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ショートショート9月〜4回目

おかしなモノが落ちている緑道

作者: たかさば

 私が愛してやまない緑道には、たまにおかしなモノが落ちている。


 ところどころ雑草がちょびちょび生えているアスファルトの上に点々と転がる、白いキノコ。

 手入れの行き届いていない生け垣に引っかかる、古めかしい…だがしかし爽やかな香りのするシミーズ。

 サビだらけのベンチの下に押し込まれた、教科書のたっぷり入った学生カバン。

 小学校の運動場横の芝生に転がる、黄色いボール。

 トイレの横に放置されている、どう見ても怪しいゴテゴテのブランドスーツケース。

 炎天下、明らかに横を流れる川とは反対方向に向かう、手のひらサイズの亀。

 鍵を無くした自転車を抱えて、汗だくになっている子ども。

 ダンボールにみっちり詰まっている、猫。


 もうずいぶん長い事…毎日通って来た道なので、色んな出来事が積み重ねられてきただけなのかもしれない。

 けれど、散歩を通じて知り合った皆さんからはあまりそういう話を聞かないので…私はわりと引きのいいほうではあるのだと思う。


 常にネタを探して…キョロキョロとあちこちを見渡しながら歩いているからか、おかしなものに気がついてしまいがちなのは否めない。

 さらに言えば、私はわりとかなり相当見て見ぬふりができないタイプで、見つけてしまったからには自分の力でどうにかなりそうな事象には手を出さずにはおられないという癖があるのだ。


 おそらくやんちゃ坊主がむしったであろう、芝生に群生している白いキノコは、自慢の過体重で踏み潰しておいた。

 食べられるキノコだと思ってちびっ子が持ち帰ったり犬さんが食べたりするとヤバイかなあと思ったので。


 まだ乾いていないシミーズは、ハンガーごと緑道横の大型マンションのエントランスに引っ掛けておいた。

 位置的にそこに住む住人が落としたとしか思えなかったので。


 学生カバンの中に学生証が入っていたので、運動ついでにと学校まで届けた。

 発見状況を伝えつつ、ついでに持ち主の友好関係なんかも探った方がいいのではと進言してみたり。


 小学校の運動場でソフトボールの練習をしている集団の足元に黄色いボールが見えたので、フェンスの向こう側に投げ込んであげた。

 少年たちが声をそろえて『ありがとうございマース!』と言ってくれて嬉しくなった。


 トイレの横にスーツケースが放置されていると警察に通報した。

 怪しいものは手出しをするより専門家に任せた方が良いにきまっている。


 おそらく亀は水辺に向かいたいと思ったはずなので、川岸に足を伸ばして浅瀬に置いた。

 もしかしたらウサギとの競争中だったのかもしれないが、干上がるよりはマシってね?


 最近の子ども用自転車は軽いんだな、そんな事を思いながら緑道と市道を歩いた。

 親が出てくるとめんどくさそうなので、立派なお宅の前で手を振って別れてそれっきりだ。

 今ではかっこいいバイクが並んでいるのだから、時間の流れる速さときたら、もうね。


 さすがに六匹を抱えて家まで持っていくのはキツイな、そう思っていたらわらわらと猫好きさん達が集まってきて、私は空のダンボールだけ抱えて家に帰ったんだよ。

 子猫大好きのうちのポップコーン猫が、猫の入っていないダンボールを気にして大変だったんだよね。俄然育てる気満々だったらしくて、数日へこんじゃってさあ。


 きっと、これからも…私はこの緑道で色んなものを見つけるのだろう。


 そしてそのたびに、おせっかいにも手を出し口を出しあれこれやらかし、思い出のひとつにしていくに違いないのだ。


 …いやあ、良い話だな、うん。


 そんな事を思いながら、いつもの交差点を曲がろうとして。


 ……うん?

 なんか、ええと……、違和感のような、ものが…ふわりと……。


 あたりをキョロキョロと見渡して、いつもと違う部分を…探る。


 何か、落ちている?

 いや、落ちていない。

 何か、聞こえる?

 いや、聞こえない。


 何だ、この違和感。

 …胸が、ざわつく。


 ちょっと待て、あわてる前に、まずは落ち着いて…今日一日を振り返ってみよう。


 ええと、今日は…ショートステイ二日目で、まるっと一日自由時間があるって事で久しぶりにのんびりと緑道を前制覇しようと思って、朝からおにぎりをたくさんこしらえて、リュックに詰め込んで、むぐちゃんにおねだりされたからママのお許しをもらっておすそ分けしてあげて、べろんってされて、顔をジャブジャブ洗って、スッキリして・・・あれ?


 ちょっと待て、私、リュック、持ってない!!


 いつもいろんなモノを見つけている私は、自分の忘れ物を探しに行くべく、踵を返したというお話……。

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