ハバナ・ボーイズ
2016年 リムソンシティ 中央東区
「公安軍警察のバテーレン大佐と話した。奴は何も知らないが、調査したら武器倉庫の警備員が行方不明らしい。」と元公安軍警察軍人のバイカーギャングホートマンは知らせる。「なるほどな・・・そいつらはコロンビア人と仲がいいか?」と険しい顔で聞き出しているのはチカーノギャングの幹部の一人であるドランダだ。彼は先日ライバルのコロンビア人ギャングによりチカーノのシマ内の銀行が襲われた件で怒っていた。彼らは何故か以前の献金先で今は繋がりが切れたはずの公安軍警察の武器を持っていたのだ。
公安軍警察は武装組織「レッドアフリカ―ノス」を叩き潰すためにチカーノギャングの力を借りた。また公安軍警察出身者が多いホートマンのバイカー組織「ソルジャーオブゼウス」は見返りとしてチカーノとラキア人系バイカーギャング「チョロモ・モーターズ」に協力してネオナチを追い出した。つまり公安軍警察とチカーノは実質的な同盟関係にあった。だがコロンビア人の襲撃により今両者の関係は緊張状態に達していた。さらに州の道路警察という新たな邪魔者も現れたのだ。道路警察の汚職警官タイラー警部は賄賂で繋がっていたレッドアフリカ―ノスを公安軍警察に引き渡したが、その過程で茶番として捕まえたチカーノ系バイカーギャング「ブルークロウ」の身代金として何と800万ドル請求してきたのだ。銀行が襲われたせいでその金が工面できない現状だ。
「くそ・・・キューバ人どもに強盗を頼むしかねえ。」と提案したのはドランダの懐刀であるメドゥスだ。
二日後
「強盗だって!?」とキューバ移民でチカーノの下っ端であるバディダは相棒のキューバ系黒人バラドの話に驚く。「安心しろよ兄弟、お前はホランドとかいう殺し屋警官のおかげで殺しが出来る優秀なヒットマンだ。殺しにくらべちゃ強盗なんて楽な仕事だろう?それに今回は強盗のプロが計画を立ててる。ソルジャーオブゼウスの中で元強盗の野郎がいる。そいつが計画を立てる。」「なるほどな・・・チカーノの仕事だよな?」「ああ。だけどどうやらコロンビア人に公安軍警察かソルジャーオブゼウス内部の誰かが武器を横流しした件でソルジャーオブゼウスの奴らは埋め合わせがしたいと言ってきたらしい。今回そのプロの爺さんは分け前を一切もらわない。」「全く・・・高潔だか馬鹿だかわからねえ連中だな。」「ハハハ・・・そうだな。」「強盗は三人だけか?」「それが何とだよ!」といきなり目を輝かせ始めるバラド。「もう三人キューバ人が加わるのさ。」「ほう!そりゃ驚いた!お前、仲間いたのか?」「いや違うさ・・・二人はモトリオールファミリーとキューバにいる奴らの仲間の仲介役をしてる男の元で働いてる。いわゆるマフィアの下っ端さ。」「どうしてマフィアが強盗に?」「実はな・・・レッドアフリカ―ノスをつぶしたことで少々モトリオールファミリーがいら立ってる。奴らは武器取引を専門としないから武器取引はかなり珍しい収入源になる。その貴重な武器取引相手がレッドアフリカ―ノスだったからな。」「なるほどな・・・で、イタリア人どもの怒りを鎮めるためにマフィアの下っ端を通じて強盗に関与させるのか。」「ああ、そういうことだよ。お前もだんだん裏社会通になってきたじぇねえか。」「ふん!いつの間にかな・・・裏社会に入っちまってたのさ。ドランダに金を借りてるクソ飲食店経営者に雇われたときから俺の運命は決まってたのさ。俺は・・・ギャングとして生きるしかねえ。」「ああ・・・俺もだ。キューバでも悪さしてたからな。それに・・・これはお前にも言えることだが・・・不法移民だしな。移民局にバレたら国外追放だぜ。」「そうだな。表ではやっていけないな。ところでもう一人のキューバ人ってのは?」「ああ。強盗爺さんのムショ仲間だ。奴はキューバ生まれのアメリカ育ちだ。家庭ごとアメリカに越してきたからスペイン語をしゃべれる。」「なるほどな!じゃあ今回の強盗が終わったらキューバ人ギャング団結成に一歩近づけるかもな。」「そうだな。組織名はどうする?」「強盗のか?決める必要あるか?」「違うさ・・・俺らキューバ人ギャングの組織名だ。」「そうだな・・・ハバナ・ボーイズなんてどうだ?ほかの奴らからみたらキューバギャングだってすぐわかるだろ?」「最高だぜ兄弟!」
3時間後 貧民街廃倉庫
「よし!今から計画を説明するぞ。」ソルジャーオブゼウスのジャケットを着て白い無精ひげを生やした筋肉質で初老の男ダンテが強盗の計画者だ。
「俺らは狙うのは・・・エウトレンチ中央金融信用金庫だ。ボナードマフィアの奴らが金を貯めこんでる。」「そう、我々の敵のボナード人どもがな!エウトレンチの連中だ。ラッチの連中は友好的だが今奴らは休戦中だから協力できないらしいぜ。全く・・・」と愚痴をこぼすのは赤ら顔で太ったキューバ人ガッシオだ。「俺もそう思うぜ。」とそっくりな姿の男が言う。ガッシオの双子の弟であるアルバレスだ。二人はイタリア人の下っ端で、モトリオールファミリーから送り込まれた。
「そうだな・・・とにかくだ、俺らはボナードマフィアの銀行を襲うんだ。綿密な計画が必要だろう?私の方で役割を決めさせてもらったぞ。まずは、お前だ!」「何だいダンテ?」とわくわくした様子で聞く入れ墨だらけのやせこけた男はダンテが刑務所の中で知り合ったキューバ系アメリカ人のガルドだ。
「ガルド、お前は逃走車を頼んだぞ!」「おいおい・・・俺はできる男だぜ。強盗を実行する班に回してくれよ。」「馬鹿野郎!強盗が出来る男ってんなら逃走係も重要な役割だって分かる筈だろ?まあいい。それからバラド、あんたは陽動係だ。」「陽動係?」「ああ、そうだ。あんたは銀行に入って何か騒ぎを起こすんだ。逮捕されねえように軽い職質程度で済む騒ぎを起こしてくれよ。」「ああ、分かった。一つ案があるが・・・クレイジーだぜ。」「いいぜ。ただ・・・あんたが捕まったり撃たれてりしちゃ困る。」「あんたって優しいんだな?」「馬鹿かお前は!あんたが逮捕されれば俺らも捕まる。あんたが死ねば捜査が行われ、チカーノの関与がいずれバレて俺らも捕まる。」「ふん、そういうことかよ?で、俺の相棒は何をする?」「俺とマフィア兄弟が金をかっさらっている間に俺らを守れ。あんたの確かな銃の腕前でな。」「結局殺しかよ・・・」とバディダはぼやいた。「殺しは状況によってはあるが、抵抗する奴がいなきゃ殺しはしなくて済むぜ。」「はいはい・・・じゃあ決行はいつだ?」「今夜だ。よく寝とけよ。」
8時間後 サウスリムソン
「今から騒ぎを起こすぞ。」バラドはダンテから支給された無線機にそうつぶやくと運転していた中古車を降り、助手席の目が座っている男を見た。「あんたが運転しろよ。あの銀行に突っ込んで・・・後は好きにしろ。」「好きにしていいかい?」とその男は呂律の回らない舌で言う。「ああ。銀行に突っ込んでくれればな。」そう言ってバラドは車から距離を取る。運転席に移った男は「ヒャッハー!」と奇声を上げ、思いっきりアクセルを踏んで道路の反対側にある銀行の正面玄関に突っ込んだ。
玄関にいた警備員は「おい!待てよ!」と怒鳴るが転んでしまう。
「よし、行くぞ!」無線で連絡を受けたダンテが言い、車を裏口に停める。「トラックの用意は出来てるぜ!」ガルドの声が無線から聞こえる。「よし、行こう!」とのダンテの合図でダンテ、バディダ、ガッシオ、アルバレスの四人は黒い覆面を付けて車から降りる。そのまま戸口に近づいた四人は裏口の扉をピストルで撃って開ける。
「ヒャッハー!」狂った男がフロントで車を走らせながら暴れる。警備員が五名出てきて銃を撃つが男は完全に理性を失っているとみられ、弾を受けて血だらけになってもひるむことなくカウンターに突っ込む。そしてさらに戸口から古ぼけたピックアップトラックが突っ込んで来た。トラックの運転席からよろよろとぼさぼさ髪の女が降り立ち、ナイフを持ってカウンターに向かう。ピックアップトラックの荷台からは三人のホームレスのような身なりの男が下りてきて大声で奇声を上げる。彼らはバッグを開けて手に持った物を放り投げる。それは筒形花火だ。花火はパンパン、と激しい音を立てて爆発する。男達は笑い、背負っていたバッグの中からさらに円筒形花火を取り出し、放り投げた。
「正面玄関、何事だよ?」とアルバレス。「ああ・・・バラドのクレイジーな計画のせいだろうな。」と言いながらダンテは手元に持った図面を見て廊下を左に曲がる。「ここだ!」目の前にオートロックの扉がある。「ふん!」ガッシオが扉に蹴りを入れ、破壊する。「バディダ、見張りを頼むぞ。」と言うとダンテは兄弟と共に中に入っていった。
警報が鳴り始める。バディダは警報機を撃って止めた。だが警備員たちがやってくるのは時間の問題だ。バディダは特注のライフルをぐっと握りしめた。
「くそ!やられた!」目の前の男女たちの死体を眺めていた警備員の一人が叫び、カウンターの奥にある扉を開けて駆け出した。慌てて二名の警備員も続く。
「よし、バッグがいっぱいだ。ずらかるぞ!」とダンテが言ったとき、「貴様ら!何をしてる!」と大声でピストルを構えた警備員三名が部屋の中に入って来た。「くそ!金庫をほとんどやぶりやがっ・・・」と言った時警備員の頭が吹き飛ぶ。他二名が唖然としている間に彼らの頭も吹き飛んだ。「くそ・・・殺しはしたくなかったんだがな・・・」向かいの部屋からバディダが出てきた。
50分後 貧民街廃倉庫
「よお!待ってたぜ!」バラドはガルドが運転したコンテナトラックが倉庫に入ってくると歓声を上げる。ガルドはトラックの扉を開けた。「着いたぞ!」「よくやったぜ相棒!」上機嫌のダンテがバンを運転して下りてくる。
「戦利品だぜ!」バンから下りるなりガッシオとアルバレスがバッグを地面の投げ落とす。近寄って開けたバラドは目を丸くした。「こりゃすげえ!札だらけだ!」「よし、成功だ。俺は久しぶりに強盗が出来て楽しかったぜ!金は仲良く分けろよ。」そう言うとダンテはバイクに乗って去っていった。
「さてと・・・とりあえず俺らは武器取引の損失を埋めるために200万ドルいただくぜ。」とアルバレスが言い、札束を数えながらつかみ、ガッシオが持つ袋に入れた。「俺は40万ドルいただこう。」と言い、ガルドも分け前を取る。「これでタイラーじじいに渡す800万ドルは払えそうだな?」と大量の札束を眺めてつぶやくバラド。
「ところで帰る前に話がある。」とバディダは口を開く。「おお、どした?」とガルド。「今俺とバラドはチカーノの世話になっているが、いつかキューバ人グループを作って独立したいと考えている。」「なるほどな。どんなグループだ?」「・・・ギャングさ。だけど俺は麻薬取引から足を洗いたい。そこでしつこい顧客を・・・強盗に使用させてもらったんだがな。」とにやにやしてバラド。「恐ろしい奴だな。まあいい。つまりキューバ人の自警団を作りたいってことだな?」とガッシオ。「まあそういうことだ。ギャングだがヤクの取引やら他のギャングとの抗争やらは原則行わない。必要最低限の活動を行いながらキューバ人移民の地位を守りたいんだ。」とバディダ。「仲間を集めてる。よかったら『ハバナ・ボーイズ』に加入しないか?」すると「最高だな!俺は加入させてもらいてえ。」とガルド。「大歓迎だ!入団儀式はねえよ。あんたらはどうするよ?」とマフィア兄弟に聞くバラド。「ああ・・・魅力的だが俺らは現状マフィアの下で働いてるんでな。いくつか重要な仕事を終えたら独立を認めてくれるかもしれねえ。」「ああ、いつでも待ってるぜ。とりあえず拠点は・・・しょぼいが今はこの倉庫だ。来てくれりゃ歓迎するぜ。」と喜びに満ちた声でバディダは答えた。




