表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リムソンライフ  作者: エッグ・ティーマン
38/39

悲劇の事故

※1話前の「悪魔の秘密」の続きとなります。


2017年 ハワイアン・ジェファソンシティ

 真夜中の公道を、数台のスポーツカーが猛烈な排気音を響かせて爆走している。街の暗部で行われている違法公道レースだ。

 そのレース車両を警護するように、キューバ系ギャング「ハバナ・ボーイズ」のメンバーを乗せたバンが並走していた。


「おい! 遂に来やがったぞ!」

 運転席のバディダが鋭く叫んだ。サイドミラー越しに、スポーツカーの列に急接近するバイクの集団が見える。全員が片手にピストルを握り、殺気を放っていた。

「ホートマンから聞いてた通りのジャケットだ。間違いねえ!」

 助手席のバラドがライフルを引き寄せながら応じる。

 このレースの主催者である「サンズ・ユピテル」と敵対する、ボナード系バイカーギャング「タレオール隊」の連中だ。奴らはレースをぶち壊しに現れたのだ。


「開けるぞ!」

 バディダの合図とともに、バンのバックドアが跳ね上がった。最後部に陣取っていたメンバーたちが、容赦なくライフルの火を噴く。先頭を走っていたタレオール隊のバイクが火花を散らして転倒し、後続が次々と巻き込まれていった。


「くそっ、寄るんじゃねえ!」

 バラドが窓から身を乗り出し、右側に並んだバイク乗りの頭をライフルの銃床で叩き伏せた。乗り手を失った鉄塊はガードレールに激突し、激しい火柱を上げる。

「後ろは片付いたぜ!」

 後部座席のガルドが吠えた。

「了解だ。一旦閉めるぞ」

 バラドはバックドアを引き込み、固くロックした。


 だが、死角からさらなる影が迫っていた。

 新たに現れた集団は、先程のギャングとは明らかに異質だった。軍の特殊部隊を思わせる重装備に身を包み、頭部全体を鋼鉄のフルフェイスヘルメットで保護している。

 何より、彼らが狙っているのはレース中のスポーツカーではなく、このバンそのものだった。


 その異変にバディダがいち早く気づく。

「まずい、別の組織か!?」「何だと?」

 バラドが再び銃を構えるが、時すでに遅かった。謎のバイク集団は、訓練された動きで瞬時にバンを包囲したのだ。

「振り切るぞ!」

 バディダはハンドルを激しく切り、バンを左右に蛇行させた。弾き飛ばされたバイク二台がコース中央へ転がっていく。それを避けようとしたスポーツカーが隣の車両と激突し、公道は一瞬にして鉄の地獄と化した。


 このカオスを、至近のビルの一室から冷徹に見つめる男がいた。

 警備会社「ハワイアン・ジャガー・コーポレーション」の社長、バーンズだ。彼は窓越しににやりと口角を上げた。

「……中々やるじゃないか」


 路上では、黒ずくめのバイカーたちがバンに密着し、体当たりを繰り返していた。窓ガラスに銃口が押し付けられる。

 背後に回った一台が、バンの後輪へ正確に弾丸を撃ち込んだ。

「おっと……こりゃマズいぜ!」

 バディダが悲鳴を上げる。バーストしたタイヤが悲鳴を上げ、巨体が制御を失う。追い打ちをかけるように、後続のバイク数台がバンの背面にフロントを押し当て、力任せに突き飛ばした。


「させねえよ!」

 バラドがドアを開け、捨て身の射撃で数名を叩き落とす。だが、慣性は止まらない。

「ダメだ、耐えきれねえ!」

 バディダの絶叫と同時に、バイカーたちが一斉に離れた。

 直後、バランスを崩したバンがアスファルトの上を滑り、横転。凄まじい火花と金属音を残し、コース中央で横たわった。


 静寂。煙の上がる車体を、再びバイク集団が取り囲む。

 リーダー格の男がヘルメット越しに、くぐもった声で無線に囁いた。

『ボス。……皆殺しでよろしいですか?』

「よくやった。一人残らず始末しろ」

 バーンズの冷酷な指令が下る。


「よし、全員殺せ!」

 男の命令で、全員が迷いなくピストルを抜いた。

 ひっくり返った車内で、バディダはどうにか意識を取り戻した。

「皆、大丈夫か……?」

「あ、ああ……生きてる」

 仲間たちの苦悶の声が響く。だが、状況は絶望的だった。

「クソッ、囲まれてる……!」

 バディダは腰の銃に手を伸ばした。その瞬間、鼓膜を震わせる轟音が至近距離で炸裂した。

 温かい液体がバディダの顔に飛散する。目を見開いて隣を見た彼は、言葉を失った。

 胸を撃ち抜かれたバラドが、力なく崩れ落ちていた。


「おいおい、邪魔すんじゃねえよ……」

 ビルの屋上からその光景をスコープ越しに覗く男がいた。殺し屋「片目のボブ」だ。彼はバディダに家族を奪われた女性から依頼を受け、今日この場所で彼を仕留めるつもりだった。

「バディダの命を獲るのは俺だ。余計な掃除屋はいらねえ」

 ボブは標的をバイカーたちに切り替え、アサルトライフルの引き金を引いた。精密な射撃が次々と重武装の男たちを排除していく。


 周囲で予期せぬ銃声が響き、自分たちを追い詰めていたバイカーたちが次々と倒れていく。

 その混乱の中、バディダは必死の思いで車外へ這い出し、バラドの体を抱き寄せた。

「おい、バラド! しっかりしろ!」

 激しく揺さぶると、バラドは短く喘いだ。

「バディダ……」

「今救急車を呼ぶ、死ぬんじゃねえぞ!」

 震える手で携帯を取り出そうとしたバディダの腕を、バラドの血まみれの手が掴んだ。その感触は、恐ろしいほどに冷たかった。

「よせ……もう、無理だ。……お前と再会できて、嬉しかったぜ、バディダ……」

「何言ってやがる! リムソンシティで最強のギャングを作るって約束しただろ!」

「悪いな……だが、こんなクソッタレなバンの下敷きになって死ぬなんてよ……ハハ……」

 その乾いた笑い声に、バディダはパニックに陥った。

「喋るな! 今止血してやるから!」

 自分の服を引き千切り、溢れ出す鮮血を必死に押さえる。だが、バラドの瞳から光が失われていくのを止めることはできなかった。


「よし、今度こそ終わりだ」

 屋上のボブが、再びバディダの眉間にレティクルを合わせた。

 だがその時、「おい、そこをどけ!」という怒声が背後から響いた。

 運悪く、ボブが陣取っていたのはバーンズの警備会社が入るビルだったのだ。

「チッ、邪魔が入ったか」

 ボブは暗殺を断念し、背後の追っ手に向けて銃身を翻した。


「……皆……お前らと、過ごせて……楽しかった……」

 それがバラドの最期の言葉だった。

 脇を通り過ぎていくスポーツカーの、どこか他人事のようなエンジン音に混じり、夜の道路にバディダの慟哭が虚しく響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ