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リムソンライフ  作者: エッグ・ティーマン
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コックス

 2016年 リムソンシティ ファストフード店「ジョイキッチン」

 バディダは屋外トイレの掃除を終え、裏口に向かう。

 そんなバディダを呼ぼ止める声。「ああ・・ちょっといいかな?」バディダは何事かと思って振り向く。そこにはきっちりと着こなした灰色のスーツを着た男がいた。髪の毛も灰色で、オールバックにしている。小さなサングラスもかけている。「店長さんと話がしたい。」と謎の男は言う。


 数時間後

 「店長が呼んでたぜ。」とシェフに教えられ、バディダは事務室に向かった。事務室の前で、そわそわした様子のバークが待っていた。「おお・・入れ入れ。」店長はかなり慌てた様子でバディダを事務室の中に入れる。

 「冷凍車は運転できるか。ピックアップトラックサイズだが?」「ええ・・ピックアップトラックなら運転できますが・・・」「ああ、じゃあ大丈夫だ。清掃だけじゃ退屈だろう?新しい仕事を与えよう。」「はい。」バディダは少し緊張する。

 「お前が取り次いでくれた紳士がビジネス面での援助をしてくれることになった。」「と言いますと?」「ああ、新商品をわが店に提供してくれることになった。彼はサン・ワシントンにあるとあるレストランの経営者の弁護士だった。そのレストランの目玉商品を、うちでも出せるようにしてくれるらしい。」「目玉商品?」バークはにやり、と笑うと「ステーキさ。とても旨いらしいぞ。」と言った。

 バークはどうやら黒い繋がりがあるらしく、偽造された免許証を渡してきた。冷凍車でサン・ワシントンまで特注のステーキ用肉と、特製ソースを取りに行くのがバディダの新しい仕事だ。


 二日後 サン・ワシントン

 バディダが冷凍車からおりると、従業員が駆け寄ってくる。「こんにちわ!ジョイキッチンからですね?」物腰の柔らかい青年だった。「ステーキ肉と特性ソースのご注文でしたね?」「ええ。」「少々お待ちを・・・」

 数分後に、裏手の倉庫のような場所から大男数人がかりで大きな箱を四箱運んでくる。それを見ながら青年は説明する。「三箱は全てうちが独占的に仕入れている特殊な肉です。あとの一箱は特性ソースです。ソースの作り方は企業秘密ですが、半永久的に貴店にご提供させていただきます。」バディダは礼を述べて、冷凍車に乗り込む。


 レストランの向かい側のゲームセンターの駐車場に一台の軽自動車が停まっていた。中には人相の悪い細身のラキア人男二人。「奴・・・」と運転席の男が唖然として顔でつぶやく。「なんとまあ・・・」もう一人の男は引きつった笑いを浮かべると煙草の煙を吐き出した。「奴の雇い主はコックスと関わりがあるんか?」「らしいな。」「本当に依頼を受けて大丈夫だよな?」「分からん。だが、カーナックは依頼人は大物を後ろ盾に持つと言ってたぜ。コックスに睨まれても、依頼人がうまく話をつけてくれるさ。」

 彼らは裏社会の人材の仕事を斡旋する業者カーナックから殺しの依頼を受けたラキア人ギャングだ。ターゲットはバディダだった。冷凍車を尾行してバディダを殺せるタイミングを伺っているのだ。


三日後

 ジョイキッチンは大繁盛していた。新商品の噂は街中に広まった。普段怠け気味だった店員たちは大慌てで肉を焼き、ソースを解凍する。肉を焼く臭いがキッチンに立ち込める。かいだことのない独特なにおいだ。人気商品であるため賄いでは食べたことがないが、ソースのおかげもあって旨いらしい。

 「在庫終了だ。先方には連絡しておいたから明日、肉とソースを受け取りに行ってくれ。」との指示をバディダに出すバーク。

 廃棄だらけのジョイキッチンであったが、謎の旨いステーキ用肉だけはすぐになくなってしまう。


翌日

 バディダは再びレストラン裏手を訪れる。前回と同じ社員が待っていた。「ご注文ありがとうございます。」社員は一礼して、再び肉と特性ソースが冷凍車に積み込まれる。

 しかし帰り際に社員は「申し訳ないのですが・・・」といって封筒を渡してきた。「わが店のシェフからです。ドライバーさん、あなた向けですよ。」と言う。なぜ自分に用事があるのか・・・バディダは不審に思いながらも手紙をしまう。


その日の夜

 賄いを食べながら、バディダは手紙を見てみた。手紙は形式的なものではなく、くだけた口調でメッセージのようなことが書いてあった。


 ジョイキッチンのドライバーの君へ

 いつも顔を見せられなくて申し訳ない。レストラン「ワシントン・イートランド」シェフ兼店長のベックだ。

 いきなりだが、あんたは冷凍車のようなトラックの運転免許は持っていないだろう?だけど偽造した免許証は持っているみたいだな。恐らくあんたの意思じゃないだろう。お宅の店長があんたに偽造免許証を渡したな。俺がもしこの情報を警察に漏らしたら、あんたとあんたに居場所を提供しているレストランは終わりだ。

 だけど俺はお宅を支援してやることにした。そしてこれからも支援を続けるよ。そう、俺にはあんたらの違法行為を通報するつもりは全くない。

 その代わりといってはなんだが、少し頼まれて欲しいことがある。

 毎朝お宅のサラダ付きモーニングセットを食べている客を冷凍車の冷凍庫部分に入れて連れてきて欲しい。


 バディダはの顔は蒼白だ。なにやら不気味な文面だった。怖くなったバディダは用心棒のメドゥスに見せた、メドゥスは手紙を読むと無表情で言う。「支援者の正体はコックスだ。」「コックス?」「ああ。」そう言ってメドゥスは説明を始める。


 サン・ワシントンでレストラン「ワシントン・イートランド」を経営する料理好きギャング共がコックスだ。組織を率いるのは四人の兄弟。役割分担が決まっている。長男のベックはレストランのシェフ兼店長。普段は手下に客の応対をさせてキッチンに籠っている。次男のオットーは食材調達係だ。奴はサン・ワシントンの裏社会に根を張る死体処理業者でもある。三男のバーナードは会計係だ。奴らのレストランの売上、そして副業で行っている強盗で得た金はいったん奴が預かる。四男のドレッドは用心棒だ。間抜けだが、力はハルク並みだぞ。

 そして奴らがギャングたる所以だ。副業として強盗や死体処理を行っているというのもあるが、奴らはなんと人肉料理を作るんだ。おいおい・・・吐きそうな顔をしているな。だが、事実だぞ。もうわかると思うが、あのステーキ肉は人肉だったんだな。俺もまさか店長がコックスと業務提携したとは思わなかったぜ・・・


 バディダはトイレに駆け込んで吐いた。気持ちの悪い話だった。特製ソースの材料は聞きたくもなかった。恐らくは中毒性のある違法薬物などが使われているのだろう。


 翌日 夜

 「罪のない一般客をギャングレストランに材料として提供するのは俺も反対だ。だけど先方が指定してきた条件に合う客の中でクズ野郎を何人か知ってる。」そう言ってメドゥスは数名挙げた。


 一人はメドゥスをジョイキッチンに紹介した「投資家」に彼が拾われる前に働いていた建設会社の社長。彼はとても横暴だという。下請けとして、ラキア人移民を使っているという。そのため、ラキア人ギャングとは深い関係だ。

 それから本業殺し屋の保安官助手だ。彼は複数の未解決殺人事件に関与している疑いがある。

 ストリートダンサーの女。裏では男から金品をだまし取る詐欺師だという。

 

二日後

 「また無能野郎が返って来たぜ!」建設会社の社長は挨拶に来た昔の部下メドゥスを罵った。「ビジネスの用事だ!?チカーノ野郎と組む気はねえが、聞いてやろう。」「すみませんがお外で・・・」「はあ・・分かったよ。ゲス野郎。」社長は渋々立ち上がった。


 建設会社の社長が裏口から出てくるのを待ち、バディダはスタンガンを押し付けた。


 「やあ、いつも通りだな。」裏路地で、メドゥスから封筒を受け取った保安官助手は満足気に頷く。チカーノギャングはいい金ずるだ。彼は行儀悪くメドゥスの前で封筒を開け・・・失神した。睡眠ガスが入っていたのだ。

 バディダはメドゥスと協力して保安官助手を抱え上げ、路地裏にコンテナを向けて停めた冷凍車に放り込んだ。


 バディダは冷凍車をバーの隅の街灯が届かない場所に停めて数分待つ。

 バーからメドゥスが酔っ払ったストリートダンサーの女を連れて出てきた。

 「俺の執事が迎えに来てくれたのさ。帰りはタクシーじゃなく、俺の車だ。」と言いながら、メドゥスははしゃぐ女を冷凍室に押し込めた。


三時間後

 凍死した三人の遺体は、人相の悪い大男たちによって店の裏手の倉庫のような場所に運ばれた。

 あの倉庫の中に人間の遺体が沢山保管されていることを想像したバディダは、ぶるりと身を震わせる。

 

 倉庫とキッチンをつなぐ解体場で二人の裸のラキア人が震えていた。二人とも鉄製のテーブルに鎖で縛りつけられていた。テーブルを目をギラギラさせた大男が見下ろす。「違うんだ・・・俺らはあのキューバ人の・・・」「下手な嘘はやめろ。貴様らが誰に雇われたか知らんが、よりによって俺様が監視対象だったのは運が悪かったな。」大男はギラギラしたのこぎりを振りかざした。

 二人のラキア人の殺し屋の悲鳴が響き渡る。

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