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リムソンライフ  作者: エッグ・ティーマン
13/40

人種問題

2016年 リムソンシティ ロッコ商業地区

 前を走るバラドの車に従い、バディダは「レイモンド・カーズ」の敷地内に車を乗り入れた。それを見たのか太った男が表れて車を一つの倉庫に誘導した。


 「あんたがたの依頼番号は023だね?」と店主レイモンドは言う。「ええ。そうです。」「ほお・・・では内容は車の売却ですな。」「ええ。よろしくお願いします。」

 四つの作業場に区切られた倉庫に四台の車と二台のバイクが並べられたガラス張りの建物。裏側の駐車場に停まる二台のレッカー車。これらの光景から、ここは車の修理工場兼中古車販売店であると推測できる。

 店主は続けて確認を続ける。「こいつを引き取りに来るのはこの中国人だな?」バラドが店主の指し示した写真とドランダから渡された写真を見比べて頷く。「ああ、その通りだ。こいつに渡してくれ。」

 彼らは中国人に依頼して用意させた誘拐に使った車の色とナンバープレートを変える依頼をしていた。レイモンドは盗難車や今回持ち込んだような訳ありの車も改造した上で修理・販売の対象としていた。また場合によっては車を分解して廃品回収業者に部品を売っていた。彼は裏社会の車屋であった。

 そんなわけで、レイモンドは部下の作業員二名を呼び出してナンバープレートを外してペンキを塗るように命じた。

 「金は中国人ではなく俺ら持ちです。」と言ってバディダは金の入った封筒をレイモンドに渡し、バラドと共にチカーノの所有する車に乗ろうとした。その時レイモンドが呼び止める。「俺はこの中国人と知り合いなんだがなあ、君ら堅気じゃないだろう?」この言葉を聞いてバラドとバディダは顔を見合わせる。「この中国人は犯罪行為・・・例えば強盗の逃走用とか麻薬運搬用、そして誘拐用・・・の車を用意する野郎だ。金を積めばどのような車でも用意してくれるのさ。仕事の関係上俺らはパートナー同士でね。」バラドがそれを聞いて少し警戒しながら問う。「何が言いたいんです?」「なあに・・・君らのような者にしてもらいたい仕事があるんだよ。まあ入ってくれ。」


 展示場の裏側にある事務室に二人はいた。「で、依頼とはなんでしょう?」とバディダ。「ああ。報酬はたっぷり渡すからさ・・・」と言ってレイモンドは話し始めた。


 実は今俺の店は資金難でな。なぜかって?ギャンブル中毒のクソ女とそいつのほれたクズ男のせいさ。俺の愛人が店の会計係と組んで金を横領しやがったのさ。女は金をギャンブルにつぎ込み、男は女からもらった草をやって一人でハイになってやがる。今は二人ともジャカあたりにいるだろう。

 俺は仕方なくライバルの故買屋から盗難車を買ったんだ。だがな、奴は売れるわけねえパチモンに高額な値段をつけやがった。俺は車をぶっ壊してスクラップを売ってわずかな金に換えることが出来るだけだった。故買屋に払った金よりもスクラップで儲けた金のほうがはるかに少ないのさ。

 そこで俺は市の政治屋どもが考えた制度を利用することにしたよ。業者向けの行政保険だ。業者が業者自身が関与しない原因で商品の車に損害を受けた場合、市から保険が下りるのさ。俺は金の亡者の役人に金を握らせて展示場内の車は全て保険対象にしてある。あんたらの仕事が見えてきたろう?


 「そうさ。あんたらは夜中あたりに展示場の車を何台か壊してもらいたい。できるだけ強盗にみせかけてな。」とレイモンドは締めくくった。

 バディダはバラドに目配せして「どうする」と問いかけた。バラドが少し考えてから「やろう」と言う。


四日後 真夜中

 「用意はいいか?」とのバラドの問いかけにバディダは「ああ。」と答えて覆面を付けた。

 「よし。」と言ってバラドも覆面を付け、路地から塀を乗り越えて店の敷地に入る。


 レイモンドはあらかじめ合鍵をバディダに渡していた。バディダはそれを取り出すと展示場の鍵を開け、二人は中に入った。

 ハンマーを取り出す二人。壊す車を吟味する。バラドが「あれにしよう」と言って一つの軽自動車を指さす。バディダが頷き、二人はハンマーを持って車に向かい・・・ボンネットを叩いてへこませ、窓ガラスを割った。

 「このバイクも少し壊しておくぜ。」と言うとバディダはバイクのミラーを叩き割った。


 「こんだけ壊せばいいんじゃねえか?」とバラドが言い、ぼこぼこの車とがれきと化したバイクを見やる。「ああ。」と言ってバディダも立ち上がる。

 その時、サイレンを鳴らしたパトカー二台が敷地内に入って来た。「クソ!裏からずらかるぞ。」と言ってバラドが走り始める。慌てて後を追うバディダ。

 「何故気づかれた?」「俺にも分からん。とにかくずらからねえと!」二人は必死で車を目指す。だが何とその直前に間にパトカーが滑り込んで来た。「まじかよ!」と叫んで慌てて止まる二人。警官が二名下りてくる。銃をこちらに向けている。「止まって武器を捨てなさい!」と後ろから追ってきた警官が叫ぶ。

 絶望しながらバディダはハンマーと護身用に渡されたピストルを捨てる。隣のバラドもハンマーを地面に落とし・・・ピストルで空を撃つと逃げ出す。「ついて来い、バディダ。移民局に引き渡され・・・うっ!」クソ、何しやがる!」バラドは足に弾を食らったようだ。撃ったのは後ろに立っていた警官。彼は仲間二人を呼ぶ。「こいつ、やりやがったぞ!」すると後ろから来た二人の警官が警棒で倒れ込んだバラドの腕を殴打し、ピストルを奪った。「こいつ・・・銃身を切り詰めたショットガンを持ってやがるぜ!」と一人の警官が言い、何とそのピストルでバラドのもう一つの足を撃ち抜いた。「ざまあみやがれ!」と叫んで三人の警官は地面に横たわるバラドを警棒で殴り続ける。それを見たバディダは「クソ・・・」と言ってバラドに駆け寄ろうとするが前の二人の警官が即座に襲ってきて、バディダは地面に押さえつけられた。前のパトカーから下りてきた年配の警官が指示を飛ばす。「ヒスパニックの男はとりあえず本部の強盗課の連中に引き渡せ。今から来るはずだ。黒人は・・・懲罰を続けろ。」バディダは手錠を付けられ、地面に臥せるように押し付けられていたが、その視界に端にバラドが映った。彼は血まみれの状態であったが、三人の警官が彼を蹴り飛ばしている様子が見えた。だがバディダを拘束した警官達はその様子を見て笑っている。「豚みてえなうめき声あげやがってよお!情けねえ。さすが黒人だな!」「ハハハハハ、言えてるぜ。」


20分後

 「よし、乗れ。」市警本部のパトカーが到着し、バディダはパトカーに乗せられた。バラドは警官二人に無理やり引きずられ、彼らが乗って来たパトカーに押し込まれた。


30分後 リムソンシティ リムソン市警

 取調室に強盗課の刑事が入って来た途端バディダは懇願した。「バラド・・・ああ、俺と一緒に捕まった黒人のことだ・・・あいつを治療してやってくれ。」だが刑事はその言葉を無視して言う。「君たちはあの店を強盗したな。前から狙ってたのか?」「おい、質問に答えてくれ!」だが強盗課の刑事は机を叩いて怒鳴り返してきた。「まず俺の質問に答えろ!立場を分かってんだろうなあ、若造。俺は警官でお前は犯罪者だ。さあ質問に答えろ。」バディダの中で何かが切れた。

 「ふん、黙秘してやるよクソ野郎!」と言って警官の顔に唾を浴びせる。警官は「くそ!」とつぶやいてパンチを繰り出す。拘束されているバディダにやりたい放題のパンチだ。何度も殴られて鼻血も出た。殴りすぎたせいで警官の手も痛くなっているようで、15回殴ってやめた。「どんな方法を使ってでも吐かせてやるよ!」と叫んだ警官に対して、血まみれの顔でもバディダは言う。「やってみろよ脳筋野郎!バラドが適切な扱いを受けるまで俺は黙秘してやるよ。」すると警官は少し落ち着いた声で言う。「ああ、なるほどな・・・分署の奴らがお前の相棒にしたことについてか?」「ああ。早く治療してやれ。」「済まねえがな若造、俺は何もしてやれんよ。」「何だと!あんたは警官だろ!犯罪を取り締まるお前らは仲間の犯罪は見て見ぬふりかよ!」「ああ。そうだ。」と開き直ったように言う警官。「クソ野郎め!」「何とでも言え。お前がどれだけ罵ろうが分署の奴らは役に立つんだ。それに本部内の大きな派閥に属してるエリートたちだ。分署の奴らは白人が多いがそれは偶然のことだ。たまたま黒人差別主義者の白人警官が黒人の強盗を捕まえた。お気の毒だよ。」バディダは完全に理解した。この警官は分署の差別主義者どもが所属する大きな派閥を恐れている。つまり弱虫だ。

 弱虫警官は言う。「留置場で明日までに態度を考えておけよ。」


 バディダは驚愕で目を見開いた。向かい側の留置場に半ば蹴られるようにして入れられたバラドの顔は蒼白で、体中からまだ血が出ていた。包帯も絆創膏も見当たらない。彼は何の治療もせずに放置されていた。

 「おい、バラド大丈夫か?」と聞いたバディダに対してバラドはか細い声で答える。「ああ。」「本当か?血まみれだぞ。」「それよりも・・・」「何だ?」「すまねえ・・・俺の軽率な行動で・・・ああ、明日には強制送還されちまう・・・」「何言ってんだよ。お前が警官の指示を無視しようとしまいと俺らは捕まってたさ。奴らは大勢で店を包囲しやがったからな。」「ああ、そうだな・・・うっ、クソ・・」痛みでうめくバラドをバディダは鉄格子越しに見ていることしかできない。


2時間後

 突然鍵を持った警官が入ってきて留置場の鍵を開ける。「立て。迎えが来ている。」バラドの独房も別の警官によって開けられる。「おい、寝てないで早く立て!全く・・・汚ねえ血で独房を汚しやがって・・・」


 警察署のエントランスで待っていたのは移民局の職員だ。「やっぱりな・・・」とバディダは絶望の溜息をもらす。これからバディダとバラドは強制送還されるのだ。


 その頃署長室では署長のロックウェルの元に電話が来た。「こんな忙しい時に・・・はい、もしもし。リムソン市警のロックウェルです。」「ああ、ロックウェルさん、ご無沙汰しています。」「チッ、今忙しいんだ。お前ら連邦警察と違ってな。」「そうでしょうね。なにせあなたがたが捕まえた不法移民の強盗をろくな取り調べもしないまま移民局に引き渡すことになったんですからね・・・」「貴様・・・何故その話を?まさか・・・クソ野郎が!」「落ち着いてください、署長。私はまだ何も言っていませんよ。だけど気を付けて下さい。今回強盗逮捕に駆け付けた警官は第7分署の交通課の方々らしいですね。」「ああ、そうだが?」「本当はもらしてはいけない情報なのですがね、実はその分署うちの捜査対象になっています。」「何だと!?」「複数の暴行と組織ぐるみでの売春、収賄の疑いで私の同僚が捜査している。何か彼らの逮捕で不適切なことがあったのならば・・・あなたに責任をとってもらうかもしれません。」「くそ・・・」そう言ってロックウェル署長が舌打ちをして電話を切ると階下に駆け下りた。


 「待て!」バラドを担架にのせて運び込もうとする移民局の職員にロックウェルは呼びかけた。「そいつにうちで治療を受けさせる。」そう言うとロックウェルは受付の事務職員に命じる。「ダニエルを呼んで来い!」だが移民局の職員は食い下がる。「ロックウェル署長、治療は我々が適切に受けさせますよ。今回は我々以外の機関も関与していましてね、せかされて・・・」「ああ、知っとるよ。あんたらを差し向けた連邦警察刑事から電話が来たところだ。多分奴は私がこの移民に治療を受けさせることを知っている。さあ、担架を医務室へ運んでくれ!」

その時医務室付き医師のダニエルが現れた。彼とバディダの目が合う。そして双方とも驚いた。「お前は・・・」と動揺したダニエルであったが、次の瞬間その顔に黒い笑みが浮かんだ。「殴られたのか?お前の手当もしてやろう。おい君達、もう一人の移民も運べ。」


 ダニエルはバラドを見やっていう。「足が折れているようだ。腕は関節がずれているが直せるだろう。それから鼻と口・・・出血がひどいな。とりあえず止血しておいてくれ。」「わかりました、ドクター。」

 もう一つの手術台に近づくダニエル。「確か・・・君の腹の中にはまだブツが入っていたよな?」「な・・・何のことだ?」「おいおい、分かってるだろう?ブツってのはな、あんたの腹の中に隠された・・・・麻薬のことさ。カルテルの連中が君を使ってヤクを運んでいたが君は逃げ出したな。」「くそ・・・その・・・」「まあいい、安心してくれたまえ。カルテルの連中は残忍だ。奴らは裏切り者を許さず、拷問した末に殺すだろう。裏切ったとはいえ、君をそんな目に合わすのは忍びないな。だから私は・・・このことをカルテル側には黙っておこう。その代わり・・・」と言いながら麻酔薬の入った注射器を取るダニエル。「ブツは回収させてもらうぞ。これからお前を病院に移送する。安心しろ。ロックウェルに頼んで移民局の連中を説得してもらう。」


翌日

 手術室から出たバディダを出迎えたのはホランドだ。「ほう・・・ダニエルにバレてしまったみたいだな。だが奴がカルテル側じゃなくてこっちの味方になってくれてよかったよ。」とホランド。

 「ええ。ところでバラドは・・・」「安心しろ。リムソンシティ移民局長とは昔から仲良しでね。移民局に移送されたふうを装ってチカーノのアジトに送らせたよ。これでラキア人どもも騙せるしな。」「よかった・・・ありがとうございます。」

 その時ダニエルがやって来た。「やあ、ホランドさん。あなたがカルテルの依頼を断った殺し屋ですな。」「何だって!?」「ホランドさん、動揺されておられるようですな。しかしですね、驚くことじゃない。ホランドさんがカルテルの依頼を断っただけではなく暗殺対象者を保護していると言う情報は既に裏社会で出回っていますよ。バディダを狙う殺し屋はあなたも狙っている、身辺に気を付けることですな。」「心配ありがとう。だけど私は殺し屋じゃないし別にバディダの保護者でもない。アドバイスには感謝しよう。さてバディダ、いくぞ。」そうしてホランドがバディダを連れ去ろうとした時、ダニエルは呼び止める。「バディダ、せっかくの縁だからこれからも何か頼むことがあるかもしれない。そのときは快く引き受けてくれるな?」バディダは嫌々ながら頷いた。彼の頼み事を聞かなければ恐らくダニエルはカルテルにバディダの裏切りをもらすだろう。


 帰りの道中、バディダはバラドについて尋ねる。「バラドは治療されていましたか?」「ああ。ダニエルはクソ野郎の売人だが腕はいいぞ。」「ならよかった・・・なにしろサツ共の暴行がひどくて、それに留置場でも何の治療もなされずに・・・」「ああ。バラドは運が悪かった。よりにもよって白人至上主義団体との関連性が噂される分署の奴らにパクられたんだからな。」「白人至上主義?」「ああ。お前は自由を求めてこの国に来ただろう?」「ええ。そうです。カルテルの連中に引き渡されて全てを失いましたが・・・」「ああ。そうだな。お前を密入国させた業者がカルテルと繋がっていたのは運が悪かった。だけどな、仮に密入国業者がお前を最初からこの街に送り込んで来たとしてもお前は自由を手に入れられないだろうな。」「え?」「お前はキューバでアメリカは自由の国だとかなんだとか聞いただろう?だけど実際は違う。発展の裏には貧困があり、そして人種問題が存在する。白人と黒人間の憎悪。この街に黒人街があり、そこに黒人ギャングどもがいるのはそういうわけだ。奴らは外部から黒人以外を歓迎しない。昔何を間違えたか黒人ギャングのシマに入り込んでしまった白人がいたんだ。彼女はギャング関係者ではなく、新聞記者だったが、この地域のルールを全くリサーチしていなかったんだ。彼女は・・・殺されたのさ。」「・・・・」「一方の白人も分署の奴らのような暴力的な手段を用いて黒人に危害を加える。彼らは互いに争い合っている。この国は多様が故に衝突が多く生じる。あんたらの面倒を見ているチカーノとコロンビア人の対立だってヒスパニック同士だが同じようなもんだろ?彼らは先祖の出身国の違いを理由に対立している。」「・・・・」「アメリカは自由の国など幻想だぜ。」

 バディダはアメリカ社会の抱える人種問題に思いを巡らせながらもある疑問をぶつける。「バラドを暴行した分署のサツ共は制裁を受けるんでしょうか?」「さあな・・・だけど多分リムソン市警は彼らに対して何の処分も下さないだろう。」「何ですって!?」「分署の奴らは本部にも友人が多くてな。本部の上層部でさえ奴らの勢力を恐れている。隠ぺいする側にまわるだろうよ。」「なんてことだ・・・」「だがなバディダ、俺は連邦警察特別部長刑事の立場から見ている。今回の暴行事件を君とは違う捉えかたをしているんだよ。」「・・・・」「彼ら白人警官による暴行と組織的な隠ぺいはよろしくないことだ、だろう?」「ええ、もちろん。」「だがそれを我々連邦警察が知っていながら告発しなかったら?」「その・・・連邦警察も制裁を受けてしまう?」「ああ、なるほどな・・・もう少し打算的に考えないとな。」「打算的?」「そうだ。我々連邦警察はリムソン市警の行為の弱味を握っている状態であると言えるだろう?」「・・・・」「そういうことだよ。バラド君には申し訳ないけどな、今回の暴行事件は我々も隠ぺいに加担する。」「・・・・」「ああ、残酷だよな。だがさっき言ったようにアメリカ共和国は決して居場所のいい場所ではないよ。我々だって汚いことに手をそめなければいけないさ。お前だってこのリムソンシティで生き抜くために犯罪行為を犯してきただろう。我々警察機関も生き残るためには冷酷でなければならないんだよ。」「なるほど・・・」バディダはこの国の醜い側面を見て気がしてあまり気分がいいものではない。

 そのときホランドが再び口を開く。「白人警官どもの蛮行は隠蔽するがなあ、バラドとお前が受けた暴行に対して復讐する相手ならいるぞ。」「へ?」「バラドから聞いたがお前たちはレイモンドという男に依頼されて彼の店に侵入したんだよな。彼が市から補助金をふんだくれるようにな。」「ええ、彼の話は合っています。」「とすればだな、この侵入計画はあんたとバラド、そしてレイモンドしか知らない筈だよな?」「え、そうですが?」「その状況下で、そして人通りもほぼなかったあの状況下で誰があんたらの事を警察に通報したんだ?」「え?それは・・・たまたま通行人がいて・・・」「真夜中にか?」「・・・」「そうだ。恐らくな、通報者はレイモンドだ。彼は匿名のタレコミか店主の立場としてか分からんがお前らに報酬を払うのが惜しくなったんだろうな、リムソン市警に通報した。」「でもそうすれば・・・」「市警にはレイモンドの企みはバレない。嘘をつきとおすからだ。恐らくお前たちが不法移民であることも見抜いていたのだろうな。サツは・・・たとえ差別主義の野郎どもでなくても・・・不法移民よりも市民のいうことを信じる筈だ。」「何と・・・」「そうだ。君達二人はレイモンドに嵌められたんだよ。」


三日後 ロッコ商業地区

 「ええ、お引き受けしましょう。血痕を完全に抹消するうえ、ご贔屓様ですから特別にお車全体の部品を一新して新品同様にいたしましょう。」と言ってレイモンドは受話器を置く。

 「ったく・・・愛人を殺すとは血気盛んなマフィア野郎だぜ。あんな単細胞野郎が何故トップになれたのか疑問だな。」とつぶやいてコーラに手を伸ばした時であった。「ちょっと失礼するぜ!」勢いよく扉が開いて二人の男が入って来た。

 「よお、この間の依頼をこなしたから給料を受け取りに来た。」とバディダ。「き、君達は・・・」「おいおい、爺さん、驚いてるね。どうした?もしかして俺たちとっくに移民局に連れ去られたと思ってた?」とバラドが追い打ちをかけるように言う。レイモンドは声を絞り出し、言う。「どうやって逃げたんだ?」「何の話だよ。サツに捕まったことを知ってるんだな?」とバラド。レイモンドは溜息をついて言う。「すまねえよ。本当に。お前らを見くびっていた。」「ふうん。」と言いながらピストルを取り出すバディダ。バラドもピストルを取り出す。「おいおい・・・待ってくれ!頼む。殺さないでくれ!俺には大勢の顧客がいる。俺が遺体で見つかればお前たちは俺の危険な顧客たちから・・」「勘違いしないで欲しい、レイモンドさん。俺らは別にあんたに制裁を加えに来たわけじゃない。あんたにある提案をしに来たんだ。」「で、答え次第では・・・・」と言いながらバラドがピストルを掲げる。「なるほど・・・聞こう。」とうなだれてレイモンドは言う。「よし、説明するぞ。」と言ってバディダは自分達の提案を話し始める。


 あんたも見抜いていたと思うが、俺らは難民だ。キューバから亡命してきた。俺はバディダでこいつはバラドだ。俺らは今チカーノの連中に世話になってる。バラドは元々ラキア人の下働きをしていたが奴らはこいつを奴隷のように扱ってた。チカーノは優しいがいつまでも世話になっているわけにはいかないだろう?俺らも自立しなきゃならねえ。意味は分かるか、レイモンドさん。そうさ、キューバ人ギャングを結成する必要がある。そこでだ、あんたに協力してもらいてえことがある。あんたの幅広い人脈に俺らを売り込んでくれ。さっきあんたが口にした「危険な顧客たち」にだよ。俺は最近殺しを習得したしこいつはキューバにいたころからヤクの売人をしている。あんたから売り込んでくれよ。俺らは役に立つとな。それとな・・・これまたあんたの人脈頼りになるが・・・おれらのアジトを作るために最適な場所を見繕ってくれ。全て無償で頼む。仲介料などは一切払わんからな。


 「分かった。」と提案を聞いたレイモンドは言う。「なんとかしてみよう。」「ああ、頼むぜ。俺たちの用はそれだけさ。」と言って二人のキューバ人は車屋を立ち去った。

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