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伯爵令嬢と辺境伯爵 2

 王城へ向かう大通りに面した広い道路を、エンジンを噴かせながら爆走します。すでにパーティー開始1時間前となると、ほとんどの貴族の方々は王城についており、道路を行き交う馬車は見当たりません。


「うっぷっ」


 助手席で口を押さえ吐き気と格闘しているのは、先程褒めたばかりの侍従クルスです。


「だらしないですね。クルス」


 そう言って、平然とした顔をしてクルスを嘲笑うように鼻で笑ったのは侍女のカリンです。そのカリンは後ろの席からクルスに薄荷の飴を渡しています。


 ということは、運転席にいるのは勿論、私になるのです。


「もう少しブレーキに遊びが欲しいわね。あとサスペンションが弱いのではないのかしら?振動が直に響いてくるわね」

「かしこまりました。技術開発部門に命じておきます」

「魔動式二輪車は上手く行っていたのに、同じではないの?」

「それは、お嬢様が競争させると効率が良くなるとおっしゃったために、担当を別々にしたことによる違いです」 


 確かにそのようなことも言いましたわね。

 しかしこういう精密な物は、競争よりも協同の方が良かったのでは無いのでしょうか?


 そんなことを考えながら、門が開かれた脇道に入って行きます。脇道と言っても、一等地に建てられたタウンハウスの敷地内です。


 そこからはアクセル全開で思いっきり踏み込みます。


「ヒー!お嬢様!これ以上は壊れてしまいます!」


 石畳の段差が直接振動となって響いてきます。


「目測で時速五十kmぐらいでガタガタ言わないでほしいわ」

「ガタガタしているのはお車のほうです!お嬢様!うっぷ」


 クルスが文句を言ってきますが、それは振動が直接伝わってくるのと、タイヤとして使っているスライムを加工したものが、硬すぎるからでしょう。やはり、商品化にはまだ早かったですのに、どこぞの誰か様が欲しいと駄々を捏ねたために、このような不出来なものを世の中に出すことになってしまったことに、後悔しかありませんわ。しかし、これでも初期の頃よりは改善はしておりますのよ。だって、思いっきり踏み込んでも時速三十km程しか速度が出なかったのですもの。因みにどこぞの誰か様に渡した商品は、私が直接手を出しましたので、そこそこの出来にはなりました。


「お嬢様の言われる単位はよくわかりませんが、それは遅いということでしょうか?」


 そうでしたわ。こちらの単位はサルトでしたわ。二十七サルトぐらいでガタガタ言わないでほしいということです。


「カリン。これでは騎獣の代わりに地道を爆走できないでしょう?騎獣より遅い車なんて行商に使えないじゃない」

「今、荷馬車で行っている行商をこの車で行なうおつもりなのですか?わたくしが意見するのもおこがましいかと思いますが、それほど商品を積めるとは到底思えません」


 確かに広さは四人乗れば、いっぱいの広さしかありません。


「あら、カリン。騎獣が荷馬車を引くように、車にも荷台をつければいいのよ」

「「流石!お嬢様!」」


 二人して私を褒めてくれるけれど、私の知識は大したことはないのです。ただ、ここではない前世という記憶の知識があるだけ。


「だから、三人乗ってアクセル全開にもかかわらず、二十七サルト程しかでないのでしたら、私が思い描く道筋には程遠いですわ」


 そう答え、私はハンドルを切りながら、大きな屋敷の玄関前に横付けをします。若干横に滑りながら停車したので、玄関前で待機している者に驚かれてしまいましたわ。


「お嬢様。私は途中退場させていただいてもよろしいでしょうか?」


 クルスが口元を押さえながら、青い色を通り越して白い顔を私に向けて、このまま休憩したいと言ってきますが、クルスにも付いてきてもらわなければなりません。


 ですから、クルスに回復の魔術を掛けて、無言で仕事をしろと視線を送ります。


「お嬢様。感謝致しますが、このようになっても、下僕は文句を言わずに働けということですね。所詮、私は下僕でございますから」


 そう言ってクルスは車を降りていきますが、言い方が悪いです!下僕ではなく侍従ですわ!きちんとお給料は支払っておりますわよ。そんなことを平然と口にするから、私にいらない噂がつきまわるのです。


「オーナー。お待ちしておりました」


 そう言って、ドアマンが車まで駆けつけて、扉を開けてくれます。


「グラナード辺境伯爵様をコートドランが必死に引き止めているところでございます」

「ええ、助かったわ。後でコートドランに何か褒美でも渡しておきますわ」


 そう言いながら、私は車から降ります。すると素早くカリンが私のドレスが乱れていないかチェックして整えてくれます。


「車は車庫に回しておいて」

「かしこまりました」


 頭を下げるドアマンの横を通り過ぎ、私が暮らす屋敷よりも大きな建物を仰ぎ見ます。


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