りにある。中央区と行政特別区の間だな。青い屋根、赤い外壁の家だ。ここに忍び込んで欲しい。文書の場所だが、正確には分からない。だがね、分厚い書類だというよ。彼女のデスクの上にあるんじゃないかな。「愛人」とか「収賄」とか「マフィア」とかいう単語が書いてあるはずだ。


 バディダは唾を飲み込んで答える。「はい。分かりました。」「うん。助かるよ。報酬は成功したら渡す。現物と引き換えに手渡しだ。」「ありがとうございます。」バディダはほっとしながら事務所を出る。


30分後 リムソンシティ ジョイキッチン

 「あんたが持ってきた録音テープだがね、その女記者に渡してくれねえか。」とタイソンが言う。「そうしたら俺から報酬を渡すこともできるし、ラッセルから報酬をぶん取ることもできるぜ。」というタイソンの言葉にバディダは戸惑っていた。「なるほどな。認めるのは癪だがこいつは賢い。バディダ、こいつの言いたいことはこうだよ。つまりだね、盗まれるように頼まれた記事とこのテープを交換してもらうんだ。」


二日後 リムソンシティ 南聖堂通り ファートン住宅街

「おいあんた、イザベラ記者に危害を加えるつもりで来たなら残念だったな。パトカーを用意してるぞ。」という保安官助手の声でバディダは硬直する。「彼女は南米人のギャング達に襲撃される恐れがある。悪徳弁護士ラッセルと対決してるからな。」大柄な白人保安官助手が警棒を持って歩いてきた。「俺に尋問されたくなけりゃ、失せろ。」バディダは躊躇した。ここで逃げ出せばタイソンからの報酬もラッセルからの報酬も失ってしまう。ただし、逃げ出さなければ保安官事務所での尋問が待っているだろう。保安官助手たちの捜査によってバディダが不法難民であることが露見してしまう。

 「ねえリックさん、南米系だからって奴らだと決めつけるのはよくないわよ。」という澄んだ声がして目的の家から若い女性が出てきた。細身の体を黒いコートが覆っている。髪の毛は金髪のポニーテールだ。鼻が細長い端麗な顔立ちをしている。

 「しかしなあ、十中八九ラッセルの刺客だぞ。」と不満そうな保安官助手。「ふう・・・・」呆れたような溜息をついて女性は言う。「あなた方の差別的な言動を記事にしたかったけどあなたの正義感に感銘を受けたって前にも・・・」「チッ!」突然保安官助手は大きな舌打ちをした。「分かったよ、イザベラさん。勝手にしてくれ。だけど奴があんたに襲い掛かったら俺はあんたを止めなければならない。家の前にいる。」「ええ、お願いするわ。あなた、入って。用事があるようね。」


 「これはこれは・・・・」イザベラ記者は録音を聞いて呆れたように首を振る。「ラッセルはベニータと繋がっていたのね。おまけに私の家にあなたを忍び込ませようとしていたらしいわね。」「そうです。ラッセルはあなたが記事にしようとしているとある人物から記事の回収を依頼されたと言っていました。この録音でその人物も追い詰めることができます。」「ええ、助かるわ。だけどあなたはなぜ依頼された通りに記事を盗まなかったのかしら。」「それは・・・」バディダは答えに詰まってしまった。彼女は記者だ。バディダの素性が分かるまで質問を重ねる筈だ。場合によると、先ほどの保安官助手より手ごわいかもしれない。だが意外にも彼女は優しい口調で話を進める。「あなたは本当はギャングにはなりたくなかったのでしょう。」「え?」「ギャングは狂暴な連中だけど、彼らの大半はギャングにならざるを得なかったという事情があるのよ。あなたもそうでしょう。ギャングのコミュニティに守ってもらわなければいけないのでしょう?分かるわよ。とにかくラッセルから金を貰いなさい。あなたの生活費を少しでも増やすためにね。記事を今持ってくるわ。その代わり、この録音テープはいただくわ。気に入りそうな局がある。そこに持ち込ませてもらうわ。記事を奴に渡しても奴は録音テープで身を亡ぼすはずよ。」バディダはほっとするとともに驚きに包まれていた。この汚れた街に彼女のような聖女がいるとは思わなかった。


二十分後 リムソンシティ ジョイキッチン

 「ああ、これが君の報酬だ。」タイソンは大喜びで封筒を突き出した。「おかげでリムソンナイトの奴らはスキャンダルで再起不能になるだろう。報道を受けた警察が動けば奴らが過去に買収した興行委員会の審判どもも身を亡ぼすかもな。ラッセルとかいうゴミ野郎も身を亡ぼす。」「そして俺は大儲けする。」とバーク。「ふん、お前はセコイな。こいつはラッセルの誘いにのらずに俺たちのチームに賭けたんだ。大儲けするにきまってる。」「セコイだと?これが俺のやり方だ。俺だけ儲けるのさバーの胴元がラッセルと組もうとした奴らから巻き上げた金が俺の懐に入る。」


 ドアの外で聞いていたメドゥスは「あんた、もう遅いぜ。」とつぶやいて立ち去った。

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